サンディエゴ・ライトフット・スー
『サンディエゴ・ライトフット・スー』トム・リーミイ(サンリオSF文庫)

どうせサンリオSF文庫のあらすじはダメダメなのでいちいち書くのはやめました(本当は手元にないので本書あらすじが分からないだけ)。
さて、以前1000円でこいつを買ったんですが、この間後輩君がフレッド・カサック『日曜日は埋葬しない』を拾ったとかで、こいつと交換することになったのです。それであげちゃう前にあわてて読んだ次第。
リーミイは、この短編集の収録作品と、長編『沈黙の声』一冊しかこの世に残さなかった、という作家。早逝してしまったのです。仮定の話をしても仕方ありませんが、もっと長生きしたら、どんな傑作を生みだしたのでしょうか。

総括すると、SFというよりはファンタジーで、内容はホラー、ハードボイルド、サスペンス、恋愛と実に多彩。打率は微妙です。個人的には恋愛ものの出来がよく感じられました。というわけで、これぞ傑作集!!!とかそういうんじゃないんですが、でも表題作のためには読むっきゃないのです、これを。これでしか読めないし。
リーミイの文章は細やかで繊細で、人間に対する愛と希望が満ち満ちています。根が善人なんでしょうね。だから、当たりの短編では、読んでいて幻想的な多幸感がすごいのです。特殊設定を取り入れつつメインは悲喜こもごもで、しかも特殊設定がそれを上手く支えている、というか。
ただ当然ハズレもあるわけで。個人的によく分かんなかったやつとか、書きたいことだけ詰め込んだだけのような微妙すぎるやつもあります。たぶん、この短編集がリーミイのベスト集ではなく、全短編集だからなんでしょうね。ちなみに、分厚いけど読みやすいです。訳もすごくいいし。と思ったら訳者は井辻朱美さんでした。そりゃうまいわけだ……。

ベストは素敵すぎる恋愛譚の表題作、それとエリスン一押しのハードボイルド風「デトワイラー・ボーイ」。他に「スウィートウォーター因子」は壮大なホラ話感があってこれもお気に入り。あとはピンキリ。ストレートすぎるだけに、ホラーとかはもう可もなく不可もないようであるくらいのクオリティになってしまうのかな。

以下、超簡単に個別の感想です。なお、年代はそれぞれ発表年。この短編集自体は1979年に本国でまとめられたものです。

「去りゆく影を抱きしめよ」
ハーラン・エリスンによる序文。なんと30ページもあります。しかし、これがとても良いのです。ひたすらリーミイの思い出を語り、各作品についてコメントをつけています。

「トウィラ」(1974)
タイトル=子供の名前物です(つらい(苦手))。トウィラなる女の子がなにやら怪しく、それに気づいた女教師が色々と頑張る話。悪逆非道なる女の子は危険。
後半いつの間にかミステリかーらーのーファンタジー展開、が熱いです。先生かっこいいなぁ。予定調和というのはいいものです。

「ハリウッドの看板の下で」(1975)
今度もセックスの話で、今度はゲイ。ぶっちゃけよく分かりません。こいつらは生命の何を糧にしているんですか。俺も勃起してしまうような美少年に出会ってみたい……あ、なんでもないです。

「亀裂の向こう」(1974)
閉鎖的な集落で子供たちが突然変化していくホラー。
……超こわいっす。子供を平気で殺していかねばならない異常っぷり。終わりのなさ。うぐぇ。

「サンディエゴ・ライトフット・スー」(1975)
美少年が、いくらか年上の女性スーと出会う恋物語。
やばい、これは傑作です。純真無垢と善の限りなく美しくもの悲しい融合。登場人物全てが愛おしくってたまりません。究極の愛は至高。人間は望みすぎてはいけないけど、スーの気持ちも痛いほど伝わります。エリスンの解説もいいですね。ああああああこれはいいぞおおお。

「ディノサウルス」(1976)
意味分からん……(あらすじ放棄)。リーミイが好きな近未来SFっぽい要素とか謎の生き物とかストーンとか入れたら楽しくねと思って詰め込んだだけという感じ。あれは機械とか人工知能とかそういうやつなのかな、全然分かりませんが。

「スウィートウォーター因子」(1976)
ショートショート。スウィートウォーターなる男の周囲では何かがおかしい、という話。
うん、これは好き。奇妙な味系の短編集に入ってそうですね。不条理でシニカル。無秩序の生み出す安定性。スウィートウォーターの生きている世界は実に楽しそうです。これぞオチってやつですよ。ああ、チョコバナナを食べたい。

「ウィンドレヴン館の女主人」(1976)
エリスンの解説を読んでどういう話なのかやっと分かったくらいには鈍いのです、自分。そんなもんだから読んでてピンとは来ませんでした。っていうか名前がぐっちゃぐちゃなのはなぜでしょう。

「デトワイラー・ボーイ」(1977)
ロサンゼルスの奇妙な連続変死事件を私立探偵が捜査します。
今回はハードボイルド風のファンタジー。リーミイは人間の善意を愛している作家なんでしょうね。そして人間の善意とハードボイルドは上手く合わせると極上の人情話になるのです。当然です。ミステリ→ファンタジーへのシフトもいつも通り見事。これは良作。

「琥珀の中の昆虫」(1978)
大雨により立ち往生した人々が、唯一そこにあったお屋敷に入っていくと……。
超能力者 vs 悪霊。ところどころで展開があまりに急に変わると思ったらこれは映画用長編案を短編化したものらしいですね。エリスンはこの短編集の中でこれを唯一のゴミと断じていますが、それほどひどくはないと思います。というかイチャイチャしてるからね、いいんです。

「ビリー・スターを待ちながら」(1978)
1日に20人からプロポーズされるような美女が、ひたすら愛している男に振られる物語。
西部劇っぽいけど舞台は現代。言葉少なに語られるからいいとも言えますが、正直凡庸だと思います。

「二〇七六:青い眼」(1979)
未来というか異世界を舞台にした未完ファンタジー。おそらく長編の予定だったのでしょう。
最後のあたりにリーミイっぽさは感じるけど、正直なんでこれを収録したのか疑うレベルでつまらない作品。あくまで未完な上に、なんですかこのテケトーなファンタジーは。読んでて一番楽しくなかったんですが、まぁ本書がリーミイ全短編集なだけに仕方ないというか……。

「トム、トム! ーある思い出」
リーミイの友人であるハワード・ウォルドロップによるリーミイの思い出語り。ハーラン・エリスンによる素晴らしい序文の足元にも及びません。完全に不要。

書 名:サンディエゴ・ライトフット・スー(1979)
著 者:トム・リーミイ
出版社:サンリオ
     サンリオSF文庫 63-B
出版年:1985.11.15 初版

評価★★★★☆
スポンサーサイト