猫たちの森
『猫たちの森』アキフ・ピリンチ(Hayakawwa Novels)

猫の名探偵フランシスは、飼い主のグスタフの家で、哲学的思索にふける幸福な毎日を送っていた。が、しかし。そこに現われたのが思いもしなかった闖入者。なんと飼い主のグスタフが恋人をつくり、共同生活をはじめたのだ。しかもその恋人というのが、大の猫嫌い。フランシスにたいして、何やらよからぬことを企んでいるらしい。身の危険を感じたフランシスは、自由気儘なひとり旅に出ることに。ところが、旅の第一歩を踏み出したとたん、フランシスは大雨で起こった濁流に流され、下水道に落ちてしまう。そこで遭遇したのが、誰に知られることなく下水道で暮している猫のグループ。フランシスは彼らから、いま凶悪な連続猫殺害事件が起きていることを教えられる。そればかりか、その推理力を見込まれ、容疑者と目されている「黒い騎士」を見つけ出してくれと依頼されるのだが――。(本書あらすじより)

もう大昔に読んだ本ですが、アキフ・ピリンチ『猫たちの聖夜』は読んだ当時の自分にそうとう大きな衝撃を与えました。連続殺“猫”事件を猫の視点から描いて解決するというのがまず面白かったんですが、大事なのはそんなところじゃないのです。読んだ方は分かると思いますが……何ていうかね、情け容赦なく猫が殺されていくんですよ。思ったよりグロいっちゃあグロいんです。猫だけど。そして動機、事件の背景となった出来事のあの異様っぷりね……もはやSFです。
というわけでほとんどトラウマに近い原初体験だったわけで、かなりヘビーな読書だったのですが、それでも中学生だった自分は「こっ、この作品はやべぇ……よく分からんが傑作じゃないのか……?」という思いを噛み締め、年を経るごとにだんだんと脳内美化されて「あの作品はやはり傑作だったのだ」という結論に落ち着きました(いいのか?)。

というわけで、その雄猫フランシスシリーズ第二作がこちら、『猫たちの森』です。飼い主グスタフが犬派の彼女を連れ込み、去勢の魔の手を察したフランシスは大自然への逃亡を図るも、ドブに流され、下水道の世界で生きる盲目の猫たちの世界へと迷い込みます。彼らから残忍な猫殺し犯「黒い騎士」の捜索を依頼されたフランシスは、地上の森へと舞い戻りますが……?

これで翻訳が止まってしまったわけで、どんなもんかとやや不安だったんですが、杞憂でしたね。前作のクレージーさはなく、少々哲学談義に耽りすぎではありますが、しかし相変わらず饒舌なフランシスの語りが何より楽しく、意外性はないものの本格ミステリ的にも良く、そしてクレージー成分が抑えられようがストーリーのとびっきりの面白さは他にはないものです。これも傑作でしょう。

地下でマゾヒスティックな宗教生活を送る盲目の猫の集団だとか、狂った犬にまたがり「黒い騎士」として同類の猫殺しを行う猫だとか、次から次へと出てくる猫の首なし死体だとか(何匹死んでるんだ)、よくもまぁこんなこと思いつくよなというめちゃ面白アイデアをピリンチさんが投入しまくりますさすがっす。前作ではパソコンを駆使する猫なんかも登場しましたが、今作では文筆家で鳥獣語を話せる猫まで現れました。何でもありですか。
前作同様、科学者の自分勝手っぷりや、悲劇的な猫の運命も絡んでいきますが、ここの点はわりあい大人しめ。とは言えテーマはより身近で重く、インパクトは十分。やっぱりこれも、フランシスの軽快な語りがあってこそ読める話なんですよね。ハードでボイルドなフランシスの行動が熱くて泣かせます、いやほんと。サブキャラのエピソードがまた泣かせるんですよね……。

犯猫はそこまで凝ってはいないんですが、案外伏線の量が多く、また真相も意外と絡み合ったもので、本格ミステリとしても楽しめました。めでたしめでたしとは言い難い悲劇的で胸を打つ結末と、めでたしめでたしなフランシスの人生よ。あぁなんでもっと翻訳してくれなかったんですか早川書房さん、このミス選者みたいな玄人には受けました、って翻訳者もおっしゃっていたのに。一般受けしなかったんですかね、うぅん。

フランシスシリーズの出版年を見ると、1989、1993、1999、2002、2004、2007、2010、2012、と、緩やかながら着実に出ているんですよね。ぜひとも日本語で読みたいんですが、もう無理なんでしょうか……。とにかくこのシリーズ、猫の死体がわんさか出てくるせいで猫好きにはすすめにくいという欠点もありますが、個人的にはかなりお気に入りのシリーズです。一作目『猫たちの聖夜』からぜひどうぞ。

書 名:猫たちの森(1993)
著 者:アキフ・ピリンチ
出版社:早川書房
    Hayakawa Novels
出版年:1996.12.15 初版

評価★★★★★
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