闇と影 上 闇と影 下
『闇と影』ロイド・シェパード(ハヤカワ・ミステリ文庫)

1811年12月7日。ロンドン郊外ワッピング地区のラトクリフ街道沿いで服地商を営むティモシー・マーの一家を悲劇が襲った。マー夫妻と赤ん坊、それに住み込みの徒弟の四人が、無残に殺害されたのだ。恐怖に震えあがる人々は迅速な犯人逮捕を望むが、捜査は進まない。そこで、テムズ河川警察に所属するホートン巡査は独自の捜査を開始するが、やがて第二の事件が……犯罪史上に名高い未解決事件を描く、歴史ミステリの快作。(本書上巻あらすじより)

い、いやー……この作品は……。
えー、珍しく断言しますが、この『闇と影』なるミステリ、全くもって面白くないです。読む価値がないとまで言うつもりはさすがにないですが、正直ねー、これを読む時間がもったいないのでは。

以下、文句を並べます。気分が悪いという人は見ないでくださいな、はい。


とにかく読み終わって思ったのが、「ハヤカワ・ミステリ文庫でなんてもの読ますんだコラ」でして。はっきり言って、これは誰もが想像する純粋なる「ミステリ」ではない、と思います。いえね、ジャンルの縛りがどうこうとか、もはやそういう話ではないんですよ。

簡単にこの本について説明すると、現在パートと過去パートが交互に語られるという、まぁ割とありふれた手法を用いて話が進行します。現在パートは1811年、かのラトクリフ街道の殺人の捜査にあたる、警官や治安判事の物語が語られます。そして過去パートでは、(諸事情あって)16世紀に生まれたある男の物語が語られます。いろいろあるのですが、例えば奴隷貿易とか、カリブの海賊とか、まぁこちらはいろいろてんこ盛りです。ここまではいいですね、はい。
で、その内容なのですが。

先ほどジャンルがどうこうという話をしましたが、まず、作者が何を書きたいのかさっぱり分からないのです。基本的には「大英帝国の闇と影」なんだろうしょうけど、それを説明するためにカリブの海賊:ラトクリフ街道の殺人を6:4の割合で書いてもしょうがないじゃないですか。特にラトクリフは分量的に多くないのにダラダラダラダラ書きやがって、ホント何がしたいんでしょうね、シェパードさん。
主人公(?)ホートン巡査ら捜査組の描き方も不十分。彼らの熱心さ、捜査に燃えるその理由が全く読者に伝わらないのです。19世紀警察流“お粗末”捜査が地の文でダラダラ語られ、じゃあそこに歴史ミステリ的興味が湧くかといえばそんなこともなく、ただダラダラ捜査がなされる(というかなされない)のを延々と見せられるのです。そもそも「主人公(?)」というのも問題で、ホートン巡査の立ち位置もはっきり言って曖昧。中途半端に過去のエピソードやら奥さんやらをちょろちょろ出してキャラ付けらしき事をしてますけど、もうただただ書き足りないです。

いやしかし、ラトクリフ街道の殺人は、あくまで作者が大英帝国の裏を描く材料に過ぎず、ミステリなんてどうでもよかったのかもしれない、つまりメインは“ファンタジー”なんじゃないか、と反論する人がいるかもしれませんね(作者とか)。しかし、そうとは言い切れない中途半端さが目立つんですよ。
だいたい過去編の主人公が彼一人に選ばれた理由は何なんでしょうか。「呪い」(「呪い」とか出てきちゃうんですよ、はっきり言って)の意味不明さは何なんですか。さらに言うなら奴隷貿易を書くのに第3部は全くもって邪魔じゃないですか(権力側を出すためにちゃちゃっと適当に書き流した感じ)。ってかもっと言うなら、そんなに奴隷貿易の残酷さが伝わって来ません。ロロネーはいるのか。余計な章多過ぎ。ギャーギャー。
とにかく読了後、ファンタジーにも大河物にもなりそこねたなぁ、という不満足感だけが残ります。劣化版『パイレーツ・オブ・カリビアン』といいますか。まぁ、現実の未解決事件を扱うという点でラストは上手くこなしたとは思いますよ(だってほら、真実は闇に葬られないと「未解決」にならないし)。ですけどねぇ、その場面すらあまりに描写力が貧困。


では、読者が『闇と影』を読み終わったあとに、投げつけるための壁を探したくなる理由はそれだけか……というと、あぁもう、まだあるんだなぁ。この本、とにかく読み通すのが辛いのです(その辛さに見合うだけの面白さを提供出来ているとは思えないのに)。もうなんか、文章が下手。
主語がぶれる、風景描写がピンと来ない、活劇ド下手、心理描写中途半端、地の文で説明し過ぎて退屈。これで作者さんジャーナリストって……ほ、本当ですか。こういうのは全部原作者ロイド・シェパードに問題あり、ということなわけですが、翻訳もあまりこなれた日本語とは思えないので、さらに辛さを煽るのです。
(ついでに翻訳について文句を言うと、『闇と影』という邦題はThe English Monsterという原題と比べてどうかと思いますよ。もちろん邦題を決めるのになかなか苦労なさったのだとは思いますが……うぅん、ま、どっちも安っぽいですけど。)


ぜぇぜぇ。以上。ヨッシーワールド史上最もひどい感想となってしまいました……しゅ、出版社さんに申し訳ないので消したほうがいいかな。
しかしまぁ、散々けなしといて何ですが、これはイギリス人のイギリス人によるイギリス人のための小説です。「イギリス」の成立は1707年。ヨーロッパの中では比較的若い、それゆえ“国”のアイデンティティ確立に敏感なイギリス人が読むと、ま、きっといろいろ思うところもあるんでしょう。歴史物なんてそんなもんです。

ちなみに、海賊&ファンタジー(不○)という設定は、さっきあげた映画もありますが、個人的に強くおすすめしたいのが、児童書のブライアン・ジェイクス『幽霊船から来た少年』のシリーズですね。これは素晴らしいです。ミステリ要素ありのファンタジーとしてめちゃくちゃ上質。周りに小学生がいたらムリヤリ読ませましょう。

というわけで、ロイド・シェパード作品がまた訳された場合は……ほ、ホントどうしたらいいんでしょうかね。

書 名:闇と影(2012)
著 者:ロイド・シェパード
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 383-1、383-2
出版年:2012.7.25 1刷

評価★☆☆☆☆
スポンサーサイト