盗まれた指
『盗まれた指』S・A・ステーマン(論創海外ミステリ)

トランブル城に住む伯父アンリ・ド・シャンクレイ、幼い頃に両親を亡くした娘クレール、美しい家政婦レイモン夫人、若い大男ジャン・アルマンタン。ベルギーの片田舎の古城で次々と起こる謎の死。フランス冒険小説大賞受賞作家によるゴシック・サスペンス恋愛ミステリ!!!(本書あらすじより)

平均月2冊のペースで刊行されている論創海外ミステリですが、11月末はなんと2冊ともフランス・ミステリだったのです。片やボアロー、片やステーマン(まぁステーマンはベルギーだけど)。よっしゃ来たぜと。ついに本格的にこっちにも手を出してくれたかと。シムノンとディドロで終わりじゃなかったんだなと。
とめっちゃ喜んどいてアレですが、『盗まれた指』は、び、微妙だわ……。トリックがどうとかフェアじゃないとかなら、まぁ先日読んだボアロー『震える石』も同じようなものなので構わないんですが、読んでいて単純に面白くないのがつらいです。

トランブル城である悲劇が発生(これはネタ的には面白いので一応伏せます)。伯父を訪ねて城を訪問していた娘クレールの運命と恋の行方はいかに。という本格ミステリ+ロマンス+サスペンス、みたいな内容です。

ステーマンは基本的にトリックメイカーなんですよね。詳しくは超気合いの入ったストラングル成田さんの解説を読んでいただければ良いのですが、要するにトリック一発ネタのクリスティー作品群にかなり近いのです(クリスティーは大ネタ一発トリックじゃない作品の方が多いですが)。過去読んだ『六死人』や『殺人者は21番地に住む』もそうでしたが、本作もまさにそのど真ん中。
問題は、その真相解明に至るまでが厳しいんですよ。大トリックを核として、あと読者の目をそらす要素を入れまくるというタイプのミステリって本来は好きなんですが、キャラクターの慌ただしい出入りやらやっすいロマンスやらとっちらかった捜査やらで全然頭に入ってきません。あんまり言いたくないけど訳もね……。探偵役であるマレイズ警部(ちなみに本書がシリーズ1作目にあたります)の活躍もイマイチだし、死体から指が切り落とされ持ち去られていた理由とか一切の期待を超えてこないし。ストラングル成田さんも若干褒め切れていないような……。メイントリック自体はそこまで悪くないんですが。

というわけで(単純に小説が上手くないんじゃね疑惑のある)ステーマンは大変です。一番有名な『六死人』も微妙なのですが、一方で『殺人者は21番地に住む』なんかはフランス・ミステリらしい傑作なので、振れ幅が大きいのかなぁ。読んでないけど『マネキン人形』も期待を上回らないと聞くし。『三人の中の一人』はかなり面白い怪作らしいけど、手に入りそうもないし。とりあえず手持ちのやつだけでも少しずつ読み進めようかな。

原 題:Le Doigt volé(1930)
書 名:盗まれた指
著 者:S・A・ステーマン S. A. Steeman
訳 者:鳥取絹子
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 183
出版年:2016.11.30 初版

評価★★☆☆☆
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殺人者は21番地に住む
『殺人者は21番地に住む』S=A・ステーマン(創元推理文庫)

霧深いロンドンの街を騒がす連続殺人。犯人は不敵にも、現場に〈スミス氏〉という名刺を残していた。手がかりもなく途方に暮れる警察に、犯人の住居を突き止めたという知らせが入る。だがしかし、問題のラッセル広場21番地は下宿屋なのだ。どの下宿人が犯人なのか? 二度にわたって読者への挑戦状が挿入される、ファン待望の本格長編。(本書あらすじより)

仏ミス固め読み中。
ロンドンを舞台にした連続無差別通り魔殺人。容疑者が限定された純粋な犯人当て、迷走する捜査とロンドン市民、効果的なトリックなど、あくまで古典的ながら現代でも十分通用するミステリだと思いますし、自分はかなり驚きました。これは良作。

それはもう気持ちいいくらいに無差別通り魔殺人が相次ぎ、警察はもろもろあって容疑者が住むアパートを特定します。一見有能そうな警視はちょっとでも手がかりがあると食いつき、(短絡的すぎだろと呆れる読者を尻目に)即逮捕という究極のアホさを見せつけながら、アパートの面々を逮捕していくのですが、なかなか犯人は見つからず……。
……というあたりいかにも古典ミステリのぐだぐだ感に結びつきそうなお話なんですが、意外とそうでもなく、焦る警察の描写・ずんどこ死ぬロンドン市民によってかなり読ませる物語となっています。おまけにこの警察のアホっぷりにもちゃんとストーリー上の意味があり、読み終わってから評価を上げました。

トリックはこれまた基本的なものですが、用い方がシンプルながらうまいですし、何よりこの明かし方が最高に良いのです。あらゆる本格ミステリは犯人の名前を明かすシーンに苦労していますが、ここまで見事なのはあまりないんじゃないかって気がします。仏ミスっぽいいきなり感含めて高評価ですよわたし。

まぁ読者への挑戦を2回も挟むくせに、伏線とかは結構いい加減なんですけどね、仏ミス(作者はベルギーだけど)本格ミステリとしてはかなり上位に来そうな作品だと思います。面白かったですよ。『六死人』のやや時代遅れ感(低評価)と比べると、はるかにこっちの方がいいと思います。また復刊しましょう創元さん。

書 名:殺人者は21番地に住む(1939)
著 者:S=A・ステーマン
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 212-1
出版年:1983.12.30 初版

評価★★★★★
六死人
『六死人』S=A・ステーマン(創元推理文庫)

五年前、大金持ちになる夢を胸に世界じゅうに飛び立った六人の青年たち。そしていま彼らは再会のため、それぞれが帰国の途に着いていた。だが、そのうちの一人が客船から海に落ちて行方不明になってしまう!やがて、一人、また一人と、何者かに次々と殺されてゆく……。(本書あらすじ、一部カット)

出来れば、読む前にはあらすじを見ないほうが良いと思います。ちょっとネタバレ気味ですね。

さて、フランスの作家の中でも特に本格よりということで、日本では割と人気のあるステーマン、初読です。
ストーリーは面白いし、アイデアも(古いとか元祖とか関係なく)悪くはない……のですけど、あくまでそのアイデアのみで小説を作ってしまったのが惜しい作品です。もっとこう、一人の女を巡るドロドロをねちっこく書くとか、嵐の薄暗さを気味悪く演出するとかすべきだったのではないかな、と。

トリックについては、こりゃあもうさすがに現代人なら分かってしまうだろうし、真新しさはほとんどないのですが、「六死人」という設定の奇妙さが良く、六人が最初から集まっているのではなく徐々にそろっていくことでサスペンス感を盛り上げているため、十分楽しむことは出来ると思います。この点についてはそんなに不満はないのです。
問題は、サスペンス感がかなり足りないことです。だって今にも次の誰かが殺されそうなんですよ、もっとみんな焦ろうよ、緊迫感出そうよ、そんな謎解きとかがおっぱじまる黄金時代な空気とかいらないよ、雰囲気が壊れちゃうじゃん、もったいない……とずーっと思ってしまいました(特に3、4人目ですね、終盤はさすがに作者も頑張っていたのですが)。
加えて、せっかくおフランスらしく(ステーマンはベルギー人ですけど気にしない)一人の女を巡る男同士の対立っていう要素を入れたんですから、そこをもっと掘り下げるべきじゃないですか。「そうか、お前も彼女のことが好きなのか」でほとんど終わっちゃって、このエピソードの無駄遣い感が半端ないです。まぁこれのお陰で、展開的にはちょっとだけ読者を驚かせてはいるんですが、やはりもったいない。

思うにステーマンは、フランス語圏作家の中では、お家芸とも言える心理描写が例外的に上手くない作家さんだったんじゃないでしょうか。英米作家を見習い本格っぷりを強めたのも、逆に言うとそっちでしか勝負出来なかったからなのでは。いや他の作品読んでいないので適当ほざいているのですけど。『マネキン人形殺害事件』と『殺人者は21番地に住む』は買ってあるので、いずれ読んでまた考えたいと思います。

っというわけで、これがもし別のフランス語圏作家に調理されていたら、もっとクオリティの高い読ませる作品になったんじゃないかなぁ、などという妄想をついついしてしまうような作品なのでした。ネタが良いだけに、もったいないですね。

書 名:六死人(1931)
著 者:S=A・ステーマン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mス-4-2
出版年:1984.8.24 初版
    2007.9.14 2版

評価★★★☆☆