神は死んだ
『神は死んだ』ロン・カリー・ジュニア(白水社エクス・リブリス)

「神の肉」を食べたために、知性が高度に発達した犬へのインタビューをはじめ、「神の不在」がもたらす「ねじれ」の諸相に、斬新な語りとポップな感性で切り込む。全米で話題騒然の新人による、異色の9篇を収めた連作短篇集。“ニューヨーク公立図書館若獅子賞”受賞作品。(本書あらすじより)

ガチで神が死んでしまった世界に生じた出来事を描いていく連作短編集。全体的にシニカルなユーモアが冴えていて非常に読みやすいです。文学的宗教的に云々とか社会風刺が何とかとかでなく、ただただストーリーがめちゃくちゃいいんだなぁ。いやぁ素晴らしかったです。

神が死んだことで起きる混乱や再生が一話一話語られていくのですが、段階を追って世界が変容していく様が理屈抜きに面白いんですよ。神に代わって子供を信仰するようになった街とか、神を食べて神的力を得た犬のインタビューとか、新興宗教同士の戦争とか、もう設定だけでご飯三杯はいけます。何てったって、神が死んだことが公式にアナウンスされるんですよ、超面白いじゃないですか。
風刺側面が強すぎず、あくまでストーリーで引っ張っていこうという作者の書き方が嬉しいです。自分は無宗教徒ですが、むしろそれゆえ神の不在により混乱するアメリカ合衆国という舞台を眺めるのが楽しいのかな。設定的にはSFっぽいですが、そこまでSFも強くなく読みやすいです。これはおすすめ。

以下、個別に簡単な感想を。

「神は死んだ」
紛争のさなかのスーダン・ダルフール地方。神は現地のディンカ族の若い女性として姿を現す。米ブッシュ政権のパウエル国務長官は、神と難民キャンプで出会い、自らの過去に対する贖罪を試みる。しかしそこに、武装勢力が迫ってくる……。(本書あらすじより)
神が死にます(こいつ弱い)。

「橋」
普通の学生である彼女は未来への幸福に満ち溢れていた。そんな中見た光景とは……?
神の不在による影響が出始めていること示す一編。こうして徐々に崩壊が始まっていく……。

「小春日和」
お互いに銃を突きつけ合い、カウントダウンを始める二人の若者が、お互いの脳味噌を吹っ飛ばした。神を失い、すべてを「さっさと終わりに」しようと無軌道に暴走する十人の大学生たち。ささくれ立った語りが疾走する。(本書あらすじより)
本書の見所の一つである一編でしょう。この緊張感に満ちた語り、「神」の不在が告げられたことでカオスに陥る世界が存分に伺える作品です。ミステリっぽい趣向もなかなか。

「偽りの偶像」
神に代わって子供を信仰するようになった地域の物語。
屈折した気持ちを抱く主人公の医師が魅力的。彼が最後にたどり着いた結論は、皮肉なものではあるのですが、むしろ幸せなものであるように思えます。この人の書く話は、あんまり厭ではなくて、どこか救いがあるように感じられるのが非常に好ましいですね。

「恩寵」
神の不在が一般化した世界のいびつな面を描く掌編。
どうということはない一編ですが、「橋」と比べることで、この世界の有り様の変化が感じられます。

「神を食べた犬へのインタビュー」
「神の肉」を食べたために、知性が高度に発達した犬への突撃取材の記録。周囲の人間の思惑に翻弄される犬と仲間たちの流転を通じて、世界に対する悲しみとともに、「人間性」そのものが問われていく。(本書あらすじより)
おそらくこの作品の中で最も面白いであろう一編。素晴らしいです。何と言うか「神ユーモア」的なるものと普通に面白いストーリーと人間批判が結び付いたような話。こういうユーモアは大好きなんですよ、自分。「神」になった犬があくまで犬であるのもかわいいです。

「救済のヘルメットと精霊の剣」
さらに年月が経った世界では、「ポストモダン人類学軍」と「進化心理学軍」の熾烈な戦いが続いていた。そんな時代に若者は……?
「偽りの偶像」と連関性を持った作品です。このことに意味があるのかなぁと思いながら読んでいましたが、最後まで読んだら分かりました……こ、これは泣ける……。あとこの斬新過ぎる恋愛方法をネット社会にどっぷり浸かった現代の若者に読ませてみるとどうなるのか気になりますね。

「僕の兄、殺人犯」
神が”いない”世界でこそ起きる罪を描いた物語。
んんんん……これはなんかちょっと良く分からないです。

「退却」
「ポストモダン人類学軍」と「進化心理学軍」の熾烈な戦いは、いよいよ終局へ。世界の崩壊が始まる……。
読んでいて思わず身体が震えてしまいそうなほどに強烈、かつはかない物語。何て壮絶で、かつ美しいお話なんでしょう。この連作短編集の最後を飾る物語として、これ以上のものは望めないでしょう。

書 名:神は死んだ(2007)
著 者:ロン・カリー・ジュニア
出版社:白水社
    エクス・リブリス
出版年:2013.4.25 初版

評価★★★★★

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