日曜日は埋葬しない
『日曜日は埋葬しない』フレッド・カサック(ハヤカワポケミス)

9月のある朝、黒人作家フィリップ・バランスはパリ警視庁に呼ばれ、取調べを受けた――最近ブローニュの森で、死後8ヵ月経った他殺体が発見された。被害者はフィリップと親しく付合っていた人物で、8ヵ月前から行方不明になっていたものだった……。
フィリップは警察の訊問に答えて被害者との関係を話しはじめた――一年前、彼はパリのグレバン美術館でガイドのアルバイトをしていた。グアドループ島生れの貧しい黒人学生には、友達や恋人などできようはずもなく、ひとり貧困と孤独の生活に耐えていた。そんなある日、博物館でパリへ大学入学資格試験を受けにきたスエーデンの女学生マルガレータと知り合った。彼はたちまちその美しさに魅せられ、彼女のために住込みで子供の世話ができる仕事を探してやった。その家の主人が出版代理人クールタレスだった。そして、その縁でフィリップの処女作『日曜日を葬らない』が出版され、大成功を収めた。彼は有頂天になって喜んだが……。(以下あらすじ省略)
人間の誤解が惹き起す悲劇を描いて、1958年度フランス推理小説大賞に輝く新しい暗黒小説!(あらすじに手を加えた者)

フランスミステリ固め読み中。あらすじは大幅に改編しております。読む場合は裏を見ない方が賢明ですね。
いやはや、これは実に素晴らしいです。傑作。仏ミスはこういう最後にぐぁっとどんでん返すタイプの作品が多くて、ある意味似たようなもんなのですが、ここまできれいに決まっているのも珍しいですね。見事にだまされたし、文句なしに面白かったです。『殺人交叉点』とかどうでもいいからこっちをもっと流行らせましょうよ各出版社さん。

冒頭は、誰かの殺人事件の捜査が行われていることが示され、主人公が過去を回想していく、という仏ミス的超王道パターン。主人公が女子高生と出会い付き合いそこに別の男女が絡んで浮気が、ってのも超王道パターン。フランス人どんだけ男女間のいざこざから殺人が起きてるんですか。いやどこもそうですが。
被害者をぼかすことで先行きに不安をも持たせつつぐいぐい読ませ、現在との行き来でしっかりトリックを仕掛けながら、超鮮やかに読者をだます……という感じ。本当にどこからどこまでポケミス仏ミスっぽいんですが、その中では完成度は明らかにとびぬけています。びっくりしちゃいましたよ。

というわけでネタバレが危険すぎるので全然語れませんが、本当にこれぞってくらいフランスらしい魅力がいっぱいなので、ぜひ復刊して欲しい作品です。カサックはやっぱり職人芸の作家なんですね。おすすめです。

書 名:日曜日は埋葬しない(1958)
著 者:フレッド・カサック
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 643
出版年:1961.08.31 1刷

評価★★★★★
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殺人交叉点
『殺人交叉点』フレッド・カサック

十年前に起きた二重殺人事件は、きわめて単純な事件だったと誰もが信じていました。殺人犯となったボブをあれほど愛していたルユール夫人でさえ疑うことがなかったのです。しかし、真犯人は私なのです。時効寸前に明らかになる驚愕の真相。1972年の本改稿版でフランス・ミステリ批評家賞を受賞した表題作にブラックで奇妙な味わいの「連鎖反応」を併録。ミステリ・ファン必読の書。

どうも自分はフランスミステリが好きらしいということに気付いたので、これからは積極的に買い集めることにします。カサックももう1冊訳されてますしね(すんごいレア本ですが)。

で、『殺人交叉点』です。もともと創元からは『殺人交差点』(1959年、Crime Club)と『連鎖反応』(1962値段、創元推理文庫)の2長編(中編?)が別々に出ており、1979年に新訳で一冊にまとめたようです(1972年にカサックが「殺人交差点」を書き直したものを再出版し、フランス・ミステリ批評家賞を受賞した、というのも理由かと)。ところが1979年版は、「殺人交差点」にあまりに問題な誤訳があったため、2000年に新訳が出た……ということらしいです。ほほぉ。分かりにくい。

ふぅむ、なるほど。で、読んで思ったのですが、カサックさんって、根はとってもいい人なんじゃないですかねぇ。小説を書く上で非情に徹しきれないというか。そこが魅力でもあり、また100点満点と言い切れない理由なのかもしれません。以下、順に感想を。


「殺人交叉点」(1957、1972)
トリックは、噂ではよく聞いたことのあるもので、おそらく今となってはそれほど真新しさはないのでしょうが、なるほど、上手いですね。自分は実に気持ち良く騙されました。とはいえ、個人的にこの手のトリックには感心こそすれど「へぇ~」で終わってしまい、あまり好みじゃないんですよ。むしろ、トリック云々より、ストーリーそのものの方がはるかに面白いです。犯罪小説の魅力で一杯です。このように「恐喝」を生かしたミステリはあまりないと思いますし、このアイデアだけでも十分評価されるべきだと思います。
なお、一番驚いたのは、トリックではなく、序盤で明かされる某人物の正体でした(笑)


「連鎖反応」(1959)
タイトルからして期待が持てると思いません?思わない?そうですか。あらすじはあえて割愛します。
このブラックユーモアはまさしくフランスミステリそのもの。いや何でそういう発想になるんだよ、と突っ込み続けた160ページ。ラストの怒涛の(?)展開は爆笑物です。
ただ、そもそも全体として”ブラック”でないユーモア感も強い気がします。何と言うか、そんなに黒くなくて、結構真っ当にユーモアあふれる文章なんですよね。しかしそれがちょっと惜しい気もします。ブラックユーモアでありながら、ブラックに徹しきれていないんです。そのため、終盤に至るまでが退屈になりかねないという弱点があります。ま、「殺人交叉点」とは色々な点で対称的なので、このセットは大変お得ですね。
ちなみに「連鎖反応」は名前からしてそんな感じですが、シニアックのアレとか、ミッシェル・ルブランのアレとかを思い起こさせます。え、フランス人ってこんなんばっかり好きなの?(笑)


というわけで、『殺人交叉点』はフランスのキワモノ入門として最適なのではないかと感じました。割とおとなしいですし、両方ともレベルの高い傑作です。訳者あとがきで紹介されていますが、瀬戸川猛資さんはフランスミステリ全般を「おそろしくたちの悪い冗談にひっかかったような不愉快な気分になった」と称しています。まさにその通り、そのものズバリで目から鱗。それこそが魅力。だからカサックは、その点でちょっと物足りないのかもしれません(瀬戸川さんはフランスミステリが嫌いで、例外的に『殺人交叉点』は大好きだった、というのもそういうことじゃないかと)。あくどいのが好きな人は、えぇと、とりあえず『ウサギ料理は殺しの味』を(笑)

書 名:殺人交叉点(1957,1972,1959)
著 者:フレッド・カサック
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mカ-8-1
出版年:2000.9.14 初版
    2000.11.17 2版

評価★★★★☆