世界の終わりの七日間
『世界の終わりの七日間』ベン・H・ウィンタース(ハヤカワ・ミステリ)

小惑星が地球に衝突するとされる日まであと一週間。妹のニコに、もう一度会いたい――元刑事のパレスは、警官たちが集う〈警察のいえ〉を後にして旅に出る。小惑星の衝突を阻止する方法はあると確信して、地下活動グループと行動をともにしているニコ。今、彼女はどこにいるのだろう? パレスはニコとその仲間たちの痕跡を地道にたどってゆく。終末を目前とした世界を描く、アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作『地上最後の刑事』、フィリップ・K・ディック賞受賞作『カウントダウン・シティ』に続く三部作の完結篇。(本書あらすじより)

明日の引っ越しをひかえ、今日まで大忙しでした。一週間ほどネットがパソコンでは使えない環境になるので、今週は更新できないと思います。
さて、ベン・H・ウィンタースの、隕石衝突までの崩壊する世界での刑事小説/ハードボイルドシリーズ3部作がついに完結しました。いやぁ感慨深いなぁ。『地上最後の刑事』を読んだ時は本当にね、衝撃でしたよ。
今作は隕石衝突まで残り一週間、というところから始まります。いよいよ主人公のパレス刑事は偏執狂じみているし、物語は前作と比べてめちゃ小規模ですし、穴掘ってご飯食べてるだけの話なんですが、それだからこそこの作品は3部作の完結編として完璧ではないかと思うのです。読み終えて生じる深い感動が止まりません。

失踪した妹ニコの捜索を通じて描かれるのは、小惑星衝突まで一週間を切った世界の人々の生活。形はどうあれ、彼らはある種の平穏を求めて、様々な暮らしを送っています。そのような中で、(元)刑事として妹の捜索に死力を尽くすパレスの様子ははっきり言って異常で、どう見ても病気。客観的に出会う人々の小惑星病(衝突を前にしてパラノイアっぽくなる病気)を分析しているパレスですが、彼自身マトモとは思えません。第1作は世界が無秩序に向かう中、しょうもない自殺事件に疑いを持ったパレス刑事がひたすら捜査を続ける話で、こんなしょうもない事件になぜここまでのめり込むのか、という点で既に変人感はありましたが、もうそんなレベルじゃないです。
そして前作『カウントダウン・シティ』は話を大きくしすぎで何だかなぁと思っていたんですが、今回はとことん小さいエリアに話を絞ったおかげで、ひたひたと迫る衝突の日がむしろ意識させられるようになっています。これ以上ないSF世界なのに、一方でそれを極限まで感じさせない作られた”平穏さ”の不穏さがたまらないのです。

意外なことに、今までで一番ミステリ要素も強い気がしました。血痕、指紋、証言、証人といった要素にこれまで以上にパレスが偏執的にこだわり、全てが取り返しがつかなくなった後ですら真相を求めようと尋問を続けるからでしょうか。第1作で感じた、「世界の終わり」での「捜査」というギャップが戻ってきた感じ。結構どんでん返しもあるし、章の引きも強いし、これはまず作者が上手くなったのでしょう。なぜか『そして誰もいなくなった』感もあります。

そしてラストがさぁ……本当によかったのです。これなんでパレスが戻ってきたのかを考えたら、もう、泣きますよ、マジで。ここで終わっちゃうのかという残念さもあるけど、ここで終わらなきゃいけなかったのでしょう。いやーいいもん読めたなぁ。いいミステリであり、いいSFであり、そしていいハードボイルドでした。

シリーズを総括すると、作品世界にのめり込むという点では『地上最後の刑事』がダントツで(あれは読んでいる間中、自分も小惑星衝突が迫っている気分になっていた)、『カウントダウン・シティ』はやや中だるみ、『世界の終わりの七日間』は完全に持ち直して、ウィンタースの持ち味が出せたなと。なかなか稀有な面白さを備えたシリーズですので、ぜひ1作目から読んでみることをおすすめします。

原 題:World of Trouble(2014)
書 名:世界の終わりの七日間
著 者:ベン・H・ウィンタース Ben H. Winters
訳 者:上野元美
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1902
出版年:2015.12.15 1刷

評価★★★★☆
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カウントダウン・シティ
『カウントダウン・シティ』ベン・H・ウィンタース(ハヤカワ・ミステリ)

失踪した夫を捜してくれないか――元刑事のパレスは、知人女性にそう頼まれる。小惑星が地球に衝突して人類が壊滅すると予測されている日まで、あと七十七日。社会が崩壊していくなか、人ひとりを捜し出せる可能性は低い。しかし、できるだけのことをすると約束したパレスは手がかりをたどりはじめる。奇妙な店、学生たちが支配する大学、難民が流れつく海辺……捜索を始めたパレスは、混迷する終末の世界を目にする。アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作『地上最後の刑事』に続き、世界の終わりの探偵行を描いたフィリップ・K・ディック賞受賞作!(本書あらすじより)

去年出た『地上最後の刑事』がかーなーり面白かったので、シリーズ第2作も期待して読んでみました。前作がハードボイルド色が強めで終末色は彩り程度だった(事件とは関係してたけど)のに対し、今作はかなり終末色が強くなり、代わりに主人公が警官ではなくなった分、独自正義を追及する私立探偵ものになった、という印象です。むぅ、とっても面白く読めたけど、期待以上ではなかったかなぁ。

物語は世界が終ろうとする中のアメリカ社会がどのように変化し動いているのか、を描くことが中心となります。闇市とか反政府の団体とか大学とか。パレスが頼まれた失踪した男の行方探しも、最終的に政府がらみの陰謀へとつながっていく……つまり、もはやハードボイルドで収まるレベルじゃないのです。
主人公である元刑事パレスは、なぜ俺は真実を追い求めるのだろうと自問自答しつつ男の行方を追い続けます。その答えを彼は自ら最終的に用意しますが、結局彼も世界の動きに流されてしまうんですよね。まぁ犯人探しは結構ちゃんとミステリしてはいますが。

『地上最後の刑事』が設定こそSFなのに中身は完全にハードボイルド、というギャップが面白かった作品であるのに対し、『カウントダウン・シティ』はおもっきしSF要素強めです。でもつくづく自分はSF読みじゃないのかなと思ったんですが、結局設定だけじゃ楽しめないんです、たぶん。パレスの動きを追うのは楽しいし、読んでいてかなりのめり込んだけど、その全貌を知ってもあまりピンと来ないし。ラストの展開もあーこういう……っていう気分。『カウントダウン・シティ』の方が好きという人も結構いるので、これはもう個人的な感想です。
ちなみにこのシリーズは読んでいる途中妙に没入しちゃうのか、現実世界でマックとか見るたびに「おっまだやってる、窓ガラスも割れてない」とかいちいち考えちゃうの我ながら面白すぎます。終末世界には生きたくないですね。

というわけで微妙な感想になっちゃいましたが、やっぱりこのシリーズ好きなんですよ、すっごく。3作目が完結編で、この『カウントダウン・シティ』はそのつなぎでもあるので、次を早く読みたくてたまりません。期待期待。

書 名:カウントダウン・シティ(2013)
著 者:ベン・H・ウィンタース
訳 者:上野元美
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1889
出版年:2014.11.15 1刷

評価★★★★☆
地上最後の刑事
『地上最後の刑事』ベン・H・ウィンタース(ハヤカワ・ミステリ)

ファストフード店のトイレで死体で発見された男性は、未来を悲観して自殺したのだと思われた。半年後、小惑星が地球に衝突して人類は壊滅すると予測されているのだ。しかし新人刑事パレスは、死者の衣類の中で首を吊ったベルトだけが高級品だと気づき、他殺を疑う。同僚たちに呆れられながらも彼は地道な捜査をはじめる。世界はもうすぐなくなるというのに……なぜ捜査をつづけるのか? そう自らに問いつつも粛々と職務をまっとうしようとする刑事を描くアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞受賞作!(本書あらすじより)

『最後の刑事』『最初の刑事』『地上最後の刑事』とたいへんややこしい……全部版型違うし。
さて、今年のポケミス新刊です。個人的には現時点での新刊ベスト。隕石衝突による地球崩壊まであと六ヶ月という中で一件の自殺事件に疑問を持った刑事なりたてキラキラ若造刑事が後先考えずに突っ走り捜査するアポカリプスハードボイルドミステリ。設定ストーリー運びキャラ謎解き(ほどほど)と文句なし。素晴らしいじゃないですか。

あらすじにもあるこの自殺事件ってのが、まぁ言っちゃあなんですけどほんっとにでどうでもいいんです。登場人物みんなそう思ってるし自分もそう思います。けど主人公は初めての捜査らしい捜査だし熱意に満ち満ちてるから他殺に違ぇねぇと(ほとんど思い込みで)とにかく頑張るうちに、あちこちに迷惑をかけながらズブズブと大きな陰謀にはまり込んで行くのです。だから事件は、むしろこれくらい地味な方がこのシチュエーションが際立つわけです。
というか、事件や捜査は、警察小説やハードボイルドとしてはすっごくマトモですよね、これ。ところが地球が滅亡しかけているというシチュエーションがマトモじゃなさすぎるおかげで、単純な聞き込み描写が退屈させません。

主人公の語り口は淡白で、人類滅亡を目前に狂乱的なふるいまいにあふれる世界を滑稽にすら思っています。確かに主人公ならそうあるべきなんですけど、よくよく考えたら滅亡を気にせず自殺に熱中する彼はどう考えても変なんですよ……っていうギャップも妙におかしくて。若さと熱意の空虚さが印象的でシニカル。地の文が現在形であるのもリアルタイムっぽくて良いですね。
この語りと止まらないストーリー展開が面白くてすんごいのめり込んでしまうんですよ。300ページという分量にこれだけ詰め込んでいるだけはあって話運びはスピーディー。読んでいる途中に何度携帯を見て「あ、今は電波飛んでるんだな」と思ったことか。「このお店は営業してるんだな」と思ったことか。そのくらい夢中で読んでましたね、はい。

サブキャラも個性的でみんな影がある感じがいいし、事件と関係ない筋もしっかりと世界観を肉付けしていていいし、謎解きはそれなりだけど試行錯誤の推理と(当然のように)隕石絡みの動機が楽しいし、というか何かにつけ隕石で理由付けされながら世界が描写されるのも楽しいし。いやもう大好き。この結末のあと、果たしてどうなるんだろう……と思っていたら、なんでも次作がP・K・ディック賞を受賞して年内には刊行されるとのことなので、こちらも楽しみにしたいです。3部作らしいので、ちゃんと訳されるか不安でしたが、これは大丈夫そうかな。期待期待。

書 名:地上最後の刑事(2012)
著 者:ベン・H・ウィンタース
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1878
出版年:2013.12.15 1刷

評価★★★★★