死はわが隣人
『死はわが隣人』コリン・デクスター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

オックスフォード大学学寮長選挙のさなか、住宅地で殺人事件が発生。テムズ・バレイ警察のモーズ主任警部は、血の海に横たわる女の死の謎を追い始めた。一癖も二癖もある隣人たちの錯綜する証言から、やがて殺人事件と学寮長選挙との意外な関係が明らかに。だが、その矢先、モースは病に倒れた。苦痛に耐えながらたどり着いた、混迷の事件の真相とは? 現代本格ミステリの最高峰、モース主任警部シリーズついに佳境へ。(本書あらすじより)

デクスター追悼再読。最後は、デクスターで一番好きな作品で、マイ再読欲求度ナンバーワンの『死はわが隣人』です。これも高1以来なので9年以上ぶり。
もうね、この作品を楽しく再読できてしまうあたり、自分はモースの妄想推理とかどうでもいいんだなということがよく分かりました。キャラ萌えと言われようが何だろうが、『死はわが隣人』は最高なのです。

学寮長選挙をめぐる殺人事件自体は、中盤の転換が面白いとは言え全体的には薄味。モースの推理も大胆な仮設が登場するわけでもなく、結構いきあったりばったりに解決しているに近いです。トリックもまぁこんなもんだろうと。つまり本格としては並か、下手するとそれ以下かもしれません。少なくとも中期までのデクスターに及ばないことは確か。
ただ、コリン・デクスターといえば不倫によって事件が起きるわけですが(そのせいでイギリス人は基本的に浮気しているという理解が高校生の頃の自分の中に爆誕した)、まぁその頂点のような話なんですよね。学寮長候補2名とその妻の描き方がすごく好き。これも初期の頃には見られないキャラクターだと思います。

さらにモースとルイスという、実は今までその仲をきちんと描いていなかった2人の関係が、『死はわが隣人』でようやく示されるのです。モースとルイスのお互いに関する気持ちについて、内面に踏み込んだ描写がされたことがこれまであまりないんですよね。ところが今作、モースが糖尿病でガタガタになる中で、秘書(この人のエピソード好き)や上司であるストレンジ警視、シスター・マックイーンといった脇役の活躍によって、モースという人間がようやく描かれたという感じ。
だから何回読んでもラストには感動してしまいます。モースの身勝手さとルイスの人の良さが、知り合って15年くらいを経たシリーズの中でようやく噛み合うんですよ。モースのツンデレっぷりがやっと発揮されるわけですよ。だから、この作品が、シリーズの中で、一番好きなんです。

『死はわが隣人』という当初のシリーズ完結作が、このあと読者の要望によって『悔恨の日』という完結編へとつながっていくわけですが、『死はわが隣人』でモースとルイスの関係がきちんと描かれた後でないと『悔恨の日』は成り立たないんですよねぇ。とにかく、このシリーズの集大成のような作品なのは間違いないです。うーん大好きだ。追悼再読はこれで終わりにしますが、近いうちに『悔恨の日』も再読しましょう。

原 題:Death is My Neighbour(1996)
書 名:死はわが隣人
著 者:コリン・デクスター Colin Dexter
訳 者:大庭忠男
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 148-13
出版年:2001.12.15 1刷

評価★★★★★
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ジェリコ街の女
『ジェリコ街の女』コリン・デクスター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

モース警部がジェリコ街に住む女アンに出会ったのは、あるパーティの席上だった。すっかり意気投合した二人は再会を約すが、数ヵ月後、彼女は自宅で首吊り自殺を遂げた。はたして本当に自殺なのか? モースにはどうしても納得がいかなかった。やがてアンの家の近所で殺人事件が起こるにおよび、モースの頭脳はめまぐるしく動き始めた。前作に続き英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞を連続受賞した傑作本格ミステリ。(本書あらすじより)

コリン・デクスター追悼再読第2弾。前回は初期の代表作だったので、今回は(デクスター好きにはおなじみ)中期の代表作『ジェリコ街の女』です。高1の冬以来なので9年ぶりですが、記憶通りめちゃくちゃ良い作品でした。うーん、実に素晴らしい。

まず『キドリントンから消えた娘』から続けて読んで感じたのですが、圧倒的に文章が上手くなっていますね。プロローグだけでも分かりますし、章頭の引用文のセンスも増しています。ちょっと突き放したような、皮肉とユーモアたっぷりの余裕のある文章となっていて、いかにもなデクスターっぽい雰囲気が完成したのかなと。
また、ミステリとしての作風も変化しています。『ウッドストック』から『死者たちの礼拝』までは、とにかく推理をこねくり回すタイプの試行錯誤推理が大きな特徴でした。ただその後の数作は、妄想推理をやや減らして、その分大ネタを仕込むようになっているのです。だからきっちりまとまっていてすごく程よく楽しめるんですよね。『ウッドストック』や『キドリントン』なんかよりよっぽどスタンダードでおすすめしやすい英国ミステリなのかなと思います。『ジェリコ街の女』とか、『謎まで三マイル』とか、『別館三号室の男』(これも再読したい)とか。
いやーしかし、トリックを忘れていたこともあり、今回も素で楽しめました。『ジェリコ街の女』のトリック自体は綱渡りすぎるから絶対上手く行かないだろうなとは思うのですが、それでも初読時はかなり驚いた記憶があります。この綱渡りっぷりをごまかすのがモースの妄想推理でもあるわけで、さらに押し進めると『謎まで三マイル』になるのかな。ニクい作風だぜ。

ちなみにこれは後期の作品に関わることですが、この頃からモースは事件の中でトリッキーな役回りを演じ始めるんですね。要するに客観的に捜査するだけではなく、事件をややこしくさせるのにモース自身が一役買い始めるのです。この要素が、『森を抜ける道』とか『悔恨の日』あたりで爆発するようになるのかなと。

というわけで大満足の再読となりました。非常に初デクスター向きの作品だと思います。モースとルイスのキャラが関係が出来上がってくる、なんて要素もあるのですが、この2人については次の『死はわが隣人』の感想でまとめることにします。

原 題:The Dead of Jerich(1981)
書 名:ジェリコ街の女
著 者:コリン・デクスター Colin Dexter
訳 者:大庭忠男
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 148-5
出版年:1993.03.31 1刷
     1994.12.31 4刷

評価★★★★★
キドリントンから消えた娘
『キドリントンから消えた娘』コリン・デクスター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

二年前に失踪して以来、行方の知れなかった娘バレリーから両親に無事を知らせる手紙が届いた。彼女は生きているのか、としたら今はどこでどうしているのか。だが捜査を引き継いだモース主任警部は、ある直感を抱いていた。「バレリーは死んでいる」……幾重にも張りめぐらされた論理の罠をかいくぐり、試行錯誤の末にモースが到達した結論とは? アクロバティックな推理が未曾有の興奮を巻き起こす現代本格の最高峰。(本書あらすじより)

引っ越しが終わりまして、先ほどインターネットもようやく開通したので、ブログを再開します。
さて、デクスター追悼のための再読、1冊目は初読時に全く楽しめなかったシリーズ2作目『キドリントンから消えた娘』です。『ウッドストック行最終バス』に次いで日本では評価が高い作品です。
読み終わってから見事に思い出しましたが、そうだそうだ、8年前はこのモヤっとする終わり方がイヤであんまり印象が良くなかったんでした。とはいえ、今読むと別にそれほどイヤな終わり方でもないですね……っていうか記憶の中ではもっとイヤな終わり方だと思っていたんですけど、もっとマシなやつでした。

二年前に失踪した少女から手紙が届き、彼女の再捜索が始まります。殺人以外にそもそもあまり興味がないモースですが、彼女は既に死んでいる、という謎の確信を振りかざしながらルイスと共に事件に乗り出します。

この登場人物数と失踪少女の生死不明事件だけで400ページのややこしいミステリを作れてしまうところがデクスターなんだよなぁ。デクスターの有名な作風と言えば、特に初期作に顕著な、試行錯誤の推理と二転三転する推理と仮説を激しくスクラップアンドビルドする推理(全部同じ)なわけですが、その良さが十二分に発揮されているのが『キドリントン』なのだと思います。だいたい謎からして「失踪少女は生きている/死んでいる」という、「自殺/殺人」と並ぶ試行錯誤向きのテーマなわけです。普通こういう二択ミステリって、結局途中で立てられた仮説が真相に及ばず、ラスト失速することが多いのですが、かなり上手くどんでん返しを仕掛けているなと感心しました。

まぁ、再読向きの作品ですよねー。初読より確実に楽しめるミステリだと思います。二転三転をやり過ぎで、個人的にはもっとしゅっとしていたり遊びがあったりするデクスター(何だそれは)の方が好きなのですが、これはこれで悪くありません。悪くないっていうか良いです。
と、初期のデクスターの良さを再確認したところで、次は中期作、『ジェリコ街の女』を読みます。

原 題:Last Seen Wearing(1976)
書 名:キドリントンから消えた娘
著 者:コリン・デクスター Colin Dexter
訳 者:大庭忠男
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 148-2
出版年:1989.12.31 1刷
     2001.05.31 10刷

評価★★★★☆
2017年3月21日、イギリスのミステリ作家、コリン・デクスターがお亡くなりになりました。86歳でした。

……いやもう、ほんと、ショックでして。レジナルド・ヒル、P・D・ジェイムズ、ルース・レンデルが亡くなった頃から既に覚悟していましたし、そもそも新作を出すこともなさそうでしたから、そんなに悲しくはならないだろうと思っていたんですが、全然そんなことなかったです。超悲しいです。たぶんこのブログをご覧になっている皆さんの想像の3倍くらいはショック受けています。
自分の一番好きな作家はアガサ・クリスティーなのですが、その次に好きなのがデクスターなんです。存命の作家の中で一番好きなのがデクスターだったのです。小学生、中学生とひたすらクリスティーを読み続け、あらかた読み終わり、次に何を読めばいいのか……と迷っていた高校生の自分にぱっと英国ミステリの新たな楽しさを教えてくれたデクスター。それがついに……。心から、ご冥福をお祈りいたします。
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謎まで三マイル
『謎まで三マイル』コリン・デクスター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

河からあがった死体の状態はあまりにひどかった。両手両足ばかりか首まで切断されていたのだ。ポケットにあった行方不明の大学教授のものと考えたモース主任警部は、ただちに捜査を開始した、が、やがて事件は驚くべき展開を見せた。当の教授から、自分は生きていると書かれた手紙が来たのだ。いったい、殺されたのは誰か? モースは懸命に捜査を続けるが……現代本格の旗手が贈る、謎また謎の傑作本格。(本書あらすじより)

コリン・デクスターは高校生の頃にどはまりしていた作家で、今でもたぶんクリスティーの次くらいに好きな作家です。先日ツイッターでこの本をおすすめしたら、実際に読んで感想をあげてくれた方がいたので、よっしゃいっちょ俺も再読してみるか、となった次第。
そして久々に読んだらまーー面白いこと。やはり自分は初期より中期以降のデクスターが好きだな、と再確認しました。死体の身元捜しでほぼ一冊を費やしながら、双子やら行方不明数人やら犯人からの手紙やらをミキサーにかけることで変態的なパズラーとぶっとんだ意外な真相が生まれています。お見事。

事件はあらすじの通り。両手両足首切断の死体が見つかり、これは誰の死体なのか、ということを調べるのが中心です。誰もDNA鑑定とか考えないのがいかにもモース警部らしいですね(血液型鑑定すらしないんだから)。容疑者に双子がいたり、行方不明の人物から手紙が送られてくるなど事件は迷走を極め、モース警部の推理も迷走を極め、終盤では数少ない登場人物がばったばったと死んでいくのでワケが分かりません。
真相は、実のところ説明つけたもんがちというものである程度無理やりですし、そこに至るまでに作られては捨てられていった推理の方が魅力的だったり説得的だったりしないわけでもありません。複雑な真相のための真相というか。本格ミステリ的なところにツッコミを入れるときりがないでしょう。それでも、ラストの死体ラッシュにより読者に一瞬とて落ち着いて考えさせることをさせずに、超意外な死体の正体を明かすこの構成が、自分はすごく好きだということは言っておきます。何度読んでも笑っちゃいます。

ちなみにこの作品は13作あるモース主任警部シリーズ長編の6作目です。この頃はまだ各章の頭に引用を置いていませんが、かわりに古き良きイギリス小説らしく、「この章ではモース主任警部が○○をする」みたいな説明芸をやっています。モース、ルイス、マックス、ディクスンらのキャラも確立しており、とにかく読者を笑わそうというふんだんなくすぐりに加え、読者を惑わしまくるメタ視点もふんだんに挿入されるのです(実はこの時彼らは気付かなかったのだが……とかどんどん書いてしまうのです)。デクスターのユーモアって本当に好き。

というわけで、これをコリン・デクスター一発目に読ませるのはなんか違う気もするのですが、『ウッドストック行最終バス』を読んだっきり手をつけていない、みたいな人にはぜひ読んでもらいたい作品です。デクスターはこういう一発芸じみたトリックだって面白いのよ。


書 名:謎まで三マイル(1983)
著 者:コリン・デクスター
訳 者:大庭忠男
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 148-6
出版年:1993.09.15 1刷

評価★★★★★
ウッドストック行最終バス
『ウッドストック行最終バス』コリン・デクスター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

夕闇の迫るオックスフォード。なかなか来ないウッドストック行きのバスにしびれを切らして、二人の娘がヒッチハイクを始めた。その晩、娘の一人が死体となって発見された。もう一人の娘はどこに消えたのか、なぜ乗名り出ないのか?次々と生じる謎にとりくむテムズ・バレイ警察のモース任警部が導き出した解答とは……。魅力的な謎、天才肌の探偵、論理のアクロバットが華麗な謎解きの世界を構築する現代本格の最高傑作。(本書あらすじより)

というわけで、デクスター再読作戦を決行。月1ペースで読めたらいいなぁ。ちなみに本書の初読は高1の夏休み。図書委員が夏休みに読んだ本、として書く感想でこれを選んだんでした。当時からどんだけアレな子だったのか。

さて、モース警部初登場なわけですが、いやはや、デビュー作からしてすごいですね。本格ミステリとして一級品だと思います。

デクスター作品は、基本的に犯人が誰だかすぐに忘れてしまいます。プロットがあまりに二転三転してしまうため、誰が犯人だったかどうでもよくなってしまうというか。ただ、『ウッドストック』は例外的に犯人の印象が非常に強いため、その点ではインパクトのある作品です。まぁ、それ以外の要素は完全に忘れていたので、十分楽しむことが出来ましたが。
ただ、シリーズ第一作ということもあり、「二転三転するプロット」と形容するほど複雑ではない気がします。モースの妄想推理は割合大人しめ。この後の数作品の方が格段にややこしいです。そういう意味では、まだシリーズの特徴がしっかり出ていない、と言えるのかもしれません(他にも、ディクスン刑事がまだドーナツを食べてない、とか)。

とはいえ、本格ミステリとして文句のつけようのない出来栄え。いくつも偽の手掛かりやら関係ない事項やらがばらまかれているため、読者は見事に煙に巻かれてしまいます。緻密な伏線と綿密なロジックにより犯人が特定できる――というタイプの作品ではないんですが、それでもいくつか明示的な手掛かりがしっかり用意されています。登場人物の証言に含まれた嘘による騙しのテクニックはトップクラスです。

ま、それもありますが、自分がこのシリーズを好きな一番の理由は、モースのキャラクター、および作品全体に漂うほのかで上品なユーモアです。クスッと笑えるポイントが実に面白いんです。デクスターは( )やダッシュを多用していますが(作中で自虐的な批判があったような)、この使い方がもうまさに自分のツボに入っているというか。やっぱりデクスターは好きだなぁ。そしてイギリスに行きたい……。

というわけで、今月から順に読んでいく予定です。次作は『キドリントンから来た娘』。初読時はイマイチでしたが、今読むとどうなのか……。

ところで、ルイスって、モースの数歳上だったんですね……今回読んでいて一番驚いたのがそこでした、はい。

書 名:ウッドストック行最終バス(1975)
著 者:コリン・デクスター
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 148-1
出版年:1988.11.15 1刷
    2002.4.15 14刷

評価★★★★☆
ニコラス・クインの静かな世界
『ニコラス・クインの静かな世界』コリン・デクスター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ニコラス・クインが海外学力検定試験委員会の一員に選ばれた際、委員会は大騒ぎとなった。彼は極度の難聴で、会話を交わすにも読唇術だけが頼りだったからだ。三ヵ月後、クインは毒殺死体となって発見された。補聴器をつけた安全無害の男がなぜ殺されなければならなかったのか?モース主任警部は即座に委員会に照準をあわせ捜査を開始するが……。現代本格派の旗手が紡ぎ出す華麗な謎解きとアクロバティックな推理の世界(本書あらすじより)


とうとう、デクスターの作品を全部読んでしまいました。つくづく残念です。また最初から読み直したいですね。

さて、モース警部シリーズとしては長編第3作となる、このタイトルの長い作品ですが、期待以上の出来でした。毎回デクスターに相当な期待をかけているTYが言うんですから、これはまぎれもなく傑作です。ただ、相変わらず読む人をかなり選ぶ作風だと思います。あくまで個人的な評価ですのであしからず。


本作の大きな特徴として、尋常じゃない量の怪しげな証拠があると思います。いやもうほんと、証拠が多すぎるんですよ。読者やモース警部はおろか、作者さえ持て余してんじゃないかと疑いたくなるくらいです(笑)しかし、最後に明かされる真相は、(たぶん)全部の証拠をもれなく回収しており、なるほどなぁと納得させるものです。ただ、読者は例によって真相にたどり着くまでに散々モースの偽の真相に振り回されるため、おいこら今度こそ本当に真相なのかよ、とスッキリしないこと請け合いです。全ての謎が明かされる、というカタルシスを味わいたいならば、まぁ無理ではないかと思います。デクスターが嫌いな人が多い、というのも、まぁ分からないではないですね。

少し珍しいのは、デクスターにしては容疑者がかなり少人数に限定されている点です。いつもよりもフーダニットっぽいというか。また、愛人関係だとか浮気だとかも、かなり抑え気味であるように思います(容疑者の奥さんとかが多く絡まないぶん、容疑者が少ないんでしょう)。さらに、モースがあんまり恋をしません。これもまた、フーダニットを意識しているせいなのでしょうか?

しっかし、いつになく綿密なプロットですね。一番良く出来ていると感じたのは、映画館に関する事実を皆が隠している理由です。誤った真相と真実が、映画館を巡って上手く噛み合うように出来ているのが良く分かります。映画館と言えば、最後のオチも悪くありません(笑)


シリーズ初期のせいか、いくつかまだキャラクターが固まっていないな、と思うところもちらほら。警察医はいつもと違う人のようですし、ルイスの奥さんはフィッシュアンドチップスを揚げていません(口調にもちょっと違和感が)。モース警部がワグナーを聞く場面が全く無いのは珍しいですね。まぁ、そんなことはどうでもいいんですが。


てなわけで、かなり満足出来る作品でした。文句なし!(実を言うと、細かいことですが、1つなぜか分からないことがあったんですが、よーく考えたら分かりました。頼むから説明を書いてくれ……)


文庫版の解説に関して、ちょっとケチをつけます。なんだかこの解説を書いてる瀬戸川猛資さんは、そんなにデクスターを好きではないのかな、と思ってしまうんですが。以下引用。

「……最初の三作は、ミステリ・ファンに興奮と驚きを提供したものだったが、『死者たちの礼拝』になるとその度合いが少し落ち、『ジェリコ街の女』では大分落ち、『謎まで三マイル』で多少持ち直したものの、『別館三号室の男』でまたガクンと落ちて凡作とほとんど変りなくなってしまった。」

上のような評価は間違っている、とすぐに否定しつつも、傑作や秀作はやはり最初の三つだけ、としています。『謎まで三マイル』をやや持ち上げているあたりから判断するに、どうも瀬戸川さんは、デクスターのアクロバティックな推理、というアイデアのみを褒めているような気がします。『森を抜ける道』のようにデクスターの作品が円熟してくるのはこれ以降であるとは言え、この評価はあんまりじゃないでしょうか。TYの評価はあえて避けたいと思います。

書 名:ニコラス・クインの静かな世界(1977)
著 者:コリン・デクスター
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 148-3
出版年:1990.12.15 1刷
    1993.9.30 3刷

評価★★★★★
モース警部、最大の事件
『モース警部、最大の事件』コリン・デクスター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

こんな夜更けにケチな盗難事件の捜査とは。モース主任警部は顔をしかめた。ロンドンの安酒場で四百ポンドが忽然と消えたという。事件当夜は金回りの悪い常連客ばかりで、犯行の機会は全員にあった。さすがのモースにも、犯人の特定は絶望的に見えたが……『クリスマス・キャロル』を下敷きとした表題作をはじめ、パスティーシュやメタミステリなど11篇を収録。本格ミステリの第一人者が贈る、ヴァラエティに富んだ短篇集(本書あらすじより)


風邪をひくと、1冊くらいあっという間に終わってしまうもんですね。

再読。2007年に読んだときはポケミス版でしたので、「信頼できる警察」が初読です(なぜ文庫化する際に増やしたりするのだろうか)。読書録をちゃんと付け出したのは2008年からですからねぇ。2007年に結構読みまくったデクスターについては、ちょっとあいまいだったりします。

以前読んだ時も感じましたが、やはりデクスターの本領は長編かな、という気がします。短編では複雑なプロットにも限界があるし、むしろ詰め込みすぎて少々読みにくい気がします。が、前よりも全体的に面白かったですね。原因は、この3年間で短編のエグさに慣れたせいではないかと(笑)

なお、前と同じく、一番面白いのは当然「花婿は消えた?」です。

※以下、付記してあるもの以外は大庭忠男訳


「信頼できる警察 (As Good as Gold)」(1993)
警察官としての一線を越えてよいものか、はたまた時の人となりたいモースの心境はいかに?

文庫版のみ収録。ちょっと長めですが、むしろその方が読ませます。あの失敗は、全部モースがお膳立てしたんでしょう(彼が知らないわけがない)。モースとルイスの関係が良くて、結構この話は好きです。
案外ストレンジ警視は気付いているのでは?(いや、それはない)


「モース警部、最大の事件 (Morse's Greatest Mystery)」(1993)
あらすじは上部のあらすじの通り。

正直なところ、このわずか10ページの表題作が一番気に入らないんですよね……。なんか、らしくないというか。別に「クリスマス・キャロル」らしいとも思わないですし。


「エヴァンズ、初級ドイツ語を試みる (Evans Tries an O-Level)」(1977)
ドイツ語試験を受けようとする服役中のエヴァンズと、ぜってぇ何か企んでるなと警戒しまくる刑務所の方々。果たしてエヴァンズの狙いとは?

4転はしたんじゃないかと思わせるプロットです。いくらなんでも、企みの規模がデカすぎる気がしますが(ただの窃盗犯じゃないの?)。そこそこ好きなお話。


「ドードーは死んだ (Dead as a Dodo)」(1991)
ワイズという男がモースに語った奇妙な話。それを聞いてモースが導き出した驚愕の真相とは?

この話も結構好きです。ワイズがいくらなんでも気の毒すぎる気が(笑)現実には無理がありますよねぇ。


「世間の奴らは騙されやすい (At the Lulu-Bar Motel)」(1981)
賭けポーカーを舞台に繰り広げられる騙しあい。本当に勝つのは誰だ?

一番デクスターらしくない作品(訳者は中村保男さんですし)。実際にうまくいきそうな方法ではあります。ぶっちゃけ、登場人物が誰が誰だかよく分からなかったんですが(笑)ルーイスって結局重要人物なの?


「近所の見張り (Neighbourhood Watch)」(1993)
モースの隣人に起きた奇妙な自動車窃盗事件。犯人の行動を読んだモース警部だったが……。

何もこんなことする必要はないんじゃないかなぁと思わないでもないです。モースに勝ちたかっただけなのかなぁ。


「花婿は消えた? (A Case of Mis-Identity)」(1989)
コナン・ドイル「花婿失踪事件」の別解。

訳者は大村美根子。これは良いですね。元ネタを知っていれば面白さ倍増。マイクロフトの「盲目のうえに半分ぼけていると言わんばかりじゃないか!」のセリフは、この短編集でデクスターが言っちゃダメでしょう(笑)


「内幕の物語 (The Inside Story)」(1993)
ある女の死体と、彼女が書こうとしていたミステリー。その関係はいかに?

長編にしてもいいような、いかにもなモース警部作品でよろしいかと。ミステリーコンテストの審査員がジュリアン・シモンズとH・F・キーティングとは妙に豪華ですが、これって実話でしょうか。それから、作品ってそんな簡単に持ち出せるのでしょうか。


「モンティの拳銃 (Monty's Revolver)」(1992)
いい年の教授と若い秘書とその旦那。以上。

旦那は役者でした(笑)落とし所がぶっ飛びすぎていて面白いです。


「偽者 (The Carpet-Bagger)」(1993)
刑務所から脱走した男と、トラックを盗んだ男。警察はこのカラクリを見破れるか?

結局こいつは、周りをからかっているだけなんでしょうね。そこそこ面白いと思います。ワトスン刑事って、長編に出たことありましたっけ。


「最後の電話 (Last Call)」(1993)
ランドルフ・ホテルで心臓発作を起こした男と、2通の電話。一体誰が電話をかけたのか?(ほんとそれだけ)

どいつもこいつも役者だな!結局トリックは意味なかったわけですね。モースと若い女の将来に期待(笑)


書 名:モース警部、最大の事件(1977~1993)
著 者:コリン・デクスター
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 148-11
出版年:1999.12.15 初版

評価★★★★☆
(このページへのアクセス数が非常に多いようなので、2016.04.30にちょっとだけ文章をいじりました。内容は6年前の高校3年生の時に書いたものと変わっていません)


毎週土曜日恒例(?)ミステリ語り、本日はコリン・デクスターについて語り尽くします。興味ない方は、どーぞスルーしてくださいませ。

デクスターは、個人的に非常に気に入っている作家です。アガサ・クリスティーしか読まなかった自分が、高1になって次に移った作家、とでもいいましょうか。
しかし、日本でも人気があるとは言え、イマイチ読まれていない気がしなくもありません(よね?)。新刊で買えるのは『ウッドストック行最終バス』だけという体たらく(※2016年現在、短編集『モース警部、最大の事件』以外の全長編がKindleで購入可能です)。というわけで、大いに褒めまくり、人気向上に一役買おう……というのが今日の目的(いやいや)。

デクスターの説明をちょっとだけ。1930年生まれのイギリスの作家で、男性陣ではラヴゼイ、ヒルと共に、現代英国本格ミステリの代表的人物です。イギリス陸軍通信隊・中等学校教師を経て、オックスフォード地方試験委員会に勤めます。クロスワードパズルのキー作りチャンピオンに3年連続して選ばれたことがあり、このこともあって作中のモース主任警部は大のクロスワード好きです。
1975年、本格長編『ウッドストック行最終バス』でデビュー。寡作で、25年間で長編は13しか書いていません。CWAのゴールド・ダガー、シルヴァー・ダガー賞を2回ずつ受賞。1997年、ダイヤモンド・ダガー賞を受賞。

以下、著作リストです。なお、日本ではシリーズ全作ハヤカワ・ミステリ(通称ポケミス)から出たのち、ハヤカワ・ミステリ文庫から出ています。翻訳は短編集内の数編を除いて大庭忠男氏。

長編

Last Bus To Woodstock(1975)『ウッドストック行最終バス』
Last Seen Wearing(1976)『キドリントンから消えた娘』
The Silent World of Nicholas Quinn(1977)『ニコラス・クインの静かな世界』
Service of all the Dead(1979)『死者たちの礼拝』……シルバー・ダガー賞
The Dead of Jericho(1981)『ジェリコ街の女』……シルバー・ダガー賞
The Riddle of the Third Mile(1983)『謎まで三マイル』
The Secret of Annexe 3(1986)『別館3号室の男』
The Wench is Dead(1989)『オックスフォード運河の殺人』……ゴールド・ダガー賞
The Jewel That was Ours(1991)『消えた装身具』
The Way Through the Woods(1992)『森を抜ける道』……ゴールド・ダガー賞
The Daughters of Cain(1994)『カインの娘たち』
Death is Now My Neighbour(1996)『死はわが隣人』
The Remorseful Day(1999)『悔恨の日』

短編集
Morse's Greatest Mystery(1993)『モース警部、最大の事件』(11編収録、なおポケミス版は10編)


……とズラッと並べましたが、実は『ニコラス・クインの静かな世界』のみ未読です。うーむ、なんておこがましいんだオレ。(※その後、大事にとっていましたが結局読みました)

デクスターの作品の特徴をあげるとすると、まずは二転三転するプロットがあります(アクロバティックな推理、なんてよく書かれます)。主人公のモース主任警部はいわゆる直感的推理をふりかざすタイプで、1つの長編の中で3つ以上は “真相”を述べます。その度に“らしい”推理なんですが、ま、たいてい外れます(だって、まだページが半分なのに解決するってことはないでしょ)。しかしこの振り回される感じが非常に楽しいんですよね。もともと念入りで緻密で複雑な事件だというのに、モースの推理が暴走するせいでさらにややこしくなってしまうのです。だからこそ、真の真相にたどり着いた時のカタルシスが堪らないわけです。このややこしさが、何回でも読める良さを作り出しています(何しろややこしすぎたので真相を読了後すぐ忘れてしまうっていう)。


さらに大きな魅力としては、モースやルイス部長刑事などのキャラクターにあります。モースは90年のCWA会員投票でホームズをしのぎ「好きな探偵」第1位になったほど、本国では人気があるようで。(※なおこれはドラマ化したっていうだけじゃないの?という疑いがあります。R・D・ウィングフィールドのフロスト警部についても同様ですね)

モースはオックスフォードのテムズ・バレイ警察署の中年独身主任警部。クロスワードを暇さえあれば解き、好きな音楽はワーグナーという高尚で知的な面を持つ一方で、酒も煙草も女も好き、ストリップ劇場に入るのにも躊躇せず、ときたまエロ本を読むという俗っぽい一面も持ち合わせています(そしてこの俗っぽい面を、自分でもやや恥ずかしいと思っているというのがまた魅力的)。非常に惚れっぽく、事件関係者にしばしば恋愛感情を抱きます。そして、どう見てもさえないこのおっさんは、なぜかよくモテるのです。そりゃあもう理由もなく(ここが大事)モテるのです(秘訣が知りたい)。ただし女性関係は、どうもついていない人です。

個人的に彼の性格で一番好きなのは、うまく言えませんが、短気だけど素直な所でしょうか。ときたまわけもなくルイス部長刑事や秘書にキレたりしますが、5分後くらいには心からそれを悔いていて、素直に謝ろうとさえします。読んでいてすがすがしいほど、素直な彼の態度には、どこか惹かれる所があるような気がします。まあ素直と言っても、知ったかぶりとかしますけど。とはいえ気分のむらっけが半端じゃないお方なので、正直な所何を考えているのかよく分からない……というのがまた面白いのかな。(※ところで女性でコリン・デクスター大好き!という方ってすごく少ない印象があるんですが、これもやっぱりモース主任警部のキャラ所以なのでは……と疑っています)

その部下でワトソン役のルイス部長刑事は、地道な捜査を重んじるコツコツ型で、いつもモースの直感に振り回されます。第1作の設定を見る限りではモースより数歳年上だという点が最大の萌えポイント。家庭的な一面も持ち、好きな奥さんの手料理はフィッシュアンドチップス。当初はモースをめんどくさがっていた彼ですが、次第にモースに対し心からの尊敬?それとも友情?のような感情を抱きます。二人の関係は、後期の作品ほど良いものになるんですよ。ラスト2作品の結末は、ミステリを読んでて初めて泣いた部分です。
その他のキャラは、長くなるのではしょりますが、まぁモース以外は好感が持て、感情移入出来る人物が多い気がします(笑)


そしてデクスター作品を語る上で欠かせないのは、非常に柔らかなユーモアでしょう。モースとルイスの会話や、事件関係者との会話もありますが、それよりも地の文での面白さが素晴らしいんです。ダッシュや( )などを多用する、はっきり言って英語らしい読みにくい文章なのですが、これが効果的で、知的でユーモアあふれるイギリスらしい文章を生み出します。この辺は読んでくれ、ほんとに。
この点に関しては、全作品を訳された大庭忠男さんによるところが大きいですね。大庭さん、普段は非常にこなれた訳なのですが、デクスターの時だけ若干直訳気味の、原文の雰囲気が残る翻訳をされています。これは名訳ですよ。もう90を越えた方だったと思いますが、お疲れ様でしたの一言に尽きます。
(※なお、大庭忠男さんは、2012年12月26日に亡くなられました。あの時はショックだったなぁ……心よりご冥福をお祈りするとともに、デクスターを翻訳してくださったことに感謝申し上げます)


とまあ、これだけ本格らしさもあり、適度なユーモアもあり、キャラ要素もあり、とウケる要素尽くしのはずなのに、なかなか読まれていません。どうも最近の傾向では、レジナルド・ヒルやコリン・デクスターのような(ちょっと地味でややこしい)作家は敬遠されがちなようです。うーむ、残念だ。

さて、最後にオススメの作品を。といっても、なかなか選びにくいのですが。デクスター作品の好みは人によって大きく分かれるようで、書評家さんたちの紹介を見ても、初期作(おおむね『死者たちの礼拝』まで)をすすめる方と、中期作(『ジェリコ街の女』から『オックスフォード運河の殺人』くらいまで)をすすめる方と、後期作(『森を抜ける道』以後の作品かな)が好きな方と分かれます。まぁ後期作を好きな人は、どちらかと言うとシリーズファンかなと思いますが。

まだ1作品も読んでいない方は、普通にデビュー作『ウッドストック行最終バス』から読みはじめるのがいいと思います。割り算のシーンは必見(笑)
その後、『ウッドストック行最終バス』だけ読んで続いていない、という方は、基本的にダガー賞を取っている作品が面白いのでそちらに読み進めれば。『ジェリコ街の女』『森を抜ける道』などですね。『オックスフォード運河の殺人』のみちょっと趣向が違うため(これはジョセフィン・テイ『時の娘』のオマージュである、安楽椅子歴史推理ものなのです)、いい作品だとは思いますが、デクスターらしくないという点ではイマイチかな。
また国内の新本格ミステリが好き!という方におすすめしたいのが『謎まで三マイル』。首なし死体が運河から見つかり、誰の死体か分からない、また容疑者も双子やら何やらで混迷を深める、という究極の犠牲者探し&フーダニットです。

『消えた装身具』『カインの娘たち』は微妙だった印象です。特に『消えた装身具』はテレビ用だったらしいので。また『悔恨の日』は言わば“モース主任警部最後の事件”ですので、なるべく後から読むのが良いです。基本的に読む順番は関係ないので、あとは気になったものから手に取ってみてください。

個人的にベスト3をあげるならば、『死者たちの礼拝』『森を抜ける道』『死はわが隣人』でしょうか。いずれも読みごたえ十分の傑作です。『死はわが隣人』をすぐに読むのは全くオススメしませんが、シリーズを通して見れば一番好きかもしれません。


といったところ。これで少しは知名度があがるといいなぁ。
『キドリントンから消えた娘』コリン・デクスター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

二年前に失踪して以来、行方の知れなかった娘バレリーから両親に無事を知らせる手紙が届いた。彼女は生きているのか、としたら今はどこでどうしているのか。だが捜査を引き継いだモース主任警部は、ある直感を抱いていた。「バレリーは死んでいる」……幾重にも張りめぐらされた論理の罠をかいくぐり、試行錯誤の末にモースが到達した結論とは?アクロバティックな推理が未曾有の興奮を巻き起こす現代本格の最高峰。(本書あらすじより)


デクスターも残るところ読んでいないのは『ニコラス・クインの静かな生活』だけとなりました。第2作ということでか、初期の作品にみられるように、モース警部の迷走推理が激しいです。勘違い思い違い直観の数々。というか、正直多すぎるくらいだと思いました。やはり彼の作品は後期の方が非常に出来がいいように思います(なにより後期の方がルイスのキャラがいいと思う)。このアクロバッティングは、正直初めて読む人にはきついんじゃないでしょうか。デクスターを初めて取る人には、第一作『ウッドストック行き最終バス』から読むのが無難といえるでしょうね。別につまらない作品なわけじゃあないんですけど。単に、他のデクスター作品と比べたら、の話です。

バレリーの失踪から始まり、単なる事件では終わらせないのがデクスターのすごいところ。事実、大したことは起きていない(大した事件ですらない)のに、ここまで話を持たせるとはなかなかです。まだ実験的のようですが、章毎の引用文が、なかなかいい味出していますね。終わり方にはやや疑問です……こういう解決は、『カインの娘たち』にも見られますが、どうもデクスターには向いてないんじゃないかな、って気がしないでもありません。あと、ルイス部長刑事の扱いが、いい加減な気が(笑)

やはり個人的には、デクスターは後期作品、『死は我が隣人』『森を抜ける道』『悔恨の死』をオススメしたいところ。『死は我が隣人』をほめてる人、あんまりいないんだけど……。

書 名:コリン・デクスター
著 者:クレイグ・ライス
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 148-2
発 行:1989.12.31 初版
     2001.5.31 10刷

評価★★★☆☆