縞模様の霊柩車
『縞模様の霊柩車』ロス・マクドナルド(ハヤカワ・ミステリ文庫)

幼くして実母に捨てられたハリエットは、いつか孤独で、放縦な性格を身につけた女になっていた。そんな彼女が、突然メキシコから連れ帰った得体の知れぬ男。財産めあてのプレイボーイか? 彼女の父と義母の不安はつのった。男の身元調査を依頼されたアーチャーはさっそく調査を開始した。しかし、車をとばす道中で行き交わした縞模様の霊柩車は、アーチャーの眼にただならぬ悲劇の前兆として映った! 円熟期の代表傑作。(本書あらすじより)

前に読んだ『ウィチャリー家の女』がまぁ微妙だったので、あんまりロスマクは合わないのかなと思っていたんですよ。『さむけ』読んでないけど。
ところがあぁた、この『縞模様の霊柩車』を読んでみたら、もうあれですよ、大傑作ですよ。すごいよ。ロスマクなめてたよゴメン。自分が変わったのかそもそも『ウィチャリー家』が好みじゃなかったのか。どっちでしょうね。
サンフランシスコからメキシコまでアーチャーは飛び回り、非常に複雑なプロットを解き明かします。ひたすら話を聞いて回るだけなのに、適度に事件を挟み込むせいか全く飽きさせないし、何よりこの文章に没入してしまうのです。

退役大佐から娘と駆け落ちもどきの逃走を図る得体のしれない画家の素性調査を頼まれたアーチャーは、その過程で1つの殺人事件にぶつかります。この流れがまず無駄がなく発端として魅力的。そこから辿れる道を私立探偵は当然ハードボイルドらしくインタビューしながらつぶしていくんですが、適度に新事実が出て来るのが良いですね。全く退屈しません。
『ウィチャリー家』はもっと単調で何だこのインタビューマシンはとすっげぇ退屈だった気がするんですが、今回はメキシコに飛んだりとダイナミックだったり、ちょいちょい殺人事件が出て来たりと緩急がついてるのです。そして過去の殺人事件が現在の殺人事件と非常に複雑に絡んでいて、いったい何が起きたんだろう、と頭を使ってるだけで読んでて十分に面白いのです。最後の最後に(ここのどんでん返しもベタだけど悪くない)アーチャーは殺人犯の告白を聞くことになるんですが、これがまさにインタビュー探偵としての極致なのでしょうか。よく分かりませんが。

もちろん、プロットに本格ミステリ的な面白さがあるとはいえ、プロットだけなら面白さにもある程度の限界はあります。しかしこの『縞模様の霊柩車』、さらに端役を含めて登場人物の微妙に個性的な描き方がとっても良いのです(というか主役級より端役の方が良いキャラしてます)。淡々とした筆致で、それぞれの人生の一部分を切り取り、その人物を必要十分に描きあらわすロスマクさん、うまい、うますぎです。たまに戻ってきて2回登場したりするんですが、このやり方もうまいし。

というわけで、もう大満足でした。ロスマクやっぱりすごいんですね……この次作が『さむけ』ですもんね。これはもう絶対読まないと。

書 名:縞模様の霊柩車(1962)
著 者:ロス・マクドナルド
訳 者:小笠原豊樹
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 8-2
出版年:1976.05.31 1刷
     1991.05.31 5刷

評価★★★★★
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ウィチャリー家の女
『ウィチャリー家の女』ロス・マクドナルド(ハヤカワ・ミステリ文庫)

フィービ・ウィチャリーが失踪したのは霧深い11月のことだった。それから三ヶ月、彼女の行方はようとして知れなかった。そして今私立探偵のアーチャーは、父親の大富豪ホーマー・ウィチャリーに娘の行方を探してくれと依頼された。フィービの失踪は彼女の家庭の事情を考えれば、当然のことだった。調査を進めるアーチャーの心にフィービの美しく暗い影が重くのしかかる!アメリカの家庭の悲劇を描き出す巨匠の最高傑作。(本書あらすじより)

初ロス・マクドナルド。毎月恒例ハードボイルド読書会用に読んだものです。『さむけ』と並ぶ彼の代表作で、近頃話題の新版『東西ミステリーベスト100』では57位にランクインしています。
ですけど……うぅん、面白いことは面白いんですが、そこまで傑作とは感じられませんでしたね。やっぱりハードボイルドは合わないのでは、というか、ロスマクの空気感にそこまで浸れなかったというか。とりあえず、『さむけ』を読むまではいろいろ保留にしたいところです。

まず、今まで読んで来たもの(『マルタの鷹』『長いお別れ』)と比べ、vs社会とかvs組織ではないので、より(こんな言い方は良くないけど)本格ミステリっぽい、とは言えると思います。
失踪した女性の行方を突き止めるべく、探偵アーチャー(結構正確的にはぬるめなのね)は聞き込みを続けていくわけですが、これ自体は面白いのです。そうですね、350ページまでは十分読ませます。延々と証言を集め、登場人物の関係が整理されていく様が、地味中の地味ながらもかなり読ませるんですよ。
んがしかし、個人的には、あることが起きて以後、急速につまらなくなっていった印象があります。事件への関心がなくなったというか。結末や読後感もなかなか良かったのですが、それでも終盤乗れたかというと微妙。んー、なぜでしょうね。
ネタバレっぽくなるので上手く言えませんが、つまり350ページまでは「消えたフィービの謎」という推進力があり、なおかつ事件の裏が読みにくいという面白みがあったんです。が、ある点以降、いきなり安っぽく、ありきたりの事件になってしまったように思えるんですよ。アーチャーのぬるさも話としてはいくらか裏目に出ているかもしれません。

もうひとつ、これは読書会であげられた問題点らしきものなんですが、アーチャーの聞き込みは次の選択肢があまりに一つに限られていることが、面白みを損なう原因ではないか、という意見がありました。ある人のところに行き、話を聞き、誰それが次の情報を持っているらしいことが分かり、次の章ではその人のところに行き……という。例えるなら、選択肢が一切ないアドベンチャーゲーム。普通なら、ここまで次の相手が限定されているようには感じないため、探偵が誰のところに行くか、どういう話を聞き出すのか、というある種の意外性・楽しみが生じるわけですが、どうも『ウィチャリー家の女』はその点が圧倒的に弱いのではないか、ということですね。なかなかなるほどと思わせます。

というわけで、総じて悪くはないのですが、はまれなかったなぁというところでした。残念。次のハードボイルド読書会の課題本はリューイン『A型の女』だったのですが……ま、これの感想はまたしばらくしたらあげますので、乞うご期待ということで(笑)

書 名:ウィチャリー家の女(1961)
著 者:ロス・マクドナルド
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 8-1
出版年:1976.4.30 1刷
    2009.11.15 17刷

評価★★★☆☆