神さまがぼやく夜
『神さまがぼやく夜』マイクル・Z・リューイン(ヴィレッジブックス)

万物の創生主、神は悶々としていた。ある計画を胸に下界に降りたものの、百年ぶりの世界はすっかり様変わりし、かつて自分に似せて創った人間たちはスマートフォンにタトゥーに脱毛、理解不能な進化を遂げていたのだ。そこで彼らを知るため夜ごと酒場めぐりを始めるが、男と女の関係はどうも複雑怪奇なようで……。ミステリーの名手が極上のユーモアで現代社会を諷刺する意欲作。(本書あらすじより)

まさかのリューイン新刊! 早川ではなく、なんとヴィレッジブックスからの返り咲きです。今年はこういう久々の作家が紹介されることが多くないですか、トレヴェニアンとか。
さて、まず言っておくと、全くもってミステリではありません、あしからず。とりあえずそのことを念頭においた上で。結構ゲスな神さまを主人公に置き、人間という存在を神さま目線から皮肉りながら、なおかつ人間という存在の素晴らしさをユーモラスにつづった物語。リューインは『のら犬ローヴァー町を行く』なんて犬目線のハードボイルドなんかも書いているんでしたね、読んでないけど。

くすっと笑いながらちょっと考えさせる、みたいな気取ったところのない小説です。前半は神さまがナンパしてはフラれるの繰り返しばかりでやや退屈なんですが(神的全知全能能力を駆使した名探偵っぷりも見せてくれます)、後半、神さまがナンパから離れて自らのことを考え始めてからがとっても面白かったです。うーん、これはいいものですな。
だんだんと、神さまは自分が本当にしたいことは何なのか、天国の運営やら息子のイエスやらうるさい天使たちやらをどうするべきか、など様々な問題を考え始めるようになります。というかウン億年考えてなかったんだな、こいつ。と同時に、神さまは人間からも色々なことを学んでいくようになるわけで。人間って、くだらないけど、至高の存在でもあるんですよ、なんてことに気付かせてくれるリューインの語り口に、後半どんどんはまっていくこと間違いなし。リューインのユーモアってちょうどいいんだよなー。

というわけで、熱烈におすすめするような小説でもないんですが、神さまが人間に化けてナンパ目的で地球に下り立ち振られまくる、というあらすじが気になるひとはぜひ読んでみることをおすすめします。こういうのを年に1冊くらい読めるといいですね。

書 名:神さまがぼやく夜(2012)
著 者:マイクル・Z・リューイン
訳 者:田口俊樹
出版社:ヴィレッジブックス
     ヴィレッジブックス F-リ8-1
出版年:2015.01.20 初版

評価★★★★☆
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夜勤刑事
『夜勤刑事』マイクル・Z・リューイン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

若い女性が指を潰され、絞殺されるという事件が相次いで起きた。捜査にあたったインディアナポリス市警のパウダー警部補は、ふたつの殺人の関連を追い始める。その矢先、女子学生が謎の失踪を遂げた。錯綜する事件の裏にはいったい何が?都会の夜を守る辣腕刑事パウダー登場。現代ハードボイルドの雄が、私立探偵サムスンを脇役に配し、怒り、迷い、恋に悩む男の姿を描く傑作警察小説。パウダー警部補シリーズ第一弾。(本書あらすじより)

さて、リューインのサムスン物と並ぶ人気シリーズ、パウダー警部補物です。

ざっくりした印象ですが、これは事件がどうこうとかもはやどうでもよくて、「パウダー警部補」という人間の生き様を楽しむための物語なのかな、と。彼のダサかっこよさを堪能出来ればそれで良いのです。そういう意味では、サムスン物と比べてはるかにキャラ萌え小説なのかもしれません。

警察組織を描くモジュラー型のある種の弱点は、その小説の内容はその組織の日常業務の一場面を切り取ったものに過ぎず、なんら特別性がない、ということではないかと思います。どこから読んでもどこで中断しても問題ない。つまり、序盤、読者を引っ張るのがやや難しいのです。
さらに、このパウダー警部補が、最初読者に取っ付きにくいキャラクターなんですね。フロスト警部とモース警部の悪いとこだけ取り出して協調性をゼロにしたみたいな(?)。みんな大好きアルバート・サムスンは、登場するやいなやパウダーにぶちのめされるし。こいつは何なんだ、と強く感じざるを得ません。

というわけで、つかみはちょっと弱い。

ところが、読み進めるに従い、パウダーがただの短気なオッサンではないことが分かってきます。切れ者で周りに合わせられない、根はいい人であるようなないような、短気なオッサンなのです(笑) それにともない、読者はパウダーの一挙一動を興味津々で追うことになるわけですよ。事件とかもうどうでもいい。

……と思えたら、もう文句なしに楽しめるのではないかなぁと。自分はとっても面白く感じました。いやプロットもすごくいいのですよ。二つの事件が結び付く(っぽい)とことか上手いし、案外伏線がキレイに張られているし。
終盤は駆け足で、なんかなあなあで終わった感もあるにはあります。が、そのなあなあさが逆に魅力的に思えてしまうのですね。これはたぶん、あの刑事に出したパウダーの指示が、宙ぶらりんなままだからじゃないでしょうか。結局、なあなあなもんなんですよ、捜査ってもんは(適当にまとめた)。リューインは意図的に、捜査の一部分を抜き出したかのような描き方をしたのではないでしょうか。故に、最後がやや尻切れトンボになるのも当然なのです。

なんかあまりハッキリした感想が書けないのですが、まぁ今のところは、サムスンの方が好きかなぁ。ちょっと癖が強いですね。リューインは作品数が少ないので、今年もちょっとずつ読み進めたいです。とりあえずシリーズ物中心で。


書 名:夜勤刑事(1976)
著 者:マイクル・Z・リューイン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 165-6
出版年:1995.2.15 1刷

評価★★★★☆
A型の女
『A型の女』マイクル・Z・リューイン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

お願い、わたしの生物学上の父を探して――。閑散としたオフィスに突然飛び込んできた少女にサムスンは面食らった。大富豪クリスタル家の一人娘が、血液型から自分は実の子ではないことが判明したと涙ながらに訴えるのだ。さっそくクリスタル家の系譜を探り始めたサムスンは、こころならずも名家の巨富をめぐる醜悪な争いに巻き込まれてゆく。暴力を憎む心優しき知性派探偵アルバート・サムスン、文庫初登場。改訳決定版。(本書あらすじより)

うぅむ……リューインはいいなぁ……全作品読んでみたいものだなぁ……。あ、この本は、毎月恒例ハードボイルド読書会の課題本として読んだものです。
デビュー作からして既に完成されている感があります。非常にまとまりのいいプロット、軽妙でユーモラスな語り口、ラストの狙いまくった(くそぉ)感動シーン、普通人としてのサムスンのキャラクター、その他個性的な登場人物たち。いやぁいいね。いいねいいね。本当にいいです。

ただし、シリーズ最高傑作と名高い『沈黙のセールスマン』を読んだ後だから思ったのかもしれませんが、やはり事件が地味過ぎて、序盤読者を引っ張り切れていない、というのは否めません。真相も、さすがに現代のミステリ読みであれば気付けるでしょうし(最後の最後のどんでん返しは別ですが)。この辺がちょっともったいないかな。ま、中盤以降はぐいぐい読ませるので、とりたてて不満というほどではないですが。

『沈黙のセールスマン』の感想でも書きましたが、こういうユーモアミステリではないユーモア、しゃれた会話というか、くすっと笑える要素って、海外は本当に上手いですよね(例のおじいさんとか最高じゃないですか)。物語の味付けとして抜群の効果をあげています。今年読んだ新刊はシリアスが多めだったのでなんかホッとしました。
あくまで個人的な好みなので誰と争うつもりもありませんが、つまるところ自分の中では「ユーモアのあるミステリ」>>>「ユーモアのないミステリ」なんです。もちろんユーモアがないものでも大好きなミステリはありますが、大まかに言うとこうなります。うん、だからこんないリューインを気に入ってしまったんでしょうね。最近の作品の方がユーモア成分はアップしているらしいですが。

というわけで、飛び抜けたところがないせいかやや物足りなさは感じますが、全体的にすこぶる満足できる作品でした。次はパウダー警部補ものを読んでみます。

書 名:A型の女(1971)
著 者:マイクル・Z・リューイン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 165-1
出版年:1991.7.31 1刷
    1997.6.15 7刷

評価★★★★☆
沈黙のセールスマン
『沈黙のセールスマン』マイクル・Z・リューイン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

半年も入院したまま、面会謝絶で安否もわからない弟の様子を調べて。依頼人の女性は憔悴しきっていた。製薬会社でセールスマンとして働く弟が、会社の研究所で爆発事故にあい、以来、社の管理下にあるという。なぜセールス部門の者が研究所内の事故に?不審に思ったわたしは、ガードの堅い会社側に揺さぶりをかける――十数年ぶりに再会した実の娘とともに謎を追う知性派探偵サムスン。シリーズの人気を決定づけた傑作。(本書あらすじより)

なんてこった、傑作じゃないですか。
今年は毎月一冊、ハードボイルドを読んで来たわけですが、『沈黙のセールスマン』は『マルタの鷹』や『長いお別れ』や『ウィチャリー家の女』よりもはるかに楽しめました。というか性にあいました。超面白かったです。しかし今挙げた作品の中で、これだけ『(新・)東西ミステリー・ベスト100』にランクインしていないんですよね……ってかリューイン入っていないんですよね……解せぬ……。
製薬会社に隠された陰謀はしっかり作り込まれていて面白いし、サムスンの一人称には爆笑しっぱなしでむちゃくちゃ楽しいし、最後のドンパチ(的な何か)も熱いし、ラストのちょっとしたどんでん返しも驚けるし、読後タイトルのかっこよさが良い余韻だし、つまり傑作では(くどい)。
先ほどあげたような御三家ハードボイルドが苦手な人の方が、こういったネオ・ハードボイルド(というんですよね、リューイン以降のハードボイルドの一群を)を楽しめるのではないかと思います。適度にゆるいんですよ。私立探偵アルバート・サムスンは、暴力を嫌い、拳銃は持たず、酒はそこそこ、オレンジジュース大好き、という極めて普通人です。そういう人が奔走するさまの方が、個人的にはタフガイに対してよりもはるかに共感できます。

この楽しさの大きな一因は、明らかにサムスンの語りでしょう。とにっかくユーモラス。ウィットに富んだ会話の連発です。やっぱりね、こういったある種日本人が苦手とする、欧米作家の笑いに富んだ文章って、とっても素敵だと思うんですよ。ユーモア・ミステリではなく、ドタバタ劇があるわけでもなく、ただただ洒脱な会話やひねくれた地の文で楽しませる小説。昔の日本人作家にはこういったことが得意な人は結構いたようですが、最近はあまり見かけないような気がします(と言っても国内作家の小説を年に10冊くらいしか読まないので言ってることは適当です)。

さて、というわけで、これはオススメです。特に最後の行がもうすんばらしく、読み終わってニヤッとさせる感じが実にスタイリッシュ。リューインは良いです。今年中にパウダー警部補ものも読んでみたいのですが……間に合うかな……。

書 名:沈黙のセールスマン(1978)
著 者:マイクル・Z・リューイン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 165-4
出版年:1994.5.15 1刷

評価★★★★★
探偵家族
『探偵家族』マイクル・Z・リューイン(ハヤカワポケミス)

風光明媚な町バースに住むルンギ一家は親子三代にわたる名探偵。頑固な親父さんに、それをなだめる優しいママ。長男は放蕩者で、長女は目下不倫中の困り者だが、次男とその美貌の妻が探偵事務所をきっちり運営する。もちろんやんちゃざかりの二人の孫たちも大活躍だ。そんな彼らのもとに、近所の主婦が来て台所洗剤が「おもわぬ場所」にずれているので調べてくれという変な依頼が……。みんなで楽しめる家族団欒ミステリ。(本書あらすじより)

イタリアに行く飛行機の中で読み始めた本です。ルンギ一家がイタリア系であることを考えると、なんたる偶然、むしろベスト読書ではと思ってしまうんですけど。

ちなみに、リューインは初読です。いやまぁ、ハードボイルド作家なので、なかなか手を出していないんですよ。この『探偵家族』は例外的なほのぼの系だということですから、結局、まだどんな作品を書く作家なのか分かってないんですが。

で、この『探偵家族』です。サークルでの義務的読書の1つ、でしかなかったんですが。
……なにこれ、むっちゃ面白い。というか、好みどストライク!いいぞいいぞほのぼの系。続編も読もう。

読み味としては、そうですねぇ、自分が読んだ中ではクレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』にもっとも近いです。コージーではない、この上なくまったりとしたミステリというか。ちなみに『スイート・ホーム』は、個人的にマイベスト10にランクインする勢いで傑作だと信じています。反論は認めます。
加えてモジュール型という贅沢さ。あらすじにある「洗剤の位置がずれてたよ事件」の他に、ニセ私立探偵、事務所のデジタル化、孫娘マリーの不審な行動、などなど盛りだくさん。モジュール型の醍醐味は、複数の事件が並行して描かれ、なおかつそれらが合わさっていく様を楽しむことにありますが、本書ももちろん(ある程度は)その期待に応えてくれます。ま、そんなに凝ったものではないし、ちょっと予想がつくことではありますが。

というか、総じて言って、ミステリとしてはそれほどの物でもありません。終盤、あらゆる事件が解決に向かって一気に終息していくのですが、やや急ぎすぎたような気がします。スピード感・錯綜感を演出したかったんだとは思うんですが、ちょっと雑になってしまったかなぁという印象です。

ですから、結構欠点の目立つ作品ではあるんです。
んがっ、しかし!そんなことをグチグチ言っててはこの本はそりゃあ楽しめませんよ。総勢8名プラス部外者何名かのルンギ一家の縦横無尽の(統率のとれていない)活躍、これを楽しめればいいんです!ユーモアにあふれ、なおかつちょっぴりドライな口調に乗せて語られるルンギ探偵事務所の捜査活動がとにかく面白い。家族の面々のキャラクターがそれぞれしっかりと立っているせいか、読んでいて絶妙な安心感を得られ、なおかつ一気読み。時間軸をたまに前後させるのはリューインの癖なのでしょうか、この書き方も悪くないです。やっぱりこの読み口は『スイート・ホーム』に似てますね。作品自体はそんなに似てないんですけど。

とにかく、ミステリ読みだろうがそうじゃなかろうが、全ての人にお勧めできる良作だと思います(傑作かはともかく)。続編『探偵家族/冬の事件簿』もポケミスで出ているようなので、読むのがいまから楽しみです。ちなみに2011年に長編第3弾Family Wayが出たようですが、早川さん、果たして訳してくれるかどうか……。

書 名:探偵家族(1995)
著 者:マイクル・Z・リューイン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1655
出版年:1997.10.15 初版

評価★★★★☆