マローン売り出す
『マローン売り出す』クレイグ・ライス(光文社文庫)

秘密の結婚式をあげたばかりの花嫁ホリーは、その夜、不快な夢を見た。絞首用のロープで吊るされている夢…。午前三時、謎のベルの音で目覚めたホリーは、その音に導かれ、胸にナイフを突き立てられて、凍りついている伯母を発見した! シカゴの名探偵にして名弁護士、ジョン・J・マローンがデビュー、ジェイクとヘレンの名コンビも初登場のシリーズ第一作、ついに発掘!(本書あらすじより)

クレイグ・ライスと言えば、『スイート・ホーム殺人事件』の旧訳版(なぜかですます調で訳されたという素晴らしい作品)がマイベストミステリに入るレベルで好きなわけですが、そのあと読んだ『大はずれ殺人事件』が全くはまらず、気付けば6年以上経っていました(先日スチュアート・パーマーとの合作『被告人、ウィザーズ&マローン』を読みましたが、あれはパーマー主導で書いたもののようですし)。先日小鷹信光さんが亡くなり、実は今まであまり訳書を読んでいなかったので、積ん読から漁ってこちらを読んだ次第。まぁユーモア・ミステリの翻訳って小鷹さんのメインのお仕事ではないと思いますが……(それだけハードボイルドを積んでいないということでもある)。
というわけで、酔いどれのJ・J・マローン弁護士、およびジェイク&ヘレンシリーズ第1作です。創元版タイトルは『時計は三時に止まる』。違法スレスレのドタバタとユーモアと酒と本格で有名なこのシリーズですが、1作目の翻訳は他作品と比べてずいぶん遅れたのです。小鷹さんの後書きによれば、原書が超入手困難の稀覯本であったためだとか。ちなみに2作目の The Corpse Steps Out も同様の稀覯本であり、この本出版時にはまだ小鷹さんが入手されていなかったようですが、関根克己氏のコレクションから見つかったようで、1988年にはEQに訳出され、後に創元推理文庫から『死体は散歩する』のタイトルで出ています。なおアメリカ本国でも1980年代後半以後何度か復刊されており、現在では入手が容易なようです。

今回読んでみたら、うわっマローンシリーズってこんなに面白かったのかよ、と終始大興奮でした。捜査を(ほぼ非合法的に)助けるジェイクとヘレンのぶっ飛びっぷりが楽しく、案外常識人のマローンの名推理もキレキレ。いやはや超面白かったです。

冒頭でヘレンの友人ホリーは伯母の死体を発見するのですが、その場面の悪夢のような雰囲気がいきなり異様です。時計が三時に一斉に止まっていた、という意味不明の夢のような話をして殺人容疑で捕まってしまった彼女を助けるため、ジェイクやマローンたちが奔走します。調べていくうちに、ホリーの話はおかしいどころかあり得ない状況であることすら分かり、やや不可能殺人っぽいところも本格としてナイス。事件の真相自体はえっそんな理由かよみたいな感じですけどね、ぶっちゃけ。

というわけで本格ミステリとしてもかなり面白いのに、それに加えてキャラクターユーモア小説として抜群に楽しいのはさすが。まーみんな飲むこと飲むこと。スピード狂のヘレンは車をぶっとばすし飲むし(いまこんな飲酒運転まみれの本を出版したら大変だな……)。漫才のような掛け合いに終始彩られており、それが冗談じゃなく滑らずひたすら楽しかったです。
なお、今作でジェイクとヘレンは初めて出会い、恋に落ちるわけで、これはイチャミスでは!と思ったんですが、最後にくっつくまでやきもきさせるパターンなので違いました。残念。

というわけで久々のライスを満喫してしまいました。いま読むと『大はずれ殺人事件』も面白いのかも。評判のいい長編が多いですし、ちょっとずつ手を出していきたいところです。

原 題:8 Faces at 3(1939)
書 名:マローン売り出す
著 者:クレイグ・ライス Craig Rice
訳 者:小鷹信光
出版社:光文社
     光文社文庫 ラ-1-1
出版年:1987.05.20 初版

評価★★★★☆
スポンサーサイト
『大はずれ殺人事件』クレイグ・ライス(早川文庫)

ようやくのおもいでジェークがヘレンと結婚したパーティの席上、社交界の花形、モーナが”絶対つかまらない方法で人を殺してみせる”と公言した。よせばいいのにジェークはその賭けにのった─なにしろ、彼女が失敗したらナイト・クラブがそっくり手に入るのだ! そして翌日、群集の中で一人の男が殺された……弁護士ジョン・J・マローンとジェーク、ヘレンのトリオが織りなす第一級のユーモア・ミステリ。(本書あらすじより引用)

こないだ読んだ『スイート・ホーム殺人事件』があまりに面白かったので、誕生日プレゼントとして弟に買ってもらいましたが、やや期待外れ、でしょうか。スイートホームがレベルが高すぎて、期待しすぎたと言うのがいいのかもしれません。よくできている作品だとは思いますが、ネタをからませすぎたのがイマイチなのかも。

とにかくギャングは出てくるわ、ピストルがぞろぞろ出てくるわ、車は突っ走るわ。それでも本格には違いないというのが、ライスの本領発揮ですね。普通の作家なら、途中でミステリーらしさが完璧に行方不明になるところです。マローンものの初読だったせいか、最初いまいちキャラクターの性格(主にジャスタス)がよく分かりませんでした。それに冒頭が妙にテンポがゆったりしていて…。一度とっかかりをつかめば、後は一気に読めると思います。

以外に犯人当てとしての要素もたっぷりでした。賭けをしたモーナは、やっぱ犯人じゃないんだろなぁと読んでいると、関係者全員に次々ともっともらしい動機が出てきてわけわかんなくなってくるし(笑)最後のマローンの書類からの推理は論理の極み、見事なものでした。

ライスの小説の中では、明らかにユーモラスな行動をとる人がわんさかとでてくるのに、誰もつっこまない、それが自然なんだという雰囲気が良いんだと思います。漫才が二人ともボケで、どっちもつっこまないといった空気(ラーメンズに似てるような……)。今回の作品が「大あたり」にどうつながるのか期待したいですね。

書 名:大はずれ殺人事件
著 者:クレイグ・ライス
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 28-2
発 行:1977.4.30 初版
     2003.4.15 21刷

評価★★★☆☆
『スイート・ホーム殺人事件』クレイグ・ライス(ハヤカワ・ミステリ文庫)

お隣の奥さんが何者かに射殺されたと知って、カーステアズ家の子供たちの頭に浮かんだのは、ママのことであった。もしも女流作家であるママが犯人を捕まえれば、有名になって小説も売れるにちがいない!ところが肝心のママは新作にかかりっきり。かくして、ちびっこ三人組の活躍が始まるのですが……謎解きをほのぼのとしたユーモアとペーソスでくるみ、ライスがその持ち味をいかんなく発揮する傑作本格ミステリ!(本書あらすじより)

ユーモアミステリで有名なライスの作品を初めて読みましたが、いやー、傑作ですね。こんなに笑えてほのぼのとした作品は初めてです。最後の一行まで楽しみつくしました(ラスト2行は爆笑してしまいました)。

明らかに子供たちが知恵といろんな罠をつかって捜査する、という話なのに、子供向けどころか立派な大人向けの小説であるという点が面白いです。ときおり家庭のほのぼのとした味わいを入れながらもきちんとしたミステリーです(意外と伏線もかなり張ってあった、という)。終始お母さんと捜査に来た警部を結婚させようと目論むのもほほえましいし、口癖が「私は9人の子供を手塩にかけたんです」という巡査部長もいかしています(もうホントに)。というか、登場人物紹介からしてかなりいいです。
本文が、です、ます調で訳されていますが、これは正解でしょう。名訳じゃないかと思います。このまったりした空気は「~た。」じゃ伝わるわけがありません。ただ、このまったりさも、後半には謎解きの味わいを深め、きちんと締めているというのもいいですね。ぜひ読んでみることをお勧めしますよ。

書 名:スイート・ホーム殺人事件
著 者:クレイグ・ライス
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 28-1
発 行:1976.6.30 初版
     1994.2.28 13刷

評価★★★★★