四月の屍衣
『四月の屍衣』レジナルド・ヒル(ハヤカワ・ミステリ文庫)

休暇でリンカンシャーの田舎を訪れたダルジール警視は、そこで知り合った未亡人ボニーの大邸宅に滞在することになった。邸宅は改装してレストランを開業する予定だが、資金不足と彼女の夫が不慮の事故死を遂げたことから中断しているらしい。ダルジールは、ボニーの家族や使用人が彼の死について謎めいた言い方をするのを聞き、死因に疑問を抱くが……『秘められた感情』に続き文庫オリジナルで贈る、話題沸騰の英国本格。(本書あらすじより)

超ひさびさのレジナルド・ヒルです。ヒルは絶対自分好みの作家のはずだし、あれだけデクスターデクスター言ってる人がヒルは読んでませんじゃ恥ずかしいんですけど、これでまだ3作目。ただ、今まで読んだ『骨と沈黙』や『ダルジールの死』(なんでこれ読んだ)と比べて、はるかに面白かったですよ。おっしゃ、これなら2014年にヒルをがしがし読めるんじゃないですか、たぶん。
ダルジール警視が無遠慮にも入り込んでいった奇妙な家族の内部が少しずつ暴かれていくのですが、ダルジールがどっぷりその家族に入れ込んでしまうというのがポイント。妙にぼんやりとした非現実的な雰囲気が漂うので非常に面白い読み心地です。本格ミステリとしての出来もグッド。これは良作でしょう。

冒頭、パスコーの結婚式から一転、奇妙な家族のお葬式となり、さらにダルジールが氾濫した湖の上をボートで渡っていく、鮮やかな場面転換が印象的です。未亡人といつの間にやら良い感じになってしまうダルジールが私人&警察官として身の振り方に(らしくなく)迷ってるのがかわいいですね(デブのおっさんですけど)。
別に閉ざされてはいないんですが一種のクローズド物っぽさがあり、ダルジールもあくまで休暇中の身なので、警察小説っぽさが全然ありません。あくまで「ダルジール」という一個人が出くわした大いなる休暇(そしてそれがいい)。そういう意味では私立探偵物と言ったほうが近いかもしれませんね。パスコーとか全然出て来ませんし(それもいい)。

やたらと個性的で無神経な登場人物と交わっていくことで導き出される真相は、ダルジールが警察官として事件に関わらなかったからこそ、苦味があり、印象深いもの。ユーモラスな語り口に支えられた、英国ミステリらしい良い作品だと思います。こういうの好きですねー。

というわけで、今年はヒルを読める年になるか! ……分厚いんだよなぁ、どれも。

書 名:四月の屍衣(1975)
著 者:レジナルド・ヒル
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 200-3
出版年:1997.3.15 1刷

評価★★★★☆
スポンサーサイト
12583612882.jpg
『骨と沈黙』レジナルド・ヒル(ハヤカワ文庫)

ダルジール警視は窓から目撃した光景に愕然とした。男が銃を手に女に迫っていたのだ。駆けつけると、女はすでに撃たれて死んでおり、男は銃が暴発したのだと主張した。はたして、事故か殺人か。一方パスコー主任警部は、ダルジールに次々と届く自殺予告の手紙の差出人が誰かを探っていた。内容から今度の事件に関わる人物と思われたが……人間の生と死に潜む謎を鮮烈に描く、英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作。(本書あらすじより)

さすがはヒルです。こんな事件性がない事件で一冊もたせられるんだから(笑)

ヒルを読むのは2作目なんですが、この行間に漂うユーモア、着実に進展していく謎、やたらと魅力的な登場人物もろもろは、やっぱり彼の大きな特徴です。キャラクターが強い、という点が、この小説を成り立たせている要因かもしれません。お気に入りはやっぱりシャーリー・アップルヤードです。彼女が出てくると、なんか話が華やかになります。

ミステリの面に目を向けると、ネタバレになってしまうので何とも言えないんですが、それにしても犯人の頭の良さには驚きます。最初の時点でここまで想定していたとは思えないので、臨機応変に対応したんでしょうね。お見事です。

同時進行する自殺をほのめかす手紙は、確かに本筋には関係ありませんが、絶妙に物語の展開をうながしています。最後にこの問題は決着を見る訳ですが、このあたりになるともはや主人公がパスコーみたいに(笑)それでも、やっぱり読んでいて楽しいのはダルジール視点ですね。

やはりゴールドダガーはだてじゃありません。ヒル初読でもオススメです。

書 名:骨と沈黙
著 者:レジナルド・ヒル
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 Mヒ-4-1
出版年:1995.9.15 初版
     1997.5.31 2刷
 

評価★★★★☆
『ダルジールの死』レジナルド・ヒル(ハヤカワポケミス)

通報してきたのが無能で鳴らすヘクター巡査でなかったら、通報を受けたのが無頼で鳴らすダルジール警視でなかったら、事件の様相はまったく違っていたかもしれない。だが現実には、爆破テロに巻きこまれたダルジールは瀕死の重傷で生死の境をさまよい、パスコーがただ一人爆破事件を追っている。事件の背後には、反テロを標榜してテロ容疑者や支援者を殺してゆく〈新テンプル騎士団〉と名乗る謎のグループが介在しているらしい。
だが、敵のメンバーは公安捜査の中枢にも……ダルジールの容態を気づかいつつも、パスコーは単独捜査に突っ走る!度肝を抜く展開で贈る、シリーズ史上最大の話題作(本書あらすじより)

何を血迷ったか、初めてヒルを読むのに主人公が「死」ぬ本を読んでしまいました。ネタバレとか、そういったことはないんですが、まぁ順番は皆さん守って読みましょう(笑)

いやー、ものすごい話でした。常道を行くミステリでは決してありませんし、犯人探しの要素もありますが、それよりも組織的犯罪の色が強めです。ただ、バスコーに非常に共感できる、というか、登場人物のひとりひとりに感情移入できるよう、適度のユーモアを交えてテンポ良く進む展開には感心します。500ページ近くありますが、一気に読めてしまう作品ですね。デクスターが筆を断った今、イギリスの代表として、これからも良作を出していってほしいものですね。

あらすじにもあるように、シリーズ主人公のダルジール警視は見事に出てきません。これじゃ初めて読むのにどんな人物なのか分かんないんですが、ダルジールを心配する人たちが「こんな時彼なら…」とか「ダルジールなら決して…」とかそんな描写があっちゃこっちゃにたくさんあり、ぜひ彼がメインで出る話を読みたいなぁ、と思わされます。
いっしょに借りてきた『骨と沈黙』は、都合により読めなかったんですが、読んだ母親いわく、なかなかおもしろかったそうです。デクスターの未読はあと一作しか残っていないので、そろそろ新しい作家も開拓せねば…。

読んでて思ったんですが、この作品は必ずしもヒルの本領発揮ではないんじゃないですかね?シリーズの中でも異色の方だと思います。明らかに、本格ミステリっぽい空気からは外れています。他の作品については、おいおい読んでいきますから、レビューをお待ちください。

書 名:ダルジールの死
著 者:レジナルド・ヒル
出版社:早川書房
     ハヤカワポケットミステリ 1810
発 行:2008.3.15 初版

評価★★★★☆