愛の囚人
『愛の囚人』ユベール・モンテイエ(ハヤカワ・ミステリ)

独房のオレスト・レアンドロスは、見るかげもなく憔悴していた。やつれはてた顔、うつろな眼――フランス屈指の大金持オレストの印象はどこにもない。旅先のイスタンブールから電報で呼び返された弁護士ジャン・カルパンはそのあまりの変りように一驚した。しかも、彼の口から、殺人容疑で拘留されているから弁護してほしいと頼まれたのだ。
しかし、事情を訊きだしたかぎり、その殺人容疑というのは、女がからんでいるものの、じつにつかみどころがなかった。……オレストは若いとき大実業家の娘と結婚したが、彼女は交通事故で死んだ。そして、秘書クロードとの第二の結婚。しかし、彼女もバルカン半島に出かけたとき、自動車事故で死んでしまった。かくしてオレストは、第二の事故があってまもなく、元大臣の娘と結婚した。その結婚のおかげで、オレストは金ばかりでなく、政治権力も握ろうとしていたのだが、しかしその矢先に、三番目の妻も謎の死をとげてしまったのだ。かくて、直接証拠もなく、動機も見つからないままに、オレストは殺人事件の容疑者になってしまったのである!
――さらに男と女の永遠のテーマ、愛とセックスに焦点をあて、のっぴきならない複雑な関係に追いこまれた男女の生態をミステリアスに描いた異色作品!(本書あらすじより)

あらすじのラストがまさに言い得て妙。「――さらに男と女の永遠のテーマ、愛とセックスに焦点をあて、のっぴきならない複雑な関係に追いこまれた男女の生態をミステリアスに描いた異色作品!」もうほんとこれですよ。
で、まぁ、変な話なんですよこれが。面白いとかそういうのは置いといてとにかく変だしイヤだし(ある意味)えぐい終わり方をする頭のおかしい話。自分勝手な男とメンヘラ・ヤンデレ気味の女の間をセックスの頻度の話ばかりしながら弁護士が取り持つだけ。超絶おそろしいです、色々な意味で。

主人公である弁護士ジャンは、妻殺しの容疑をかけられた金持ちオレストの弁護を頼まれます。オレストは3人連続妻が死んでいたのでした。調べていくうちに前妻のある謎が発覚し(超ネタバレにつき自粛)、事件は大きな展開を見せることになります。はたしてオレストとジャンはこの窮地から脱することが出来るのでしょうか?

……というあらすじだけ抜き出せば真っ当な仏ミスなんですが、基本的に現妻にせよ元妻にせよ彼とどれだけの回数セックスをしていたかとか気持ちが乗らないと勃起しないとかするとか浮気がどうとかひたすらそんな話が続くので意味不明。さらに登場人物がどいつもこいつも自分勝手でもうカオスの極み。
オレストはかなりの自己中で浮気に対して何にも罪悪感がないし、男と女の関係についても非常に独自の考え方をするので手におえません。死んだ元妻は(こいつがキーキャラ)、とにかくオレストとセックスさせろさもないと破滅させるぞ☆みたいな究極のヤンデレ感があってこれまたやばい性格。なんじゃこりゃ。

とにかく色々な点でおかしいので読んでみて損はありません。好きかと言われるとそうではないけど、何かと妙に印象に残る話ではありました。アントニイ・バークリーが新聞書評で絶賛したらしいんですが(と聞いて読んでみたのです)、確かに好みっぽいですよね、こういうの。
それにしても『悪魔の舗道』もそうですが、もしかしてモンテイエってぶっとんだ話しか書いてないんじゃないのかな……。

書 名:愛の囚人(1965)
著 者:ユベール・モンテイエ
訳 者:野口雄司
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 974
出版年:1967.03.15 1刷

評価★★★☆☆
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悪魔の舗道
『悪魔の舗道』ユベール・モンテイエ(ハヤカワポケミス)

高校の新任教師として地方の町に来た歴史教師バルナーブ。一見ごく普通の町だが、そこの住人は明らかにおかしかった。生活を切り詰めつつ巨大な犬を飼う夫婦、二匹のイタチを買う女体育教師、豚を飼う神父。そしてついにバルナーブのもとに一通の手紙が届き……。(あらすじ作成)

モンテイエの作品で一番有名なものは何とか賞を取った『かまきり』だと思いますが、こちらの『悪魔の舗道』も一部有識者(適当)の間では評価の高い作品です。自分もこれをおすすめされたので読んでみたわけです。

あらすじからも分かる通り、いかにもおフランスブラックユーモア風バカ導入から入る話。中盤まではこの設定だけで文句なしに面白く読ませたんですけどね……後半は中だるみというか、そんなに盛り上がらないせいで、全体的には微妙かなという印象です。ネタは良いんだから、もっとたたみ掛けていって欲しかったなぁと。
終盤でなかなかの事件が起きることは起きるのですが、そこから先の展開が完全に想定の範囲内ですし、これだけ町ぐるみの大事なのにこうもあっさり片が付いてしまうのでは正直もったいないと思います。肩透かしというか。プロットだけ見ると、もうひと捻り要求したくなってしまうのは贅沢というものでしょうかねー。

もっともモンテイエが一番書きたかったのは、冒頭で言う「国家機密以上のもの」のブラックさで、後半明かされる大スキャンダルは確かに面白かったです。これはフランスならでは……というか欧米ならではのもので、日本の読者にとってはあくまで人ごとに過ぎないから、どうしてもネタのインパクトが弱くなるのは仕方ないかもしれませんね。

まあネタバレになるので詳しくは語れませんけど、とにかくとんでもない作品であることは確かかなと思います。フランスミステリの突飛さがモロに出た感じ。短いせいかこういうのはこういうので楽しめてしまうから、フランスミステリはやめられないのです。

書 名:悪魔の舗道(1963)
著 者:ユベール・モンテイエ
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1088
出版年:1969.9.30 1刷

評価★★★☆☆