祟り
『祟り』トニー・ヒラーマン(角川文庫)

リープホーン警部補は、メキシコ人を切って逃走したルイス・ホースマンの行方を追っていた。ようやく見つかったホースマンは死体となっており、しかも発見された場所は直前まで彼が逃げ込んでいたはずのところとは大きくずれていた。犯人は、ナバホ族の間で語り継がれる魔法使い、〈ナバホ狼〉なのか? リープホーンは友人であるナバホ族の研究者、バーゲン・マキー博士とともに真実を見つけようとするが……。(あらすじ作成)

マケプレオーバー2000月間、2冊目は角川文庫の最レア級作品といっても過言ではないヒラーマンの『祟り』です。ヒラーマンの作品は基本的にミステリアス・プレス文庫から1990年代以降に出たものがほとんどですが、唯一の超入手難がこのシリーズ第1作こちらになります。
やはりヒラーマンは面白い、最高だ……みたいな気持ちで最初からずっと読んでいたのですが、終盤はやや失速した感じがあるのがもったいないです。シリーズ1作目ということで作者が若干遠慮&一般受けを狙いすぎたのかなと思います。いやもうそんじょそこらのミステリの何倍も面白いんですけどね。

いつものように、ネイティブアメリカンであるナバホ族の間で起きた事件を、ナバホ族出身の警察官、リープホーン警部補が捜査する、というものです。魔法使いである〈ナバホ狼〉の伝説という先住民感ばりばりのシチュエーションと事件、なぜ死体はあえて長距離を運ばれてすぐ気付かれる場所に放置されていたのかという謎、と序盤はとにかく魅力的です。
リープホーン警部補とナバホ研究者バーゲン・マキーがインタビューや質問を重ねながら、ナバホの習慣、伝統、神話といったものを読者にじっくりと提示していく過程がとにかく楽しいんですよね。このシリーズはアメリカ先住民を題材にしてそのコミュニティの中での事件を扱っているとはいえ、それほどお堅くも(言い方は悪いけど)面倒でもないのが非常に好ましく感じられます。

残念なのが、あくまで真相はナバホ要素がそれほど関係しなかった点。捜査はナバホ軸だったのに、最後だけアメリカ読者向けっぽいのがもったいないのです。リープホーンもそんなに活躍しないし、真相もかなり単純。終盤には、教授とその友人の娘(ともに言うなれば外部者)が囚われの身になる展開だとかいらぬロマンスだとかがあり、何だか浮いてたなぁという感じ。エンタメエンタメしていて分かりやすいですけどね。
ヒラーマンの初期作品はアーサー・アップフィールドの影響を受けていたと作者が言っているそうですが、なるほど言われてみれば。ただ、もっとナバホ族ならではの行動規範とか動機に基づく事件と真相のようなものを、こちらとしてはぜひ読んでみたいなと思っちゃうわけです(そういう点ではエドガー賞を受賞した『死者の舞踏場』の方が謎も真相も魅力的)。

とはいえ、やっぱりこのシリーズ面白いぜ!というのは大いに再確認できました。来年はあらゆる識者が絶賛している『魔力』を絶対読みます。ヒラーマン攻略、ぜひやりたいなぁ。

原 題:The Blessing Way(1970)
書 名:祟り
著 者:トニー・ヒラーマン Tony Hillerman
訳 者:菊池光
出版社:角川書店
     角川文庫 赤271
出版年:1971.01.30 初版

評価★★★★☆
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死者の舞踏場
『死者の舞踏場』トニイ・ヒラーマン(ミステリアス・プレス文庫)

ズニ族の少年と、その友人であるナヴァホ族の少年が行方不明になった。ナヴァホ族警察のリープホーン警部補は、ズニ族警察と共同で二人の捜索を始めた。が、ズニ族の少年は遺体で発見され、さらに新たな殺人事件が。やがてFBI、麻薬取締官も介入し、事態は複雑な様相を呈してくるが……アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を受賞した傑作。(本書あらすじより)

何これ超面白いじゃん!!!
と読んでいる間ずっと思っていました。想像以上の傑作っぷりに感動。いやぁヒラーマンって面白いのですね、人気があるのも当然です。アメリカ原住民の警部補がうんたらかんたらとかいうとどうしても抵抗があったのですが、そういうところにためらっちゃダメですね。部族物かよと言って敬遠していた今までの自分をタコ殴りたいです。いい教訓になりました。
あ、ちなみにこれ(ブログ「深海通信」エドガー賞攻略座談遊戯)を読んで、読みたいと思ったのです。っていうかこれさえ読んでもらえれば自分の感想なんていらないんですけど。まああくまで個人的な忘備録みたいな感想なので。

とにかく、淡々とした話ではあるんですよね。ナヴァホ族出身の警官が、ズニ族とナヴァホ族に関わる殺人事件に関わる話。基本的には聞き込みばかりの警察小説のはずなんですが、短めの尺にひとつの事件が丹念に隙なく書き込まれており、全く飽きさせません。殺人事件に関係している(らしい)少年の行方を追っていくだけで、きちんと真相に到達していく展開で、いかにもという感じですが、端的に言って上手いんです。終盤の緊迫感も充実していて、さらに苦味のあるラストも良いですよね。
何より主人公のリープホーン警部補の性格付けが秀逸。伝統を知り尽くしていながら一歩距離を取っているというこの絶妙感。故に部族物っぽい面倒くささ(というか何というか)が無く、かつ習俗・神話がしっかりと作品全体を覆っています。見事なバランス感覚。読んでいて実に心地良いじゃありませんか。

真相は何となく予想の範囲内という感じはしますが、そこに落としどころを持ってこないあたりがまた良くて。とは言え伏線もしっかりしているし、作品全体が(何しろ短いから)ストンとまとまる感じが、こう、良いんです。MWA長編賞を満喫出来ました。
ずば抜けた何かがあるわけではないですが、独特の世界観(ズニ族の儀式とかお祭りとかそういうの)がしっかり作りこまれており、そしてそれが前面に出ていながらも主張が強すぎずあくが強くない、といった感じでしょうか。「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ傑作だぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」というのではないけど、とにかく今度ブックオフ行ったら他のを買ってこようと思わせるくらいには魅力的。うむ、これは他のも読んでいかないと。

ちなみにこのシリーズはミステリアス・プレス文庫からほとんど出ていますが、角川文庫からも一冊出ています。『祟り』という激レア本。1970年(71年再版)の本で、1980年代にはすでに古本屋でも見かけないレベルの幻の本になっていたようですが、うぅん、なぜだろう……。

書 名:死者の舞踏場
著 者:トニイ・ヒラーマン
出版社:早川書房
    ミステリアス・プレス文庫 89
出版年:1995.7.31 初版

評価★★★★★