桃色の悪夢
『桃色の悪夢』ジョン・D・マクドナルド(ハヤカワ・ミステリ)

眼前に広がる桃色一色の世界。無理やり得体の知れない薬を注射され、精神病院に囚われていたトラヴィス・マッギーは、必死で脱出を試みていた。半年も経ったかと感じられる頃、ようやくまわりの世界がはっきりしはじめた。一人の女がぼんやりした表情で、自分の頬にゆっくりと爪を刺し込んでは引き抜いている。血がベージュのブラウスにしたたり落ちる。マッギーはその女の脇を通り抜け、正面入口にたどり着いた。明るい、さわやかな世界が、そこにはあった。股を広げて床に座り込み、小さな乳房をゆっくりと揉んでいる娘をあとに、マッギーは外へ出た……。
ふしだらな妹ナイナの性根を叩き直してくれという、旧友マイクの頼みを安請け合いしたマッギーを待ち受けていたのは、彼を狂人にして闇に葬り去ろうとする何者かの奸計だった。しかも、ナイナの恋人が一万ドルの現金を残して惨殺されるに及んで、事件は否応なしに複雑怪奇な様相を呈していったが……。全長52フィートのハウスボート〈バステッド・フラッシュ〉号を本拠に、アメリカ大陸を縦横に飛びまわる現代のロビン・フッド、トラヴィス・マッギー! ミステリ界きってのストーリイ・テラーが、濃紺、赤、紫……と流麗闊達な才筆で描き分け、今もなお全米の人気を独占し続ける超ベストセラー・シリーズ第二弾!(本書あらすじより)

彼女と付き合いだして2周年になったのを記念して、伊豆高原の旅館に行ってきました。おすすめされてここに決めたんですけど(というか予約したのが行く前日っていうね)、もう素晴らしかったです。他にもクラシックジュエリーの博物館やらテディベアの博物館やらサボテンとカピバラの跋扈する公園やら。ついでに小田原で箱根名物の寄木細工なんかもどかどか買っちゃったりして。へっとっと。いやぁ楽しゅうございました。
ちなみにお伴に持って行ったのは『剣闘士に薔薇を』。50ページしか進まなかったな……まぁそんなんもんです。

さて、ジョンマクのトラヴィス・マッギーシリーズ第2作です。『濃紺のさよなら』がもうむちゃくちゃ面白かったので大いに期待して読んでみたら……、あ、あれれ? もしかしてトラヴィス・マッギーって当たり外れが大きい?
マッギーが女の子と日がな一日いちゃついたり、だらだら聞き込みに回ったり、とプロットの練りが弱く、全体的に低調。終盤の精神病院のくだりだけという感じで、最後も結局マッギーが解決したというわけではないのでカタルシスも少なめ。うーんこれは厳しい。

トラヴは親友の妹のいいなずけが殺された事件を調べていくうちに、巨額をめぐる陰謀を掘り当てていきます。ですが、序盤は聞き込みばかりで動きがなく、登場人物にもあまり魅力がありません。親友の妹といちゃついてしまった、どうしよう……みたいな悩みとか抱えたりもするんですけど、一晩中セックスした後にそんなこと言われてもいまさら感やばくて全然ピンと来ません。

で、この本のメインはなんといっても終盤、敵に捕まったトラヴが、怪しげな精神病院に放り込まれ、植物人間にさせられそうになるシーンです……ってなんじゃそりゃ。いつからこのシリーズは大衆スパイ小説みたいになったんですか。いやここらへんは確かに面白いんですよ、ですけど、なんか話全体から浮き過ぎてるし、しかも脱出するためにかなりの人数が死ぬレベルの結構なことやってるんだけどトラヴさん大丈夫なんですか。それで結局トラヴ独力では解決できないっていうのも……うーん、おまえあんま活躍してないな……。

と、いうわけで、やや通俗要素が強すぎて不調気味な一冊でした。トラヴィス・マッギーシリーズは当たり外れが大きいそうなので、ちょこちょこ読みながら当たりを探していきたいと思います。おすすめなどあればぜひぜひお教えください。

書 名:桃色の悪夢(1963)
著 者:ジョン・D・マクドナルド
訳 者:吉田誠一
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 929
出版年:1966.03.20 初版
     1986.02.15 2版

評価★★☆☆☆
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濃紺のさよなら
『濃紺のさよなら』ジョン・D・マクドナルド(ハヤカワポケミス)

全長52フィートの、はしけ型の居住用ヨット〈バステッド・フラッシュ〉号─もめごと処理屋、または取り返し屋として知られるトラヴィス・マッギーの住み家である。金のあるうちは、酒、女、博奕で遊びほうけ、金がなくなると、やおら腰をあげて、生活費を稼ぎ出すのである。その仕事の内容は警察には言えないようなものがほとんどで、事件が片付けば、半分の分け前をもらう仕組になっている。その日もまた、新しい客があらわれた。名前はキャシイ・カー。マッギーは、金がなくならないと仕事を引き受けない主義だったが、今度ばかりは、女友達チューキー・マッコールのたっての願いもあって、重い腰をあげることにした。
キャシイは涙ながらに訴えた─彼女の父は第二次世界大戦中、ある不正な方法で大金を儲けた。だが、父は除隊した後、酔っ払って人を殺した。今は終身刑で服役中だが、その間に、キャシイにジュニア・アレンという男が近づき、キャシイを手もなく籠絡してしまった。そして、キャシイの父の大金を捜しあてると、直ちに逐電した。そこで、アレンを捜し出し、盗んだものを奪い返して欲しいというのだったが…… 現代のロビンフッドと異名をとるトラヴィス・マッギーのスリリングな冒険! カラー・シリーズ第3弾!(本書あらすじより)

カラー・シリーズ第3弾、とあらすじにはありますけど、これはあくまで紹介順の話であって、トラヴィス・マッギーシリーズとしては第1作にあたります。タイトルに必ず色が入っているので「カラー・シリーズ」ですか、その言い方聞いたことないんですけど。
いや、全く油断していました。しょせん広く読まれた感じのゆるハードボイルドだと思っていたんですよ。いやその通りなんですけど、これは傑作です。不覚にも感動してしまいました。トラヴィス・マッギーがね、もうね、ただただかっこいいのです。

話は極めてシンプル。ジュニア・アレンという卑劣でろくでもない男にひどい目に合わされた女性が、マッギーのもとに相談に来る。マッギーはくそったれアレンが何をしていたのか探り出す。そして取られたものを取り返すべく、マッギーはアレンと対決する。以上。
「取り返し屋」というか、まぁ何でも屋みたいなトラヴィス・マッギーは、ヨットに住み、金がなくなると仕事を受ける、という、タフなプレイボーイ。彼はめちゃめちゃいい奴なのです。根が心底優しいし、面倒見がいい。どうしようもなく人間臭い。あぁもうカッコイイなぁ。
読んですぐ気付くのが、一人称小説で、地の文での彼の一人語りが多いこと。思うに彼は随分と分析的に物事を見られる人なのですね。ついでにロマンチスト。だから、つらつらと考えを述べるわけです。話の進行上確かにいらない部分ではあるのですが、しかし読者はそんな彼に感情移入せずにはいられません。彼の考えがよく分かるからこそ、彼の行動にもますます惹かれてしまうというか。

そして敵役が非常に明確。女をボロボロにするクズ、アレンです。こいつを何とかする、という目的が最初からあり、話の筋が実にはっきりしています。話が進めば進むほどアレンがクズであることが分かるのでなおさら。被害者女性のかわいそうなことったらありません。そんな彼女達に対して優しいマッギー。
当然のことながら、終盤、マッギーとアレンの対決となります。まさにタフファイト。アレンの衝撃的な退場。胸を打つラスト。マッギーは、優しい故に傷付きやすいのですね……何これ、俺、泣いちゃうよ。

というわけで(?)、非常に面白かったです(ちと褒めすぎな気もするけど気にしない)。中盤がややダレるかもしれませんが、まぁ語りが充分面白いので許容範囲内かな。これはもう、シリーズの他の作品も読むっきゃないですね。ってどれを読めばいいの。
ジョン・D・マクドナルドは、『37の短篇』に収録されている「懐郷病のビュイック」がめっちゃ面白かった(ユーモアの感じがドストライクだった)ので、ためしに『濃紺のさよなら』を買っただけなのですが、大正解だったと言わざるを得ません。トラヴィス・マッギーシリーズに詳しい方、ぜひともおすすめ作品を教えてください。あとはノンシリーズ作品もいろいろあるんですよね……いっやぁ楽しみ。久々に良い作家を見つけてしまったようです。

書 名:濃紺のさよなら(1964)
著 者:ジョン・D・マクドナルド
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1004
出版年:1967.10.15 初版
    1983.2.15 2版

評価★★★★★