『プリンス・ザレスキーの事件簿』M・P・シール
『プリンス・ザレスキーの事件簿』M・P・シール(創元推理文庫)
最初の安楽椅子探偵と目されるプリンス・ザレスキーは、不幸な恋のため祖国を追われて英国西南部の陰鬱な幽居で修道士のような隠栖生活を営んでいる、碩学の思想家であった。その犀利な推理を示す「オーヴンの一族」をはじめ、暗号ものの「S・S」等四編と、「モンク、木霊を呼び醒す」など三編のキング・モンク譚を併載した。異能作家シールの推理譚の全貌を窺い知る全一冊本である。(本書あらすじより)
おそらく年内最後の更新となります。毎年、年末には今年のベスト10をあげていますが、今年はちょーっとばかり忙しいので、年始の更新になると思います。
さて、年内最後の更新をこんな微妙な作品で締めくくるのは甚だどうかと思いますが、とにかくプリンス・ザレスキーです。〈シャーロック・ホームズのライヴァルたち〉の一冊。ザレスキー物4つ、独立した短編推理もの「推理の一問題」、カミングズ・キング・モンク物3つが収録されています。
「オーヴンの一族」
「エドマンズベリー僧院の宝石」
「S・S」
「プリンス・ザレスキー再び」
「推理の一問題」
「モンク、女たちを騒がす」
「モンク、『精霊の偉大さ』を定義す」
「モンク、木霊を呼び醒す」
……えー、はっきり言いますと、非常につまらなかったですね……。文章が難解で、登場人物の講釈を拝聴するばかりでストーリーを楽しめず、かなりつらいです。創元のこのシリーズの中ではかなりお薦めしにくい作品かなと。
ザレスキー物は、隠遁生活を送るザレスキーのもとに友人のシールが世間を騒がす事件を持ち込む、というもの。確かに(史上初の)安楽椅子探偵的で、事件の内容も結構センセーショナルで面白いんですが、延々とザレスキーの薀蓄語りがありダラダラ長いのが正直しんどいです。王族の血を引くが隠遁生活を送っているという設定のザレスキー自体も、濃いキャラのくせに大して魅力的ではありません。4編とも、正直あんまり楽しくはないですね……。
一方「推理の一問題」は、ストーリー的にも探偵小説的にも完成度が高く非常に面白い作品です。とある婚約した間柄の貧しい男女と金持ちの父娘が出会ったことで起きた事件の顛末を推理する話。込み入った事件が実にすっきりと解決する様は見事で、何より読んでいて楽しいのが良いですね。
カミングズ・キング・モンク(上級貴族の暇を持て余した金持ち)物のうち、最初の「モンク、女たちを騒がす」はコン・ゲーム的で素晴らしい作品でした。モンクが暇つぶしに、どうすればロンドン中の女を引き連れて歩けるかと計画を立て実行します。軽快で洒落たストーリーが笑わせますね。
「モンク、「精神の偉大さ」を定義す」は哲学問答でまぁ長いこと長いこと、これはもうしんどいとしか言いようがありません。これはたぶん小説じゃないですね。ただの問答です。
「モンク、木霊を呼び醒す」は事件に巻き込まれたいとモンクが表に出ていない怪事件を見つけ出しそれに飛び込んでいく冒険物で、こちらはまあまあといったところでしょう。
今まで「隅の老人」「思考機械」「アブナー伯父」「フォーチュン氏」と読んできましたが、プリンス・ザレスキーとモンクはこの並びでは異質としか言いようがありません。同じく探偵小説的でありながらそのアプローチが全然違うというか、はっきり言って作者シールの書きたいものが違いすぎるのです。シールはたぶん、探偵小説という形式を通して薀蓄語りをしたいだけ。
というわけなので、普通のシャーロック・ホームズのライヴァルたちが良い人には全くオススメ出来ないですね……。プリンス・ザレスキーの方が滋養に満ちていて面白い、って人もいるんじゃないかとは思いますが、とりあえず自分にはとっつきづらい短編集でした。
書 名:プリンス・ザレスキーの事件簿(1895~1936)
著 者:M・P・シール
出版社:東京創元社
創元推理文庫 Mシ-3-1
出版年:1981.1.23 初版
1997.7.11 3版
評価★★☆☆☆
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