死の競歩
『死の競歩』ピーター・ラヴゼイ(ハヤカワ・ミステリ)

1879年11月の肌寒い月曜日の午前1時ロンドン郊外イズリントンの農業ホールで”ウォッブルズ”が開始された。”ウォッブルズ”は”気の向くままに行く”とも呼ばれる19世紀末ヴィクトリア朝に流行した徒歩競技で、その過酷さはやはり当時盛んだったナックルファイティング(素手の拳闘)以上といわれた。競技は昼夜をわかたず6日間にわたって続けられ、その間最長距離を走破したものに賞金の500ポンドが与えられることになっていた。レースの参加者は、プロの選手とは見えない貧弱な体の”謎の男”を含めて16人、興味の焦点は軍人で紳士然とした選手権保持者のチャドウィック大尉とスタイルを無視した力強い走法で数々の競技に勝ち抜いてきた下層庶民のダレルの対決だった。初日月曜日、レースは早くも白熱していた。ダレルが猛然たる勢いでスパートし、はじめて動揺の色を見せたチャドウィックがこれまたすさまじいスピードでライバルに追いすがり、猛烈な競り合いが演じられたのだ。そして2日目、3時間の睡眠後再び二人の対決が開始され、競技はますます興味を増すかに見えたが、そのとき気違いじみたスピードで飛ばしていたダレルが突然死亡するという事故――殺人事件が生じたのだ! ヴィクトリア朝イギリスの驚くべき再現に本格ミステリの醍醐味を甦らせた処女犯罪小説賞受賞作品!(本書あらすじより)

英国現代本格作家のトップ3(とかつては言われていた)のひとり、ピーター・ラヴゼイの処女作です。この本が訳された頃はラヴゼイは当然新人作家だったわけで、解説なんかを見るとスポーツ&歴史ミステリで有名だったようですね。まだこのクリッブ&サッカレイシリーズしか書いていなかったのでしょう。
英国本格の伝統を継いだ謎解きと、19世紀を舞台にし当時行われていた6日間の競歩大会中での殺人事件を扱うという物珍しさ&面白さで、水準は超えているようですが……キャラ・ストーリーがぱっとせずやや退屈、謎解きもかなり微妙。新人作家ですからねー、もったいないです。

時は19世紀。トラックでの6日間競歩大会中、トップを歩いていた選手が毒殺されます。容疑者は大会参加者、および大会関係者。クリッブ部長刑事とサッカレイ巡査は、大会と並行しながら尋問を行い、犯行の動機・機会を探ります。選手と共に歩きながら尋問するシーンとか最高じゃないですか、面白そうでしょ?

ところがあまりに淡々と尋問するだけで盛り上がりません。物珍しさで読んでいましたが、それも最後までは持続しないし。クリッブとサッカレイのキャラクターもありますが、それで読ませるほど掛け合いが楽しいわけでもなく。事件も終盤に畳みかけるだけです。もうちょっと長編としての緩急というか、波が欲しいところ。
また謎解きも、読者が推理するほど手がかりが与えられるわけではないですし、犯行の方法・動機・犯人像ともに読者の期待を上回るほどではありません。ラヴゼイさんはもっと出来る人だと思うんだよなぁ。

というわけで、期待していただけにちょっとがっかりでした。以前読んだ『マダム・タッソーがお待ちかね』もそれほど合わなかったし、このシリーズよりはダイヤモンド警視シリーズを読み進めた方がいいのかも。『バースへの帰還』が超面白かったですしねー。

原 題:Wobble to Death(1970)
書 名:死の競歩
著 者:ピーター・ラヴゼイ Peter Lovesey
訳 者:村社伸
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1201
出版年:1973.05.31 1刷

評価★★★☆☆
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『マダム・タッソーがお待ちかね』ピーター・ラヴゼイ(ハヤカワ・ノヴェルズ)

1888年3月、ロンドンの写真館で助手を務める男が毒殺された。捜査の結果、恐喝されていた館主の妻が逮捕される。 彼女は罪を告白し、判決は絞首刑─だが、三ヵ月後、内務大臣に届いた一枚の写真がすべてをくつがえした。そこには妻の犯行を否定する重要な鍵が写っていたのだ。処刑期日を前に、総監の命を受けたクリッブ部長刑事が極秘の捜査を開始するが……英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー受賞に輝く本格傑作!(本書あらすじより)

『バースへの帰還』が面白かったので再びラヴゼイを読みました。前回はダイヤモンド警視だったので、今回はクリップ巡査部長の活躍するシリーズです。なぜかこの本には、部下のサッカレイ巡査がでてないようで。主人公が巡査部長ってのも珍しいですけど、作品の舞台は1880年代ですので、なにかそこが関係あるのかな(当時はもっと巡査部長が上だった、とか)なんて思ったんですが、どうやらクリップは出世競争とは無縁でいたがる刑事のようです。

なーんか華やかさがないなぁ、と思いつつも読んでいくと、気がついたら一気に終わっていました。章ごとに視点が飛んで、クリップになったり館主の妻になったり、あるいは死刑執行人になったりと、読者はワケを知ってるのに登場人物は知らない、なんてこともあります。こういう構成って、読んでいるとムズムズするんですよね……思わず登場人物に教えてあげたくなります。結末はビックリしました。まさかこんなのをトリックにしてしまうとは…という感じです。似たような作品もいくつかありますが、事件の流れ的にはまさかないだろう、と思ってましたので。しかし、あの根底から変えちゃうってのは読んでいて気持ちがいいことこの上ないです。

地味な方の作品だとは思いますが、読んでいて引き込まれる作風じゃないかと思います。犯人は誰なのか?というのと、死刑執行期日までに解決できるか?という制限時間モノというのが効いているんでしょう。ダガー賞をとってる作品は、やっぱり出来がいいですね。いかにもなイギリス風味がいい味を出しています。

書 名:マダム・タッソーがお待ちかね
著 者:ピーター・ラヴゼイ
出版社:早川書房
      ハヤカワ・ノヴェルズ
発 行:1983. 初版
     1984. ?版

評価★★★★☆
『バースへの帰還』ピーター・ラヴゼイ(ハヤカワ・ノヴェルズ)

深夜、元警視ダイヤモンドはかつての職場の警察署に呼び出された。四年前、ダイヤモンドが女性ジャーナリスト殺人事件で逮捕した男マウントジョイが脱獄し、副本部長の娘を誘拐したうえ、交渉相手にダイヤモンドを指名してきたという。マウントジョイとの会見に赴いた彼は、そこで四年前の事件の再捜査を要求される。やがて埋もれていた事実が次々と……英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞を受賞した、シリーズ会心作

現代本格の男性陣と言えば、デクスター、ヒル、そしてラヴゼイです。始めて読むことにし、どれにしようか迷ったのですが、結局有名な『猟犬クラブ』にしようと思いきや、図書館内になく、しょうがなくこいつにしました。しっかし、よく出来た話で、ホントに満足です。

まず、冒頭に引き込まれました。これは来た!と思いましたね。マウントジョイの脱獄計画シーンから始まるのですが、リアリティというか、スリリングというか、映画の「フェイス・オフ」を思い出すような感じ。犯人はやっぱりマウントジョイではないわけですが、それが誰かというのもひっくり返ってばかりで、フーダニットとしての出来もよし。ダイヤモンドの性格は、ちょっとつかみにくかったですが、フロストのまとも版といったような印象を受けました…フロストよりはお気に入りですが。フロスト警部は、楽しいんだけど、優秀なのかどうかよくわからんし、部下いびりをするから苦手なんだよなぁ(大体は読んでるんだけど)。

犯人の意外性は、かなりカッコよく決まってたんじゃないでしょうか。まぁここまでするかよ、と思わないでもないですが、読んでる間はそんな雑念がとれるほど、キッパリした動機=憎悪でしたね。犯人の性格も個人的にはお気に入りですし。

しかし、やはりイギリスっぽさってのがいいんですよね。CWA賞を取るのは、やっぱりMWA賞とは質、というかタイプが明確にわかれえいます。イギリス作家びいきの僕としては、満足の一言でした。

書 名:バースへの帰還
著 者:ピーター・ラヴゼイ
出版社:早川書房
      ハヤカワ・ノヴェルズ
発 行:1996.7. 初版発行
   
評価★★★★☆