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2017-09

『殺人は広告する』ドロシー・L・セイヤーズ - 2012.01.20 Fri

殺人は広告する
『殺人は広告する』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

火曜日のピム広報社は賑わしい。広告主が週会議に訪れ、数々の爆弾を落としていくからだ。ことに厄介なのが金曜掲載の二段抜き半ページ広告。こと時ばかりは兵揃いの文案部も鼻面を引き回される。変わり者の新人文案家が入社してきたのは、その火曜日のことだった。前任者の不審な死について穿鑿を始めた彼は、社内を混乱の巷に陥れるが……。流行と消費の最先端、ロンドンの広告代理店の風俗を闊達に描く本書は、見事な探偵小説でもある。ピーター卿が真相に至るや無数の挿話が一つの構図に収斂するたくらみの深さは、正にセイヤーズの真骨頂。(本書あらすじより)

セイヤーズの作品の中でも、『ナイン・テイラーズ』に次いで傑作の呼び声の高い本書ですが、まぁその通りだと思います。これは素直に面白いです。
……と同時に、非常に”セイヤーズらしくない”作品であると思います。異色作、と言ってもいいかもしれません。

そもそも最初から、ピーター卿が登場しません。犯罪自体も、何だか麻薬密輸組織とか絡んできて妙に俗っぽいし、バンターはほぼ姿を消しています。
じゃあ一体何が書かれるのかと言うと、とにかくピム広報社の内情が描かれるわけですね。セイヤーズ自身が広告会社に勤めていただけあり、その様子は極めてリアル……というか、カオスです(笑)誰も仕事してない印象しか受けないんですけど、いいのかこれで。
そしてこの雰囲気がとっても楽しいんですよ。セイヤーズ作品は何はともかくユーモアが特徴ですが、たまにそのユーモアが妙に間延びしてしまってます。中だるみしやすいんですよね。その点、そのユーモラスかつファンタジックな空気と、ミステリとしての側面が、”セイヤーズ的には”非常にバランス良く組み合わさった本書は、作者の1つの到達点ではないかと思います。いつも以上にユーモア成分が強いとは言え、ある種そのおかげで、いつものように途中がちょっと退屈になったりはしませんでした。ひたすら「重厚」なイメージの強い(そんなことはないんだけど)『ナイン・テイラーズ』とは大きく異なりますね。

ミステリとして見ると……ところで最近気付いたんですが、セイヤーズにミステリとしての完成度を求めるのはちょっと違うと思うんですよね。つまり、そういうことです(笑)

そしてその、非日常的な、さっきも言ったようにファンタジックな空気に包まれたまま、物語は一種、奇妙というか、独特な結末にたどり着きます。通常であれば、こんな結末、さすがにどーかと思うんですが、そもそもこの物語自体がおとぎ話めいているため、あまり気になりません。そう言えば、セイヤーズ作品の犯人は、例えばクリスティなどと比べると、かなり同情的に描かれていることが多いですね(全部ではないですが)。

というわけで、とにかく「異色作」と言った趣きの強い一冊でした。セイヤーズ初読者に勧めるのはちょっとどうかと思いますが、セイヤーズを1,2冊読んで、面白いと思った人は絶対読むべきです。
ピーター卿シリーズは、残り3冊。全部ハリエット・ヴェインが出ているのは偶然です、はい。

書 名:殺人は広告する(1933)
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 セ-1-9
出版年:1997.8.29 初版

評価★★★★☆
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『五匹の赤い鰊』ドロシー・L・セイヤーズ - 2011.08.02 Tue

五匹の赤い鰊
『五匹の赤い鰊』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

釣師と画家の楽園たる長閑な田舎町で、嫌われ者の画家の死体が発見された。画業に夢中になって崖から転落したとおぼしき状況だったが、当地に滞在中のピーター卿は、これが巧妙に擬装された殺人事件であることを看破する。現場に残された描きさしの絵は犯人の手になるもの、従って犯人は画家に違いない。怪しげな六人の容疑者から貴族探偵が名指すのは誰?スコットランドを舞台に、ある時は巧妙精緻に、またある時は諧謔に富む挿話を交えながら、ミステリの女王が悠然と紡ぎ出していく本格探偵小説の醍醐味。英国黄金時代の薫り豊かな第六弾!(本書あらすじより)

セイヤーズも未読長編は残すところあと4冊。早いもんですね。今年は3つも読んだので、もう読まない気もしますが。

さて、セイヤーズが純粋なフーダニットを追求して書いたとされる本書ですが、なるほど、容疑者は確実に6人、そのうち5人は「赤い鰊(レッドヘリング)」だということになります(共犯がいた場合はどうなんの?)。てなわけでひっじょーに地味な感じでして、当時の評価もイマイチだったようです。
しかしTYとしては、なかなか楽しめる作品だったと思います。確かに地味で、500ページ延々と証言と推理のみ。ただ、非常に安定した書き方だなと思いました。次々と、それこそ絶え間なく新事実が出て来るため、読者が飽きることはないと思います。個人的には、セイヤーズの作品って面白いのに、途中必ずだれちゃうんですが、まぁある意味この話は最初からだれてるわけですからね。いわば典型的な黄金時代の本格であり、本格ファンにとっては大好物、ということになります。

肝心のトリック自体は、まぁそのどうでもいいとは言いませんが、そんなに注目すべき点はないように思います(たいていセイヤーズはそうだけど)。だいたい手がかり(偽だったり偽じゃなかったり)に時刻表が出て来る時点で、ほとんどの読者は知ったことか、ってなるんじゃないですか。セイヤーズにしてはかなり具体的なトリックだとは思いますが。
犯人の意外性も、それほどではないと思います。そもそも6人全員が怪しくて、誰が特に怪しい、という誘導をセイヤーズがやってないんですよね。それにまた、犯人も何となく見当がつくんじゃないでしょうか(当てずっぽうだけど)。


ただ、それらの点はあまりマイナスにはならないと思います。その最大の理由は、この作品、解決シーンが長大で、さらにユーモラスかつ活動的であるせいでしょう。犯行の再現をここまでじっくり楽しく描いたミステリってこれくらいじゃないでしょうか。読んでる方としては読むのがただただ楽しいのであり、そこに「意外性」をほぼ求めないんです。ま、ずるいっちゃずるいですが(笑)

ちなみに謎解きは、意見交換を含め130ページくらいにまたがっています。2年前に出たバークリーの『毒入りチョコレート事件』を意識していたと思うんですが、どうでしょう?そもそもこの『五匹の赤い鰊』は、全体的にパズル的要素が非常に強いように感じます。ウィムジイも犯人を捕まえることに対してそんなにうじうじ考えてはおらず、「殺人」という雰囲気がのどかな村の中では極力抑えられています。これもまたフーダニットを意識した結果、なのでしょうか。


素晴らしいユーモアは相変わらずで、いつもよりクスッと笑える落ち着いたものが多いように思いました。犯行再現シーンは最高に笑えましたが、なぜだか特に面白かったのが、別に面白くもなんともないウィムジイ次のセリフ(276ページ)。
「そこへ持ってきて、目撃されたきみの最後の姿が、やつの喉に十本の指を絡めて殺してやると脅しているというものだったんで、我々としては、つまり、きみはどうしたのかな、なんて考えてしまったわけさ」

登場人物は、いつにもまして個性的です。容疑者を限定している分、書き分けを特に意識したのでしょうか。容疑者の中では断トツにグレアムが好きですが、ファレンが最後の方でいきなり株を上げてきました。グレアムの後日談をなぜ書かなかったのか、そこがただただ不満(笑)
ディーエル巡査部長は田舎弁丸出しのくせに優秀であり、そのギャップが良いですね。ちなみに「ディーエル」と言えば、レジナルド・ヒルが思い出されます。かのダルジール警視の名前の読み違い(スコットランド読みでは「ダルジール」ではなくて「ディーエル」であり、ある意味「ダルジール」は誤訳)は有名な話です。

1つ不満、というわけではないですが、なぜだか自分これを読むのにめちゃめちゃ時間がかかりました。田舎弁が多過ぎるせいでしょうか。この訳は浅羽さんの持ち味なので構わないんですけどね。
あと、小林晋さんの後書き、なぜ対話形式を取ったんでしょう?


全体的に言って、十分出来の良い作品だと思います。今のところ、セイヤーズ作品を上から並べると、『ナイン・テイラーズ』『ベローナ・クラブの不愉快な事件』『五匹の赤い鰊』となるんじゃないでしょうか。

書 名:五匹の赤い鰊(1931)
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mセ-1-7
出版年:1996.6.28 初版

評価★★★★☆

『ベローナ・クラブの不愉快な事件』ドロシー・L・セイヤーズ - 2011.05.10 Tue

ベローナ・クラブの不愉快な事件
『ベローナ・クラブの不愉快な事件』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

騒々しかった休戦記念日の晩、ピーター卿はベローナ・クラブを訪れた。戦死した友人を悼む晩餐会に出席するためだったが、なんとクラブの古参会員、フェンティマン将軍が、椅子に坐ったまま死んでいる場に出くわしてしまう。しかもことは、由々しき問題に発展した。故人には縁の切れた妹がいた。資産家となった彼女は、兄が自分より長生きしたならば遺産の大部分を兄に遺し、逆の場合には被後見人の娘に大半を渡すという主旨の遺言を作ったいたのだが、その彼女が、偶然同じ朝に亡くなっていたのである……。謎が転調に転調を繰り返す長編第四弾!(本書あらすじより)

セイヤーズを続けて読んでしまいました。あまり好きではない読み方なんですが……。

さて、題名がなかなか面白いこの本ですが、個人的にはちょっと意外なことに、内容もなかなか面白かったです。セイヤーズは一作ごとに趣向をこらしたがる作家のようですが、この本ではそれに成功していると言えるかも。あらすじの通り、何というか、まぁ強いて言えばホウェンダニット物です(ホウェンダニットは「いつ殺されたか」だから、厳密には違うんだけど)。ちなみに次作の『毒を食らわば』はハウダニットで、まだ読んでないけどその次の『五匹の赤い鰊』は純粋なフーダニット、らしいです。

読めば分かりますが、前半と後半で大きく話が変化しています。そして特に、死亡時刻を突き止めるためにピーター卿が奔走する前半部分が、なかなか楽しいんですよ。ともすれば単純な尋問ばかりになってしまいがちなこの部分に、様々な追加要素を加えることで、読者がだれずに読み進めることを可能にしています。そこそこ複雑な解くべき謎が、きっちり解かれるのがまた良いですね。毎回言っていますが、セイヤーズは文章を書くのがどんどん上手くなっていったんですね。

後半の前半は個人的にはちょっぴりペースダウンしましたが(パーカーと喧嘩するとか、あんまり好きじゃないんだよね……なんか今作の警部はちょっと感じが悪くないか?)、ラスト、こいつがなかなか面白い展開で。例によってセイヤーズはどんでん返しとか、意外な結末とか、そういったものは書きたがっていないので、そこの所は期待しないで読むのがベター。しかしながら、ここまで割と神様的な知能のもとバッシバッシ事件を解決してきたかに見えたピーター卿が、今作では悩める探偵となっているのですよ。『ナイン・テイラーズ』に向けての作風の転換がぼんやり感じられます。読み終わって、何だか不思議な余韻があるような、そういった結末でした。ありきたりという意見もあるかと思いますが、個人的に上手いと思ったのは最後の場面にもう一人配置したことで、あれのおかげでなかなか印象的なものとなっているのではないかと思います。

また、登場人物一人一人がなかなか個性的、かつ魅力的です。戦争の雰囲気漂う登場人物もそうですが、何だかやたらと貧乏くさい描写を書いたりするのはセイヤーズにしては新鮮な気がします。また解説にもあるとおり、恋愛に苦労する女性がやたらめったら出てくるんですが、彼女たちが一人一人いいキャラしてるんですよね(もちろんお気に入りは、最後にやたらとかわいい所を見せたあの人です。看護婦さんも良かったけど)。夫婦喧嘩まで盛り込んで。こういった点は、女性読者はもちろん、男性読者から見ても面白いのではないかと思います(面白いって言ったらあれだけど)。TYの邪推するところでは、結婚生活2年目になったセイヤーズが、ちょっぴり夫に不満を持っていたのではないかと(ごめんなさい)。

というわけで、ミステリとしはまぁまぁであるとは言え、なかなか面白い作品でした。気がつけば長編は半分以上読んでしまったんですねぇ。

書 名:ベローナ・クラブの不愉快な事件(1928)
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mセ-1-5
出版年:1995.5.26 初版

評価★★★★☆

『雲なす証言』ドロシー・L・セイヤーズ - 2011.05.07 Sat

雲なす証言
『雲なす証言』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

バターシー事件解決後、海外で気分転換をはかっていたピーター・ウィムジイ卿のもとに、驚くべき知らせが舞いこんだ。現デンヴァー公爵である兄のジェラルドが、殺人容疑で逮捕されたというのだ。おまけに、あろうことか被害者は妹メアリの婚約者。お家の大事にピーター卿は悲劇の舞台、リドルズデール荘へと駆けつけたが、待っていたのは、家族の証言すら信じることができない雲を掴むような事件の状況と、思いがけない冒険の数々だった……! 兄の無実を証明すべく東奔西走するピーター卿の活躍。活気に満ちた物語が展開するシリーズ第二長編。(本書あらすじより)

借り物本読書第二弾。セイヤーズはほぼ2年ぶりですね。今回は飛ばしてしまっていた長編2作目です。
あらすじを見れば分かるように、今作では貴族社会、というのがキーポイントになっています。いや正直、2作目ということで、「貴族探偵」たるピーターのキャラ付け&読者の興味を引く、という目的のもと、こういう話になったんじゃないかなという気がします。ちょっと偏見ではありますけど、イギリス人の貴族社会の醜聞好きってすごいらしいじゃないですか(たぶん)。
『雲なす証言』というタイトルは、ほとんど証言に頼って進行する事件の捜査と、最後の法廷シーンを表しているんでしょうか。

読んで思ったんですが、やっぱりセイヤーズには本格推理を期待するべきじゃないのかもしれませんね。例えば(ネタバレとは言えないけど、気にする人はこの段落を飛ばして下さいな、一応白文字にしておきます)トリック・プロットに期待して読むならば、この事件、必ず最後にもうひとひねり来るはず、じゃないですか。ちょっと肩すかしで終わってしまった感があります。ある意味せこい。そういや冒頭の誰が何時に家の中を歩き回って……ってのは何だったんだい。

とすると、この本の読み所はどこにあるのか、と言えば、やっぱりピーター卿およびその周辺人物の動きを楽しむことにあるのかな、という気がします。実際、結構読んでて楽しいんですよ。前から思ってますけど、デンヴァー先代后妃とか、もうひたすら楽しい人じゃないですか。パーカーもそろそろ恋が芽生えてきたし。バンターは特に大活躍だし。面白いことは面白いんですが、ミステリであるならば、ううん、こういう言い方はあまり好きじゃないんですが、一種のキャラ物小説として終わってしまったかな、という印象があります。もっとも、第一作目より格段に文章力が増していることも確か。だからこそ、これだけ楽しく読めるわけですけどね。評価は、面白かったけど、これから読む作品への期待と『ナイン・テイラーズ』の完成度を考えて、ちょっと辛めにつけました。

ちなみに、これは余計な想像ですけど、本書の出版された2年前に、作者セイヤーズは男性関係でこっぴどい目にあったようです……これはやっぱり、グライムソープに反映されているのかなぁ。

それと創元社さん、4ページに載ってるタイトルの英語表記、つづりが間違ってますよー。

書 名:雲なす証言(1926)
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mセ-1-3
出版年:1994.4.22 初版

評価★★★☆☆

『毒を食らわば』 - 2009.07.05 Sun

『毒を食らわば』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

裁判官による説示。被告人ハリエット・ヴェインは恋人の態度に激昂、袂を分かった。最後の会見も不調に終わったが、直後、恋人が激しい嘔吐に見舞われ、帰らぬ人となる。医師の見立ては急性胃炎。だが解剖の結果、遺体からは砒素が検出された。被告人は偽名で砒素を購入しており、動機と機会の両面から起訴されるに至る……。ピーター卿が圧倒的な不利を覆さんと立ち上がる第五弾。(本書あらすじより)

セイヤーズも個人的には四作目となりました。今まで読んでいるのが1,3,5、9作目と奇数続き(むしろ一つ飛ばし)なのは何なんでしょう?(笑)誰か図書館で借りてますね、こりゃ。

ピーター卿がミス・ヴェインに一目ぼれしてしまうんですね。だから、読んでいて異常に口説き文句が出てきます(笑)今後の何作にもわたってその恋は語られてゆくんですが、うん、セイヤーズはこの辺からミステリ一辺倒ではなくなってくるんですね。ちょっとこのくだりが多すぎて、テンポが微妙になってるのは確かなんですが。最後は証拠が出てこなくて焦るんですが、なんか見つかるんだろうなぁって感じで読んでいくので、いまいち緊張感はありません。

例によってハウダニット(どのように殺したか?)メインな作品ですが、これまた読んでいてわかってしまい、つまり犯人も分かっちゃったので、だいぶ簡単な方じゃないかと思います。ミステリとしてのみ見るなら、大した作品じゃないでしょうね。しかし、相変わらずのピーターのユーモアには笑わされますので、ミステリとしてではなく、一つの小説として楽しめる要素が十分にあります。

読んでいて、当時の女性社会が今よりもだいぶ下に見られていたんだなぁということに衝撃を覚えました。1930年ごろの感覚では、結婚もしないで同棲するというのはありえなかったそうで…いやぁ、文化と時代の違いってのはおもしろいですね。どうせだったら、そこんところをもっと突いた話にしてもよかったんじゃないか、って気もしますが。

書 名:毒を食らわば
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mセ-1-6
発 行:1995.11. 初版
     1996.1.12. 2版

評価★★★☆☆

『不自然な死』 - 2009.07.04 Sat

『不自然な死』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

殺人の疑いのある死に際会した場合、検視審問を要求すべきか否か。とある料理屋でピーター卿とパーカー警部が話し合っていると、突然医者だという男が口をはさんできた。彼は以前、診ていた癌患者が思わぬ早さで死亡したおり検視解剖を要求したが、徹底的な分析にもかかわらず殺人の痕跡はついに発見されなかったのだという。奸智に長けた殺人者を貴族探偵が追いつめる第三長編!(本書あらすじより)

第三長編ですが、第一よりは格段にいい出来となっています。今回は、ストーリーがいいですね。こういう読んでいてわくわくするような作品はいいと思います。

トリックは正直しらけます。読んでて、だからなんなんだと思いました。最大の謎、こんなに簡単にケリがついていいんかい、って感じ。まぁもともと、どうやって殺したかは重要視されてませんからね。しかも実際の話、このトリックは無理ということらしいし。内容的にはハウダニットの要素が大きそうなんですが、セイヤーズは、そもそもフーダニットとか、ハウダニットとか、用意はしても活用してない気がします。じゃあ何で引っ張ってるのかって言えば、それはやっぱりウィットに富む会話とキャラクター的面白さなわけです。

今作から登場する、ちょっと名前は忘れましたが、ピーターに協力する人物がいます。このおばちゃん、なんだかんだいって元気すぎますが、この人を投入したのはかなり成功ですね。物語に(花は添えなくても)味を添えています。この後読んだ『毒を食らわば』にも出てましたが、今後シリーズキャラクターとして出るんですかね?楽しみにしたいところです。

書 名:不自然な死
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出版社:東京創元社
      創元推理文庫 Mセ-1-4
発 行:1994.11.18 初版
      1995.1.13 第2版

評価★★★★☆

『誰の死体?』 - 2009.06.30 Tue

『誰の死体?』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

実直な建築家が住むフラットの浴室に、ある朝見知らぬ男の死体が出現した。場所柄男は素っ裸で、身につけているものといえば、金縁の鼻眼鏡と鎖のみ。いったいこれは誰の死体なのか?卓抜した謎の魅力とウィットに富む会話、そして、この一作が初登場となる貴族探偵ピーター・ウィムジイ卿。クリスティと並ぶミステリの女王がモダンなセンスを駆使して贈る会心の長編第一作。(本書あらすじより)

あらすじにはありませんが、この死体発見の同じころ、シティの大物が失踪するという事件が起きています。読者はいやおうなしに同じ人物なんじゃないかと疑うんですが、そうは単純にはいきません。
ただ、「死体は誰なのか?」に重点を置く、いわゆるフーダニットの趣はまったくありません。セイヤーズの作品は、犯人探しが非常に大まかな感じなのが特徴で、それがまた大きな魅力だと思います。

ピーターの冗談、その従僕・バンターとピーターの掛け合い(バンターからの手紙には吹き出しました)、その母親の面白さ、友達のパーカー警部の人柄、などなど。魅力が多いのは確かです。登場人物すべてが個性的に描かれているんですね。バンターもいいんですが、やっぱりピーターの母親のキャラが一番いいですね。こういうタイプの登場人物は、読んでいて安心感があるのでうれしいです。

おもしろいことは確かですが、やや途中で飽きを感じました。やはり、処女作ということで、小説の書き方が不慣れなのかな、という印象です。クリスティだって初期の作品はイマイチなのも多かったし。プロットのわりには、中だるみがどうしても出ています。やはり文章力の問題でしょうね。

とはいっても、かなりベスト。このままセイヤーズ全部読破したいと思います。

書 名:誰の死体?
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出版社:東京創元社
      創元推理文庫 Mセ-1-2
発 行:1993. 初版発行
     1993. ?版発行
 
評価★★★☆☆

『ナイン・テイラーズ』 - 2009.06.14 Sun

『ナイン・テイラーズ』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

年の瀬、ピーター卿は沼沢地方の雪深い小村に迷い込んだ。蔓延する流感に転座鳴鐘の人員を欠いた村の急場を救うため、久々に鐘綱を握った一夜。豊かな時間を胸に出立する折には、再訪することなど考えてもいなかった。だが春がめぐる頃、教区教会の墓地に見知らぬ死骸が埋葬されていたことを告げる便りが舞い込む……。堅牢無比な物語に探偵小説の醍醐味が横溢する、不朽の名編!(本書あらすじより)

傑作です。ミステリを読んでてよかったなぁと思った瞬間ですね。生涯で読んだ作品の中でもトップを争うでしょう。イギリスにて、1934年出版。本格黄金時代の代表作家の代表作品で、すなわち黄金時代の代表的な作品です。なにがいいかっていうと、要はストーリー・ミステリーがきちんとしていることもそりゃああるんですが、むしろ物語の雰囲気に完全にノックアウトされました。厳粛とした感じが読んでいてたまらなくいいです。やや厚めなんですが、もうすぐ終わってしまうと思うと寂しくなるくらい、一気に読めます。一気に読める理由は、ピーター・ウィムジー卿のユーモアセンスも大きいですけどね。

セイヤーズは初読なんですが、思っていたより軽めな本でした。もっと堅い作品を想像していたのですが、そんなことはなく、かなり気軽に読める作品だと思います。ピーターも面白いですし、それに加えて完璧な執事のバンターがやたらとさえてます……あんた執事じゃないのかよ、って感じ(笑)

とはいっても、重い所はきっちり決めてくるんですよね。読んだ人はわかると思うんですが、話の最後の場面は圧巻でした…いくらなんでもありえないんじゃないかって気もしますが、そこを突っ込んじゃいけないほど作中の空気にのまれてしまった感じです。

ピーター卿は、まるまる一年かけて謎を解くのですが、鳴鐘術というものを絡めながら話を進めていきます。鳴鐘術は知らなくてもいいです…日本人はほとんど知らないでしょう、話読んでりゃ、なんとなくわかります。読み終わった後ネットで調べてみたんですが、ほとんど情報がありません……それだけ日本人には縁のないことなんでしょうかね?

とにかくこの面白さは語りつくせません。細部まで練られて、軽く感動的で、ユーモアも効いており、もう最高です。詳しく知りたい人は、自分で読んでみるべきですね。母親にも薦めたんですが、冒頭の田舎言葉で辟易したみたいで挫折しました(汗)。個人的には名訳だと思いますが。

書 名:ナイン・テイラーズ
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出 版:東京創元社
     創元推理文庫 Mセ-1-10
発 行:1998. 1版
     1999.2.5 5版

評価★★★★★

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Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の新社会人が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から7年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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