というか、既訳の長編を全て読んでいる作家って、コリン・デクスターとマーサ・グライムズしかいないんですよね、よく考えたら。アガサ・クリスティはミステリなら全て読んでいるんですが、普通小説に手を付けていないし……。

というわけで、マーサ・グライムズですよ、マーサ・グライムズ!どっかで布教しておかないと、いつまでたっても自作の翻訳が出ないかもしれないですし。

以下、ある種の「マーサ・グライムズ入門」的な駄文を、たぎる熱意のままに並びたてましたので、興味がある方はぜひ読んでみてくださいな。
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「レインボウズ・エンド」亭の大いなる幻影
『「レインボウズ・エンド」亭の大いなる幻影』マーサ・グライムズ(文春文庫)

朝靄にけぶる古代遺蹟の穴ぼこで息絶えていた女性、そして別の日、別の町でさらに二人の女性が急死した。一見なんの関連もなさそうな三人の死を結ぶ一本の線が――三人とも同じ時期にアメリカのある町にいたのだ。魅惑の地ニューメキシコのサンタフェである。それだけの幻のような線をたぐり、ジュリー警視はふたたび海を渡る。(本書あらすじより)

ついに既訳のグライムズ作品は全て読んでしまいました……うぅ、悲しいなぁ。2010年の上半期は、ホント、むさぼるように次々とシリーズを読んでいったものです。近いうちに、「マーサ・グライムズ入門」的な記事をブログに書こうかな、と思います。もちろん、生きているうちに続編を日本語で読むという野望への第一歩。

あ、グライムズ先生は、先日、2012年度MWA巨匠賞を受賞されました。イギリスでは相変わらず散々な評価らしいですが、これからも頑張ってほしいもんです。

と、散々盛り上げましたが、この作品で翻訳が打ち止めになった理由は分からないでもないんですよね。というのも、この『レインボウズ・エンド』は、完全にシリーズファン向けの作品なんです。
そもそも『「乗ってきた馬」亭の再開』の続編ですし(といっても、完全に忘れていても大丈夫でしたが)、今までの作品に出てきたキャラクターがやたらたくさん出てきます。『「鎮痛磁気ネックレス」亭』とか、『「酔いどれ家鴨」亭』とか、『「五つの骨と貝殻骨」亭』とか、『「古き沈黙」亭』とか、『「老いぼれ腰抜け」亭』とかの懐かしき登場人物がちらほらと。セリフでちらっと『「エルサレム」亭』も出ていましたね。別に知らなくても大丈夫なんですが,いちいち誰だったか調べてしまいました。ここまでやらなくてもいいんじゃないかと思いますが。

この作品、660ページとシリーズ最長ですが、その長いわけは上記の人達がちょこちょこ絡んでくるせいだと言い切って良い思います。実質的に事件が動き出すのは300ページ経ってからで、それまでも一応伏線は張っていましたが、アメリカに行くまでがいくら何でも長過ぎます。

そしてなお悪いことに、ミステリとしての出来がイマイチなんですよねー。分類としてはハウダニット物でしょう(なんとなく、セイヤーズの『毒を食らわば』を思い出しました)。そして思うんですが、こう、不自然な死亡というか、毒殺か何だか分かんない、みたいな事件って、結局読者は置いてけぼりになっちゃうことが多いじゃないですか。そんなもん分かるかっつーの、みたいな。ミステリとしての面白さは、いかんせん小さくなっちゃうわけですよ。ちなみに犯人と動機に関しては、いくら何でも作者さんサボり過ぎです。

というわけで、シリーズファンの自分としては楽しく読めましたが、ちょっと他よりは落ちるかなぁと言ったところ。平凡と言うか。前作とあわせて、この「アメリカシリーズ」(命名自分)は、グライムズがわざわざ本拠地アメリカを舞台にしたせいで失敗してしまったという気がします。

さて、実は次次作の"The Stargazey"が、机の中に放り込まれています。いつぞや勢いで取り寄せで買っちゃったんですね、これが。そして3ページで挫折したんでしたっけね、確か。原書の壁は高い。どうしよう……。

書 名:「レインボウズ・エンド」亭の大いなる幻影(1995)
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
    文春文庫 ク-1-14
出版年:1998.8.10 1刷

評価★★★☆☆
「乗ってきた馬」亭の再会
『「乗ってきた馬」亭の再会』マーサ・グライムズ(文春文庫)

休暇を取って転職先を探すジュリーに、旧知の貴婦人からお呼び出しがかかった。知人の甥がアメリカで殺された事件を調べてほしいという。レディに弱い警視、渋々大西洋を渡り、ボルティモアへ。E・A・ポーゆかりの地で起こった三つの殺人事件を結ぶものは。勝手の違う土地柄にとまどいつつも、いつもの仲間が名推理を披露。 (本書あらすじより)

グライムズは、シリーズを通していろいろ共通の人物は出てきますが、原則一冊完結です。しかし、この作品と『「レインボウズ・エンド」亭の大いなる幻影』はやや続いてる感があります。

いろいろと面白い取り組みがなられている一冊ですね。舞台をアメリカに置いたのもさることながら、やはり普段より「シリーズ性」を意識しているのは興味深いですね。前作の流れで出るレディ・クレイとか、ロング・ピドルトンの仲間とかがかなり「シリーズ」っぽい出かたをします。

アメリカはグライムズの本拠地なわけですから、かなり詳しく書いていますね。ボルティモアの歴史とかも詳しいし、犯人の動機も舞台がアメリカであることが大きいですね。ただ、ジュリーたちが意外とアメリカで馴染んでいるのは面白いです。なんかいかにもキョロキョロしてそうですが…(笑)

肝心のミステリーはというと、あと100ページくらい残して解決してしまうので、やや拍子抜けしました。動機は分かっても、証拠は実際ないに等しいし……。ミステリー的味わいは、前作までの3冊の方が上でしょうか。

しかし、とにかく楽しめる一冊です。脇役キャラの目立つこと。タクシー運転手のヒューイなんか、楽しくって仕方ありません。ラスト100ページのほのぼのした味わいもたまりません。悪くない一冊でしょうね。

書 名:「乗ってきた馬」亭の再会
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
    文春文庫 ク-1-12
出版日:1996.5.10 1刷

評価★★★★☆
『「老いぼれ腰抜け」亭の純情』マーサ・グライムズ(文春文庫)

これまでも結構気の多かったジュリー警視だが、ジェーンなる若き未亡人に会った途端に本格的な恋心に取り憑かれてしまった。だが気になるのは、その美貌を時折り暗い影がよぎることだ。謎を解く鍵は亡くなった夫の過去にある。かつてジェーンが夫と暮らしていたという湖水地方へ行ってみたい、と思った矢先に予想外の事件が…。 (本書あらすじより)

グライムズの第11作です。作品も邦訳は残るところあと2冊になりました。早く見つけないと…。

グライムズの中でも、まず間違いなく1,2番の出来だと思います。というか、『「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁』『「古き沈黙」亭のさても面妖』と傑作続きです。彼女は、話が長けりゃ長い方が、キャラクター造形に力が入り、作品がより魅力的になるんですね。

まず、何と言っても事件がいい。前作は事件だかどうか分からないものを次第に解きほぐすって感じでしたが、今回は割と真っ向から攻めています。被害者の家族が胡散臭い人ばっかしで、はたして誰が犯人なのかもなかなか趣向が凝っています。犯人の動機はやや不安ですが、しかしそんなことはハナっから問題ではなし(いつもの事だし)。

また、人物描写も一番頑張ってます。ホルズワース家の個性的な面々をキッチリ描き分けていて、人物名も頭にすんなり入ってきました。キャラクターと言えば、やっぱり子供二人と、老人二人がかかせません。グライムズ作品の子供達は、たいてい逆境の中でしっかり生きている子たちですが、今回は輪をかけてかわいそうな子供たちです。それでも重苦しくならないのは、メルローズやトルーブラッドといった面々が頑張ってるからですが、今作の楽しい人第一位はレディ・クレイとアダムですね。あんなに楽しそうな老人は、はっきり言って魅力の塊です。レディ・クレイはなんかただ者じゃなさそうだし。また出るらしいので、楽しみにしたいですね。

しかし何と言っても、結末には衝撃を受けました(4回くらい読み返したし)。グライムズは、必ずしも法の制裁を重視してはいませんが、いきなりこんなのを持ってくるとは思いませんでした(しかもユーモラスに重苦しい)。その後どうなったかは書いていませんし、ジュリーが知ったのかは分かりませんが、しかしあの後あそこにメルローズと向かっていたことを考えると、悪くならないように手配してくれたのではないでしょうか。

とにかく楽しい一冊です。シリーズ性が強いので、第一作から読むにこしたことはありませんが、入手が面倒くさいので、見つけたものからでも読んでいってほしいですね。

書 名:「老いぼれ腰抜け」亭の純情
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
    文春文庫 ク-1-10
出版日:1993.12.10 1刷

評価★★★★★
『「古き沈黙」亭のさても面妖』マーサ・グライムズ(文春文庫)

このところ、ふさぎの虫にとりつかれたジュリー警視、休暇で訪れたヨークシャーのパブ〈古き沈黙〉亭で、人品いやしからぬ婦人がいきなり夫を射殺するのを目撃した。単純明快な事件だし、そもそも地元警察の仕事だ。なのに、妙に警視の心にひっかかるものがある。そのうち、婦人の義理の息子が数年前、誘拐・殺害された事実が…。 (本書あらすじより)

グライムズの中でも1,2を争う出来でしょうね。非常に読ませてくれる作品です。650ページくらいありますが、そんなもんなんでもありませんね。事件自体も魅力的ですし、登場人物も一人ひとりがかなりきちんと描かれています。数年前の誘拐事件のからませ方・明かし方も絶妙です。

全体として、「ロック」を主軸に置いており、僕としては嬉しい限りです。何人かミュージシャンが出てくるんですが、この人たちもまた、なんともいえない個性を放っていますよね。グライムズ作品が中だるみすると批判する人がいますが、そんなことはないと思います。読者を飽きさせないだけの筆力は持っていると思います。少なくとも、シリーズ当初と比べれば、うまくなったなぁという感が確かにあります。

全体を通して、じめじめとした湿地の「寒い」雰囲気が漂っていますが、特にそれを強めているのが、作品の舞台ともなる「ウィーヴァーズ・ホール」でしょうね。ここにいる公爵夫人と退役軍人の独特なユーモアと、かもしだす空気がなんともいえず魅力的です。最近のグライムズの作品は、この「重い空気」的なものを重くなりすぎずに描く、っていう傾向があります。

犯人の行動は、少々極端な気がしないでもありません。特に、最後に出た行動は、あの後どうすんだ、とは思います。しかし、そこからのクライマックスへのつなぎ方、また犯人の性格を考えれば、ナシではないでしょう。構成やトリックも綿密ですので、単なる小説にとどまらず、推理物としての味わいも魅せてくれる作品でしょう。

書 名:「古き沈黙」亭のさても面妖
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
    文春文庫 ク-1-9
出版日:1992.3.10 1刷

評価★★★★★
『「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁』マーサ・グライムズ(文春文庫

休暇中のジュリー警視、めずらしく友人のメルローズ・プラントを訪ねたが、地元の骨董屋トルーブラッドが披露に及んだアンチークの書記机に押しこめられた男の死体を発見する仕儀となる。どこへ行っても事件にぶつかる因果をなげきつつロンドンに戻ると、テムズ川に浮かぶボートの中に今度は女の死体。その顔を見て、警視はアット驚いた…。(本書あらすじより引用)

この事件内容も、解決の仕方、容疑者のなんやかんや、まさにグライムズならではです。こうした作品を作れるのは彼女だけでしょう。トリックというか、構成がややこしいので(例によってグライムズは説明が少ないんじゃないか)きちんと読んでいくことをおすすめします。彼女の作品の中では、印象深い犯人となること間違いないでしょうね。

シリーズファンにとってなにがうれしいかって、第一作の舞台:ロング・ピドルトン再登場にほかなりません。トルーブラッド、ヴィヴィアン、アガサ、スクロッズなんかはどうせ毎作でてるんですが、やっぱり作者としても、この村には愛着があるんでしょうね。今回終始にわたって描かれるアガサの裁判もなかなかいい味を出しています。この裁判をからめた作品の終わり方もいいですよね。グライムズは結末が上手だと思います。アガサは第1作ではうざったいおばちゃんだったのに、最近は登場すると、いかにそれをメルローズがあしらうか、という単なるメルローズの引き立て役になってるのが、まぁ彼女には気に食わないことでしょう(笑)

事件としても素晴らしいです。読んで、こんなに犯人に同情できる作品もめずらしいんじゃないでしょうか。グライムズの作品の犯人は、たいてい身勝手な人物ですが、結末から判断すれば、今回はただひたすら悲劇の中心人物となっているのが犯人です。だいたい、犯人の正体が最後になってもイマイチ判断がつかないというのもすごいんですが…。イヤな人物が殺される、ってのは、いつも通りですけどね。

とにかくベストセラー入りしただけはあります。ぜひ一読を(ただしその前に、シリーズ全部読まなきゃいかんのかな?いや、そんなことはないか……)。

書 名:「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-8
発 行:1991.3.10 1刷

評価★★★★☆
『「独り残った先駆け馬丁」亭の密会』マーサ・グライムズ(文春文庫)

雨にけむるデヴォンの森、若い女の死体が見つかった、首をスカーフで締められて。ほぼ1年後、ロンドンのパブ「独り残った先駆け馬丁」亭の前の路上で見つかった若い美女の死体は、やはりスカーフによる絞殺。同じ手口によるふたつの殺人は、偶然か、同一犯人か?おなじみハードボイルド田舎刑事の執念がジュリーを助ける。 (本書あらすじより引用)

この後のグライムズの作品は、分厚さからいってもえらく気合いが入っています。そういうことで、この非常に薄い作品は、気分休め的に書いたのでしょうか。冒頭からかなり読ませてくれましたが、結末がかなりあいまいになってしまったのが(個人的に)残念です。もっとも、最近のグライムズ作品はこういうのが多くなっている気はしますが。また、マキャルヴィを出す必要があったのか、というのが非常に微妙なところです。彼の出てくる事件は、彼がもはや主役となるようなもんですが、今回はただのデータ集め係にすぎないのが、ファンとしてはやや不満です。

たいした事件でもないと思いますし、事件の目撃者のくだりもちょっと適当気味です。それでもこの作品が面白いと言えるのは、事件関係者以外の人物が非常に目立っているからだと思います。特に、「限りない命」亭のウォーボーイズ一家なんかはただのうけキャラですが、メルローズの皮肉精神もあいまって、悲壮感漂う楽しさが味わえます。もう一回出てくるってことはないんでしょうかね?(なにしろシリーズなんだし…)

そして、シリーズファンにとってこの作品が大事なのは、「スターダスト」という店が初登場することです。以降の作品には必ずと言っていいほど登場し、キャロル=アンとウィギンズと星が飛び回りますが、店の説明が当然この作品が一番詳しく書いてあるので、ぜひ読んどかなきゃいけないわけです。ところで、ウィギンズは多趣味ですねぇ(笑)

結末があいまいと書きましたが、あまり国語力のない自分は何回も読みなおしました。結局、彼女はどうなったんでしょうか。倒れたのは間違いないみたいですけど……。

書 名:「独り残った先駆け馬丁」亭の密会
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-7
発 行:1990.6.10 1刷

評価★★★☆☆
『「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶』マーサ・グライムズ(文春文庫)


イギリスのストラトフォード・アポン・エイヴォンはシェイクスピアの生まれ故郷ということで有名だ。そこを観光で訪れていたアメリカの観光ツアーメンバーの女性が無残にも殺された。ジュリーはツアーメンバー間の関係を探っていくのだが…。(本書あらすじより)

グライムズ第4作です。刊行順ではメチャクチャですが。グライムズの中でもちょっと変わっているほうだと思います。いかにもイギリスびいきのアメリカ人の作品という感じ。アメリカ人のマナーとかをけなしつつも、文明としてはちょっと進んでるんだよな、行ってみたいよな、というふうにイギリス人を描いています。それにしたって、DC=ワシントンDCだってことぐらいイギリス人だって分かると思うんだけど…(苦笑)

証拠立てとかは、まぁ、例によって十分ではない感はありますけど、やっぱりグライムズですよね、子供が出てくると子とか含めて。いなくなった少年が話全体を逆に明るい雰囲気にしているのはさすがです。いかにも殺されそうな人が死ぬのもご愛敬(笑)構成としては、トリックも含め、かなりしっかりしたミステリじゃないでしょうか。

ただ、正直なところ、面白かったというのとは違うんですよね。だいたい、容疑者が全員アメリカ人だという時点で、すでにこのシリーズの魅力が損なわれているんじゃないかなぁという気がします。それぞれのメンバーも、あまりしっかり描かれていない気がします。しっかりしたミステリだといいましたが、確かにちょっと一般のミステリっぽくかいた様子がありますが、それが成功したかとなると、ビミョーなところです。これを読み飛ばしても、問題ないかな…という気が。ヴィヴィアンのその後が後の作品にもつながりますが、まぁ知らなくても大丈夫でしょうし。

書 名:「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-12
発 行:1994.12.10 1刷

評価★★☆☆☆
『桟橋で読書する女』マーサ・グライムズ(文春文庫)

孤独な町のシェリフに奇妙な友情を覚える、桟橋に電気スタンドを引いて読書するのが趣味の女・モードの視点、一人息子のチャッドの視点、土地の保安官サムの視点から、この土地で起きた連続女性殺害事件を描く。保安官のサムは、現在刑務所で捕まっている男は犯人ではないと確信している。はたして事件は終わっているのだろうか?


舞台はアメリカです。ようやく作者自身の土地を描くわけですが、はてさてなんだかよく分からない作品です。そもそもチャッドの章はいらない気もするし、回想シーンと現在のシーンがなんだかわかりにくい。犯人探しがメインというわけでもなさそうだし、動機とかもあいまいだという印象を受けました。ちょっと失敗作だったかもしれませんね。

確かに、犯人探しを描いていることはわかるんですが、しかしその捜査途中に、モードの息子のチャッドの章がまるまる入ってくるんです。チャッドの遭遇した事件も、この連続女性殺害事件にはほぼ係もありません。

結局のところ、グライムズが描きたかったのは、「家族」の存在なのではないのでしょうか。母子のふれあいを念頭に置いているのは確かです。ただ、どうも書ききれなかったかな、というのが印象です。

書 名:桟橋で読書する女
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-11
発 行:1994.8.10 1刷

評価★★☆☆☆
『「悶える者を救え」亭の復讐』マーサ・グライムズ(文春文庫)

『バスカーヴィル家の犬』の舞台ともなった、荒涼たるダートムアで、三人の子どもが次々とむごたらしく殺された。現地にとんだジュリー警視が出会ったのは、地元警察のサム・スペード気取りのハードボイルド刑事。何かと張り合いながら、二人の視線は旧家アッシュクロフト家の10歳の女相続人ジェシカをめぐって火花を散らす。 (本書あらすじより)

このハードボイルド刑事・マキャルヴィ方面部長というのが、もうかっこよすぎです。ウィギンズとの掛け合いも大いに笑わせられ、何よりこの刑事魂が熱いという(そしてそれがよく分かる)のが、グライムズの作品に出てくる他の警官とは一線を画しています。このシリーズでは各警官が非常に丁寧に描かれているのですが、マキャルヴィに限っちゃほぼ主役扱いです。この後のシリーズでも、明らかに出すぎるほど出ています。が、やはり彼が主役ともいえるのは、この『「悶える者を救え」亭』ではないかという気がします。

シリーズの中でもかなりよくできた作品だと思います。プロットもなかなか凝った作りになっており、読んでいる人は大いにミスディレクションの影響を受けるでしょう。最後の結末はちょっとびっくりしましたが、こうやって終わらせるのもハードボイルドな警察官がいるからこそですね。というか、こうやった終わり方は、グライムズの十八番ともいえますが。ラストの2ページは、もう、マキャルヴィのためにあるようなもんです(笑)
今作ではメルローズの出番が残念ながらかなり減ってしまっている代わりに、ウィギンズがやたらと出てくるのが個人的にはうれしいです。どうでもいいが、メルローズは最近、ジュリーの使いっ走りになりつつあるよなぁ…。

書 名:「悶える者を救え」亭の復讐
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
     文春文庫 275-32
発 行:1987.11.10 1刷

評価★★★★☆