ふたりジャネット
『ふたりジャネット』テリー・ビッスン(奇想コレクション)

本邦初のテリー・ビッスン短篇集。サリンジャー、ピンチョンら有名作家たちが続々と田舎町に引っ越してきた?英国が船みたいに動きはじめた?万能中国人がヘンテコなす牛木で事件を解決?そんなばかな話ってある?屈指の技巧派にして短篇の名手ビッスンが描く物語は、まさに現代の“ほら話”。ヒューゴー賞ほかアメリカ棋界の賞を総なめにして、一躍その名をとどろかせた名作ファンタジー「熊が火を発見する」をはじめ、ショートショート「アンを押してください」、ロマンティック・コメディ「未来からきたふたり組」、盲目の画家が死後の世界で見たものは……「冥界飛行士」、“万能中国人ウィルスン・ウー”3部作「穴のなかの穴」「宇宙のはずれ」「時間どおりに教会へ」など、全9篇を収録。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、デイヴィス読者賞、スタージョン記念賞受賞。(本書あらすじより)

試験やらレポートが終わってようやく読書に復帰。いやぁ大変でした。
というわけでまだまだ1ヶ月前に読み終わった本の感想が続きますよ、なんってこったい。テリー・ビッスン『ふたりジャネット』です。初期よりの作品集ですね。なぜか後期よりの『平ら山を越えて』から読んでしまいましたが、結論から言うとこっちの方が断然好きです。『平ら山を越えて』を先に読んでいたせいでこの陰気作家め一生死とか戦争とか老いとか言ってろと思っていたらとんでもございません、超明るくて楽しくてユーモラスでSFしてるじゃないですかビッスンさん。

「熊が火を発見する」(1990)
「アンを押してください」(1991)
「未来からきたふたり組」(1992)
「英国航海中」(1993)
「ふたりジャネット」(1990)
「冥界飛行士」(1993)
「穴のなかの穴」(1994)
「宇宙のはずれ」(1996)
「時間どおりに教会へ」(1998)

やっぱり基本的にはワンアイデアベースの短編なんですが、わりあいストーリーがしっかりしているので読みやすいです。アイデアだけで攻めず、登場人物の背景などを交えてしっかり読み物にしているのがビッスンの特徴でしょうか。短編集としても万遍なくバランスが良くて飽きさせません。
「熊が火を発見する」のシュールなしっとり系、「アンを押してください」の下ネタありのユーモア、「未来からきたふたり組」のへんてこエロ正当物、「英国航海中」のザ・奇想、「ふたりジャネット」の意味不明、「冥界飛行士」のダーク、そして奇想とストーリーとユーモアのミックスが良い《ウィルスン・ウー》もの3作……
……とどれも味わい深くて良いですね。「熊が火を発見する」なんかが分かりやすく特徴的で、つまり熊が集まって火を焚き始めた、という謎の設定を作りつつも、メインはおじさんと子供の交流なのです。基本的に人間関係とか、ヒューマンドラマ寄りですね。「英国航海中」とか。また《万能中国人ウィルスン・ウー》シリーズは、特に後ろ2作が問題解決物でもあるため、ある種ミステリっぽいような気がしなくもありません。
ベストは……うぅん、「アンを押してください」「時間どおりに教会へ」かな。でもどれも面白かったですよ。

まぁぼやっとした感じを含めて、いかにも奇想コレクションらしい一冊かなと。なお、『平ら山を越えて』は『ふたりジャネット』と比べてずいぶん重いんですが、その分味わいが増しているので、どちらが良いとは言い難いかなと思います。好みの問題でしょうね。でも個人的には、当然『ふたりジャネット』の方が好きです(ユーモア大好きなので)。

書 名:ふたりジャネット(1990~1998)
著 者:テリー・ビッスン
出版社:河出書房新社
    奇想コレクション 3
出版年:2004.2.28 初版

評価★★★★☆
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平ら山を越えて
『平ら山を越えて』テリー・ビッスン(奇想コレクション)

奇想?誇大妄想?現代のほら話?唯一無二の語り手による、ローカス賞ネビュラ賞受賞作「マックたち」を含む傑作選!8年にわたる地盤変動で生まれた巨大な山(平ら山)、大気もない頂上を越えて荷を運ぶトラック乗りが拾ったのは、ヒッチハイクで山を目指すひとりの少年。垂直に切り立った山腹の先で、ふたりが目にした風景とは――。トラック乗りと少年の旅を描くノスタルジーに満ちた表題作をはじめ、若い夫婦が授かった不思議な赤ん坊をめぐるハートウォーミング・ストーリー「ジョージ」、少年が古い競技場で見つけた“あるもの”が導く、優しくて切なすぎる物語「ちょっとだけ違う故郷」、太古の世界がテーマの異色作「スカウトの名誉」、インタビューの回答だけを並べて現代の暗部を暴き、ローカス賞、ネビュラ賞をW受賞した傑作「マックたち」、究極のディストピアSF「謹啓」など、全9編を収録。(本書あらすじより)

これは12月に読んだ本の感想ですが、12月はサークルの企画の関係で奇想コレクションを4冊ほど読みました。で、読んでみて思ったのですが……奇想コレクションって、ふわふわして捉えどころがない作品が多いせいか、ちょっと一般には薦めにくいなじゃないか、ってのが正直な感想ですね。これで『ふたりジャネット』『平ら山を越えて』『輝く断片』『フェッセンデンの宇宙』『跳躍者の時空』と読んだことになるんですが、結局一番面白かったのは数年前に読んだフリッツ・ライバー『跳躍者の時空』かな、という気がしています。『たんぽぽ娘』とかは今年読んじゃいたいですね。数篇だけはさっと読んだんですけど。

さて、では『平ら山を越えて』です。

「平ら山を越えて」(1990)
「ジョージ」(1993)
「ちょっとだけちがう故郷」(2003)
「ザ・ジョー・ショウ」(1994)
「スカウトの名誉」(2004)
「光を見た」(2002)
「マックたち」(1999)
「カールの園芸と造園」(1992)
「謹啓」(2003)

前半は「少し不思議」系ノスタルジックと子供愛にあふれる、読みやすい短編。後半は戦争や死を題材にしたやや重苦しい短編と中編。個人的な好みで言うと前半の方が好きですが、いずれも読み終わったあとずっしり来るような印象深い短編です。
ビッスンの短編の作り方は、核となる変なアイデアを1つ用意し、しかしそれではなく愛情とか孤独とかそれに関わる人間の感情をメインに置く、というものだと思います。あらすじや帯にある「現代のほら話」というキャッチコピーは、一面では合っていると思うのですが、必ずしも奇想で読ませているわけではないので、少し違うかなという気がします。

表題作はぶっちゃけ微妙。せっかくのアイデアをあまり生かしきれていないかなと。次の「ジョージ」は翼を持って生まれた子どもの周囲の大人を描いた、素晴らしい作品(感動ものに弱い)。「ちょっとだけちがう故郷」は子どものファンタジックな冒険物で超感動作。「ザ・ジョー・ショウ」はストリップ系エロ(実に良い)。ここまでは明るめでしょう。
「スカウトの名誉」はメールで一人の人物の状況を明らかにしていく技巧的な一編ですが、そんなに面白くはなかったかな……。「光を見た」は未知なるものとの接触を描いたSF作で、読み終わって妙な感動に浸れます(良い)。
そして「マックたち」は、インタビュー形式でインタビューされる側とする側の人生を浮かび上がらせていく超絶技巧の大傑作。これは予備知識なしでぜひ読んでもらいたい作品でしょう。
「カールの園芸と造園」は植物が死に絶え、重苦しい死の予感に満ちた世界を描いた作品でかなりしんどく、つらいです。中編「謹啓」は老人が排除される世界の物語で、若者の抵抗運動の独善さを強烈に皮肉ったこれまたつらい作品(つらい)。

「ジョージ」「マックたち」がベストでしょう。次点で「ちょっとだけちがう故郷」「光を見た」。ただ、いずれも良いんですが、すごい好きってのとは違うかな(やや冗長でしょうか)。初期作品多めの『ふたりジャネット』も読んでみましたが、だいぶ作風が違うし、大きく好みが分かれそうだな、と思います。

ついでに、サークル用に書いた『平ら山を越えて』の原稿を追記の方に貼っつけておきました。こちらは外向きなので全体的に褒めています(笑)

書 名:平ら山を越えて(1990~2004)
著 者:テリー・ビッスン
出版社:河出書房新社
    奇想コレクション 19
出版年:2010.7.30 初版

評価★★★☆☆
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