緑衣の女
『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン(東京創元社)

住宅建設地で発見された、人間の肋骨の一部。事件にしろ、事故にしろ、どう見ても最近埋められたものではない。現場近くにはかつてサマーハウスがあり、付近にはイギリスやアメリカの軍のバラックもあったらしい。付近の住人の証言の端々に現れる緑の服の女。数十年のあいだ封印されていた哀しい事件が、捜査官エーレンデュルの手で明らかに。CWAゴールドダガー賞・ガラスの鍵賞受賞作。世界が戦慄し涙した。究極の北欧ミステリ。(本書あらすじより)

ブログ再開宣言をしてから早くも更新が滞っており申し訳ない限りです、はい……。
さて、『緑衣の女』。実は献本のおかげで発売の数週間前には読み終わっていたのですが、まぁさすがに感想書けませんしね(つっても発売から既に一ヶ月以上経過しているので感想書くのが遅くなったのはぶっちゃけあんまり関係ないですけど)。ただ読み終わったのがずいぶん前になってしまったので、かなり曖昧な感想になると思います。うーむ。

『湿地』『緑衣の女』と読んで思ったのですが、基本的にインドリダソンの作品ってそんなに凝ってもいないし、複雑でもないんですよね。主人公が特にどうすることもなく事件は流れ的に解決してしまうし、真相はかなり強烈なものであっても何となく必然的な流れであるように思えるし、エーレンデュル捜査官の家庭問題という要素があるとは言え事件一本に話を絞っており、その事件も非常にシンプルです。悪く言えば、2時間ドラマ的。『湿地』はその2時間ドラマ的な展開と陰鬱な雰囲気がよく合っており、かなり楽しめたのでした。

さて一方『緑衣の女』。CWAインターナショナルダガー賞を取っているあたりから考えて、こちらの作品の方が欧米では評価されたということなのでしょうが、結論から言うと個人的には『湿地』の方が面白かったです。ネタバレになるので上手く説明できないんですが、『湿地』が扱っていたのはアイスランドのより大きな問題だったのに対し、『緑衣の女』は家庭内暴力というより小規模で、身近な問題です。ただ、それがもう陰鬱で陰鬱でまず読んでいてちょっと辛すぎるんですよね。いやこうしたテーマが大事なのは分かるんですけど、何というか読んでいて楽しくないというか……。
ミステリ的な謎についても、『湿地』より凝っているしより魅力的なんですが、結局1つのネタをひっくり返しまくるだけで、最後の方には少し飽きてしまうのではないかと感じました。最初はかなり面白いんですが。中盤までの推理・推測は、ある意味で全て早まった推理・推測なわけで、つまり無駄とも言えると思うのです。読者をやきもきさせるだけの“謎”に過ぎないのではないかなぁと。

ただ、グイグイ読ませるシンプルさと勢いは相変わらずで、そこらへんインドリダソンの実力は確かなものなのだろうと思います。あくまで『湿地』の方が好き、くらいの差なのではないかなと。もっと円熟したこの作者の作品を読んでみたいなと思うのですが、どうでしょう。

書 名:緑衣の女(2001)
著 者:アーナルデュル・インドリダソン
出版社:東京創元社
出版年:2013.7.11 初版

評価★★★☆☆
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湿地
『湿地』アーナルデュル・インドリダソン(東京創元社)

北の湿地にある建物の半地下の部屋で、老人の死体が発見された。金品が盗まれた形跡はなく、突発的な犯行であるかに見えた。だが、現場に残された三つの言葉のメッセージが事件の様相を変えた。次第に明らかになる被害者の隠された過去。衝撃の犯人、そして肺腑をえぐる真相。シリーズは世界四十カ国で紹介され七百万部突破。グラスキー賞を2年連続受賞、CWAゴールドダガー受賞。いま最も注目される北欧の巨人、ついに日本上陸。

サークルへの献本により、一足早く読むことが出来ました。というか、献本って読むのは初めてですねー。まだ未完成のペーパーバックの状態で読んだんですが、ぶっちゃけこっちの方が読みやすいんじゃないですか(笑)ちなみに本書はシリーズ第3作にあたるそうです。

さて、ようやく刊行されたので感想をアップ出来ますが、非常に面白かったです。北欧系の警察ミステリとしてはかなり良い線言っているのではないかと(偉そうなことを言いながらそんなに読んでないですけど)。ちなみに北欧系の例にもれず、気温というか雰囲気が寒いです。良いね良いね。

とにかくリーダビリティの高さが半端じゃありません。翻訳物にしては、という表現は嫌いなんですが、実際これはものっすごく読みやすかったです。特に中盤以降、章ごとの引きが上手いんですよ。とにかく先が気になって仕方がありません。ぐいぐいと引き込まれてしまうこと間違いなし。

序盤〜中盤はいわゆるモジュール型です。加えて、メインとなる殺人事件の捜査が極めて多角的にまとまりなく行われるため、手掛かりがあっちゃこっちゃからバラバラと無関係に集まって来ます。先ほど言った章の引きと合わせて、手掛かりの提示のタイミングが絶妙。こうした関連のなさそうな事実が、終盤、一本の線にまとまっていく様が非常にきれいです。本格ミステリではありませんが、それを思わせる構成の妙……っていうとちょっと言い過ぎかな。

登場人物の心情が直接的に描かれることはほとんどありませんが、作者の描写が上手いためそれが切々と伝わってきます。例外的に主人公のエーレンデュル捜査官の心の中は丸見えなわけですが、彼は悲痛な思いを胸に秘めつつも、あくまで「捜査」に徹しようとしています。こうした態度には好感が持てますね。ラストの展開は、ベタっちゃベタですが、こういう主人公だからこそ、読ませる展開になっているのでは、という気もします。まぁ、この(あまり)明るいとは言えない引きには、賛否両論ある気もしますが……。

というわけで、警察小説としても物語としても、大変楽しめる作品でした。割合広く勧めやすい作品ではないかと思います。第4作は本書に続いてガラスの鍵賞を受賞しただけでなく、CWAゴールドダガー賞も受賞したとか。いやはや、これは早く続きが読んでみたい……。

書 名:湿地(2000)
著 者:アーナルデュル・インドリダソン
出版社:東京創元社
出版年:2012.6.9 初版

評価★★★★☆