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『秘密』ケイト・モートン(東京創元社)

少女だったローレルは恐ろしい事件を目撃する。突然現われた見知らぬ男を母が刺し殺したのだ。男が「やあ、ドロシー、久しぶりだね」と母に声をかけた直後に。男は母を知っていたし、母も男を知っていた! 彼は誰だったのか ? 国民的女優となったローレルは、死期の近づいた愛する母の秘密を探り始めた。彼と母の間に何があったのか? 母の本から落ちた古い写真に写る女性は誰なのか? 『忘れられた花 園』の著者が贈る謎の物語。(本書上巻あらすじより)

近頃大人気のケイト・モートンの、今年出た新作です。気が付けば自分も『リヴァトン館』『忘れられた花園』と既刊をどっちも読んでいたわけですけど、ぶっちゃけそんなに好きなわけじゃなくてですね。ヴィクトリアものはたぶん好きなんだけど、ヴィクトリア末期はそんなに好きじゃないとか、ロマンス味が強すぎてミステリ成分が物足りないとか、なんかいろいろあって、新作を読むのもあんまり気乗りしなかったんですよ。
ところが、世のケイモー主義者(ケイト・モートンファンをこう呼ぶ)曰く、『秘密』はやばい、過去2作とは比べ物にならないくらい面白い、ミステリ要素も強い、年間ベスト級、とかなんとかだそうで、あんまり魅力的じゃないカバーを眺めつつ読むことにしたわけです(前書きが長い)。

読みました。
……くそっ……お、面白かったぜ……(敗北感)。
前半はいつものケイト・モートンらしい謎ありロマンスみたいな感じでこれがどうしたよと思ったら、後半よくあるミステリのネタみたいになっておぅとなり、終盤ありがちロマンス物みたいな展開になりやがって何だよ結局そういうベタなアレかよこれだけ引っ張ってと思ったら最後にベタだけどぶひゃあな真相があって普通にぶったまげましたね……モートンさん見くびってたぜ……。
ちょっと批判的に言いますとね、3冊読んで気付きましたが、自分はケイモーに雰囲気を期待してはいけないのではないか、と思います(あくまで個人的な話)。この人の時代風俗描写では上下巻を乗り切れないんですよ。だからこそ過去2作はなんか微妙だったんですが、今作は”意外性”でちゃんと殴られたので、面白かったと言うことができるんじゃないかという気がします。

さて、ストーリーはあらすじの通り。母の殺人を目撃したローレルは、数十年後になり、母が病で死にかけたことをきっかけに、母の過去を探り始めます。これと並行して、第二次世界大戦中の母やその関係者目線の物語が語られていき、しだいに大きな謎が解き明かされていくのです。
この人の作品は過去と現在を行き来するものが多いんですけど、その時代設定に必然的な意味があるというよりは、作者がその時代を好きで書きたい、というくらいなんじゃないかって気がしたんですね、いつもは。行き来することに凝った仕掛けもなく、現在の人間は過去に遡るためのきっかけでしかなくって。早い話が1900年ごろのお屋敷を書きたいだけ、みたいなところがあるんです。
ところが『秘密』は第二次世界大戦の時代が舞台となる意味がかなりちゃんとあるんです。行き来するのも、まぁ現在の人間が真相にたどり着く過程が都合よすぎる気もしますが、これまた仕掛けとして意味があります。これで1941年の描写がもっと充実して雰囲気たっぷり、ってことなら文句ないんですが……どうもケイモーさんの描き方は淡々としすぎていて味気ないんですよね……いや雰囲気好きって人が多いのは分かるんですけど……これ最近のはやりである無味な訳のせいもあるのかな……。

そして、ある人物の過去を掘り下げていく過程に、一つ目のよくあるネタだけどガラッと読み方を変えさせる小ネタがあり、さらに物語の冒頭から大きくひっくり返す大ネタがあります。正直かなりやられたので、これまたベタネタだけど自分としては結構大満足。いいロマンスミステリじゃないでしょうか。
ちなみにストーリーは男と女が出会って結婚しそうでしなくてそこに女と男が現れてあーあーあーっていうよくあるつらい感じので、まぁよくあるだけに読みやすいし面白いんですが、モートンさんにはいずれこの部分だけで評価したくなるくらい面白い話を書いてほしいなぁって思うのは欲張りかな。

というわけで、やっぱり手放しに大絶賛は何となく出来ないんですが(好きな人ごめん……)、今作はかなりの良い出来だとは思います。星5にしたし。今年のランキングにも上位に食い込むでしょうね。ケイト・モートンを試したいならぜひこれからをおすすめしたいです。

書 名:秘密(2012)
著 者:ケイト・モートン
出版社:東京創元社
出版年:2013.12.25 初版(上下巻同じ)

評価★★★★★
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えー、またしても久々の更新ですが、いや、これにはれっきとした理由があってですね。岡山から帰ってきたり、ミス連合宿に行ってたりで、わたわたしていて、感想なんて書く暇がなかったのです。決して『忘れられた花園』の感想を書くのが面倒くさかったとか、そういうのじゃないですよ、ホントホント。


忘れられた花園 上 忘れられた花園 下
『忘れられた花園』ケイト・モートン(東京創元社)

1913年オーストラリアの港に着いたロンドンからの船。すべての乗客が去った後、小さなトランクとともにたったひとり取り残されていた少女。トランクの中には、お伽噺の本が一冊。名前すら語らぬ身元不明のこの少女をオーストラリア人夫婦が引き取り、ネルと名付けて育て上げる。そして21歳の誕生日に、彼女にその事実を告げた。ネルは、その日から過去の虜となった……。時は移り、2005年、オーストラリア、ブリスベンで年老いたネルを看取った孫娘、カサンドラは、ネルが自分にイギリス、コーンウォールにあるコテージを遺してくれたという思いも寄らぬ事実を知らされる。なぜそのコテージはカサンドラに遺されたのか?ネルとはいったい誰だったのか?茨の迷路の先に封印され忘れられた花園のあるコテージはカサンドラに何を語るのか?サンデー・タイムズ・ベストセラー第1位。Amazon.comベストブック。オーストラリアABIA年間最優秀小説賞受賞。(本書あらすじより)


手元のエクセルによると、上巻を読み終わったのが4月6日、下巻を読み終わったのが7月27日となっています。えーっとこれはですね、翻訳ミステリー大賞授賞式を前に『忘れられた花園』を読もうと図書館で上巻を借りてきたものの(予約してから2ヶ月近くかかった)、下巻を予約するのを忘れていたせいで、下巻が来るまでさらに2ヶ月かかり、ところが2ヶ月後に自分の番が回ってきたのにもたもたしていたせいで貸し出し期間の一週間があっという間に過ぎ、自分の予約がすっとばされ、再び下巻を予約したりとかなんだとかで、結局7月になってしまったのでした。なにそれ。
せめて千葉読書会(課題図書が『リヴァトン館』)より前に読み終わりたかったんですけどね……思いの外人気の作品のようです。


まず間違いないのが、『リヴァトン館』よりはるかにミステリらしいこと、並びに文章・構成が格段に上手くなっていること、でしょうね。複数の時代を交互に描きながら、数多く伏線を張り巡らし、新たな「謎」で読者を惹きつけながら一気に最後まで読者を連れていく……なるほど、確かに面白いです。
3つの時代というのは(他にもあるのですが)、大まかに言って、現代(2000年代)、ネルがイギリスに行った時代(1970年代)、イライザの時代(1900年代~)となっています。で、『リヴァトン館』を書いたモートン女史のことです、謎解きは2000年代に任せつつも、基本的に書きたいのは1900年代なのですね。

ただ、『リヴァトン館』を読んだ時も思ったんですが、結局自分はこの手のゆったり大河物ヴィクトリア後期英国物語がそんなに好きじゃないんですよ(後期というか、1901年に女王は亡くなるので没後ですが)。そうとまでは言えなくても、少なくともケイト・モートンさんとはそりが合わないというか。
ヴィクトリア時代の物語は嫌いじゃないのです。『荒涼館』『月長石』は大大大傑作だと思っていますし、ホームズだってヴィクトリアです。モートンは(結局のところ)あんまりミステリじゃないのが理由かと言えば、『荒涼館』が好きなことを考えても理由はそれだけではないし。
ところがケイト・モートンが描くのは、1900年代、あくまで20世紀であり、19世紀ではないのです。1900~10年代なんて、もうなんかイギリスがかげっていく頃なわけじゃないですか。しかも、扱うのはかならずお屋敷、貴族階級なので、没落まっしぐら。やっぱりねぇ、ヴィクトリア物なら(いや別にモートンはヴィクトリア物じゃないですよ)庶民をもっと生き生きと書いて欲しいわけですよ。貴族は絶対に登場するにしても、活躍するのは庶民・下層民・労働民じゃなきゃ面白くないのです。


……ってな感じで全然まとまってないんですけど。『忘れられた花園』自体は、物語の魅力を存分に伝えてくれる良い作品だとは思います。が、まぁいっつも言ってますけど、結局好みの問題で、最後までのれなかったというか……いや本当にすみません……。

書 名:忘れられた花園(2008)
著 者:ケイト・モートン
出版社:東京創元社
出版年:2011.2.25 初版

評価★★★☆☆
リヴァトン館 上 リヴァトン館 下
『リヴァトン館』ケイト・モートン(RHブックス・プラス)

老人介護施設で暮らす98歳のグレイスのもとへ、訪れた新進気鋭の映画監督。1924年に「リヴァトン館」で起きた悲劇的な事件を映画化するため、ただひとりの生き証人であるグレイスにインタビューしたいと言う。グレイスの脳裏に、70年間秘めていた「リヴァトン館」でのメイドとしての日々が鮮やかに蘇る。そして、墓まで持っていこうと決めたあの悲劇の真相も。死を目前にした老女が語り始めた真実とは……。滅びゆく貴族社会の秩序と、迫りくる戦争の気配。時代の流れに翻弄された人々の愛とジレンマを描いた、ゴシックの香り漂う美しいミステリ。(本書あらすじより)

翻訳ミステリー大賞シンジケート千葉読書会用に読んだものです。まぁ、たぶんそうじゃなきゃ読まなかったでしょうねぇ。
今回は、ちょっと趣向を変えて、サークルの部誌に載るはずだった『リヴァトン館』のレビューをアップします。深い意味はないです。



 2009年に出た単行本を文庫化したもの。
この本のジャンルは何なのだろうか。ミステリ? ゴシックロマンス? 歴史? しかし、いずれかのジャンルの作品だと思って読み始めると、かなり不満足に思うのではないか。少なくとも、あらすじに謳っているように「ミステリ」だと思って読み始めることはちょっとお勧め出来ない。
 誤解しないでもらいたいが、『リヴァトン館』は大変面白いし、楽しめる作品だ。いわゆる「ジャンル越境型」の小説であり、「こういう作品」と一口でまとめられないところにこそ魅力がある(盛り込みすぎとも言えるが)。『忘れられた花園』が翻訳ミステリー大賞を受賞したことで、同作者のこの作品に対する注目が上がったというのは大変喜ばしいことだ。

 物語は、1998年、98歳になる老婦人グレイスによる過去の回想という形で進行する。彼女が思い出すのは、1914年から1924年、リヴァトン館のメイドとして仕えていた頃の自分である。由緒正しい貴族の家系が、第一次世界大戦を経て、次第に没落していく様を、そして1924年にお屋敷の方々に起こったある悲劇の恋物語を、大河的に描いていく。主軸となるのは、グレイスの出生の秘密と、グレイスしか知らない1924年の事件の真相だ。
 ただ、信じられないほどベタに、予定調和的に、予想通りに話が進むため、意外性は皆無に等しい。一応最後にそれなりの伏線が回収され、後味の悪い(ただし苦味はない)ラストが示されるが、それだって驚きとはやや別次元の話である。もしこの小説のあらすじを他人に語って聞かせるとすれば、何そのくだらないロマンスは、つまらん、で終わってしまうだろう(というかそう言われた)。

 しかし、この小説を読む上で、あらすじなんか何の意味もないのだ。グレイスの出生とか湖の悲劇とか、はっきりいってどうでもいいのである。それよりも「お仕事小説」的な側面が強いし、そちらの方が俄然楽しめる。下階の住人(=使用人)達が、この時代にいかなる仕事をしていたのか、時代が進むと共にどのように変わっていくのか――これこそ、本書の肝であろう。厳格だが常に安定した冷静さを見せる執事のミスター・ハミルトン、いつもグレイスの、いや使用人全体のおっかさん的存在で在り続ける料理人のミセズ・タウンゼンド、先輩らしくお姉さん風を吹かすメイドのナンシー……彼らはグレイスの“家族”であり、帰るべき“家”となってくれる(たとえ彼らが死んでしまった後、1998年の現代においてもだ)。「使用人」という、今では理解できない「尽くすもの」という職業は、グレイスにとっては当然でも、我々にとってはやや理解しがたい。そんな人々が、困難な時代を越えて生きる様が非常に魅力的で、読者を大いに惹き付ける。
 もちろん(と付け足しになってしまうが)、上流階級の人々の暮らしも生き生きと描かれている。特に下巻ではロマンスがたっぷりと描かれ、それだって十分に楽しめる。ただ、あんまりそればかりを期待して読むのも、ちょっと違うと思うのだ。ミステリでもなければロマンスでもない。描かれるのは、「リヴァトン館」という壮大な家族の物語だ。様々な角度から「物語」の面白さを伝えてくれる作品……そういった意味では、非常に贅沢な小説なのかもしれない。



えーっと、ちょっと褒めすぎです(笑)正直、そこまでのめり込んだとは言い難いのですが……「ミステリ」成分はかなり薄めで、それを期待して読ませたのがちょっと問題かなぁ、とは思います。
と、今日はこれで。ま、たまにはこういう感想でもいいかな、と。

書 名:リヴァトン館(2006)
著 者:ケイト・モートン
出版社:武田ランダムハウスジャパン
    RHブックス・プラス モ2-1、モ2-2
出版年:2012.5.10 1刷

評価★★★☆☆