モンキーズ・レインコート
『モンキーズ・レインコート ロスの探偵エルヴィス・コール』ロバート・クレイス(新潮文庫)

ネコと同居し、ヨガと中国拳法を操る、タフでクールなヴェトナム帰りの私立探偵エルヴィス・コールとマッチョな相棒ジョー・パイク。「軽い仕事」のはずだった失踪父子の捜索は映画界につきもののコカインがらみでシンジケートとの対決へ……スプリングスティーンのしゃがれ声が似合う冬のロサンジェルスを舞台に粋な探偵の生き様を描く、エルヴィス・コールシリーズ第1弾。(本書あらすじより)

お、俺はこういう私立探偵小説に、めっぽう弱いんだ……傑作ではないか……。
というわけで、ロバート・クレイスのエルヴィス・コールシリーズです。以前ノンシリーズの『容疑者』を読みましたが、今度5月だか6月だかにエルヴィス・コールシリーズと『容疑者』シリーズのクロスオーバー作品が訳されるとかで、急ぎデビュー作のハードボイルドを手に取ってみました。いやぁ、ネオ・ハードボイルドは最高だなぁ。

息子を連れ去った旦那探し、という事件が、途中からコカインをめぐるマフィア絡みの事件に、という話自体はそこまで奇をてらっていません。主人公エルヴィス・コールもよくある軽口系私立探偵のように見えます。ところがこれがなぜかめっちゃ面白いのです。というのも、これぞ娯楽小説!ってな感じの要素がふんだんにちりばめられているんです。

私立探偵が(警察が止める中)積極的に事件に介入していこうとする流れがきちんと描けているのがまず好感度高いです。警官と探偵のお互いをプロと認めあった関係も、都合良いなぁと思いつつも、この全体的に軽めな雰囲気の中では程よく感じられます(警察の上層部とはちょっともめているので調度良いのかも)。事件が次第にオオゴトになっていく中でも、主人公たちの行動が「息子を取り戻す」という当初の目的から外れていないのも良いですね。
そして息子を取り戻そうとする母親の教養小説としての側面がまた非常に上手いんです。もともとは気弱で、意志がはっきりせず、強引な女友達に引きずられがちだった彼女が、試練にさらされる中で行動的になっていく……というのは読者の予想するところなのですが、これがまた読ませるのです。その強引な友人を配して話にカツを入れているのが特に上手いですね。冒頭とラストの繋がりの見事さったらないです。

それでもって、終盤は完全なアクション小説になっちゃうってのがまた好き。もうひたすらガンアクション。主人公エルヴィス・コールも、マッチョな相棒(バトル担当)ジョー・パイクも、わりかし躊躇なくマフィアを殺しまくります。ここがくどくなく、かっこよく見せ場として作られているので、単純に読んでいて楽しいんですよ。

軽めだけど軽すぎず、独特なぬるさが漂ってはいてもシリアスなところはシリアスに決め、かつ重苦しくならない、実にちょうどよいエンタメでした。いやー面白かったなぁ。次はまたエルヴィス・コールものでもいいし、ジョー・パイクシリーズのアクション小説でもいいかも。
ところで自分の持っている1989年初版の『モンキーズ・レインコート』(1987)のカバーに、1992年に翻訳が出る『追いつめられた天使』(1989)が書かれているのは、予告なのか、それとも2作目の時にカバーを掛け替えたのか。後者なら重版しなかったということに……まぁ新潮文庫からは2作で止まっちゃいましたしねぇ。

原 題:The Monkey's Raincoat(1987)
書 名:モンキーズ・レインコート
著 者:ロバート・クレイス Robert Crais
訳 者:田村義進
出版社:新潮社
     新潮文庫 ク-11-1
出版年:1989.02.25 1刷

評価★★★★☆
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容疑者
『容疑者』ロハート・クレイス(創元推理文庫)

ロス市警の刑事スコットは相棒とパトロール中、銃撃事件に遭遇する。銃弾はふたりを襲い、相棒は死亡、スコットも重傷を負った。事件から九ヶ月半、犯人はいまだ捕まっていない。事件前の決定どおり警備中隊へ配属となったスコットはそこで新たな相棒に出会う。アフガニスタンに従軍し、そこでスコットと同様大切な相棒を失った大型の雌のシェパード、マギーだった。アメリカ探偵作家クラブ生涯功労賞受賞の著者、渾身の大作登場。(本書あらすじより)

ハードボイルドシリーズなどで有名なクレイスさんですけど、当然一冊も読んだことありません。ちょっと読んでみたいかも。あとノンシリーズの評判がいいですよね、この人。そしてこの『容疑者』もノンシリーズであります。なんとわんちゃんものです。警察犬なのです。
犬目線で始まるプロローグがさっそくずるくて(褒めてる)、かわいいわんちゃん(シェパードだから超でかい)が「ご主人様のために頑張ります」って言いながら心身共に傷ついた主人公と一緒にいちゃいちゃしているだけの話(と言えなくもない)。ふざけんなよ、こんなん面白いに決まってるじゃないですか。

戦争で相棒(人間)を亡くしたシェパード(雌)と、街中の銃撃戦で相棒(女性)を亡くした刑事(男性)が出会い、警察犬と刑事というコンビを作り、徐々にお互い打ち解けあい、信頼し合い、寄り添い、いちゃつきながら、その銃撃戦の犯人を捕まえようと奔走します。メインストーリーだけ抜き出すと、普通のハードボイルドらしい感じですね。
刑事は基本的にうっ傷が痛いとか言いながら相棒の女性警官を殺した犯人を追うだけで、このプロット自体はクライムノベル的にあまりにドストレートで捻りも何にもありません。普通です。手がかり追ってけば犯人一味にたどりつきます。淡泊だし。ちなみに最近この手の犯人多すぎないですか、さすがに飽きましたよちょっと。

ところが時たま犬のマギー視点の描写が入ったり、マギーのために手を尽くすシーンとかが入るから、飽きさせないし、めちゃくちゃのめり込んでしまうんです。どうってことない話だけど、まぁ主人公は間違いなくマギーですからね、かわいいよね、わんちゃんかわいいね。警察犬を相棒に据え、警察犬目線の章まで書いてしまった、というだけでこれはもう設定の勝利です。何にも言うことはありません。

というわけで、感想はもうこれくらいなんですけど、とっても面白かったですよ。ここまで読んで興味が出た人はたぶん好きです。犬が出て来るからどうしたよ、俺は骨太なクライム・ノベルが読みたいんじゃ、という人は……だ、ダメだろうな。
ところでこのタイトルは結局なんだったんだろう……。

書 名:容疑者(2013)
著 者:ロバート・クレイス
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mク-23-1
出版年:2014.09.19 初版

評価★★★★☆