ベスト・ストーリーズⅠ ぴょんぴょんウサギ球
『ベスト・ストーリーズⅠ ぴょんぴょんウサギ球』若島正編(早川書房)

一九二五年に創刊された、アメリカの歴史ある文芸誌《ニューヨーカー》。その掲載作品から、本邦初訳を中心に、名アンソロジストが選んだ傑作を収録。当代一流の翻訳家陣が参加するアンソロジーの新定番がついに登場。(本書あらすじより)

「ぴょんぴょんウサギ球」リング・ラードナー/森慎一郎訳(1930)
「深夜考」ドロシー・パーカー/岸本佐知子訳(1933)
「ウルグアイの世界制覇」E・B・ホワイト/柴田元幸訳(1933)
「破風荘の怪事件」ジョン・コリア/若島正訳(1934)
「人はなぜ笑うのか──そもそもほんとに笑うのか?」ロバート・ベンチリー/柴田元幸訳(1937)
「いかにもいかめしく」ジョン・オハラ/片岡義男訳(1943)
「雑草」メアリー・マッカーシー/谷崎由依訳(1944)
「世界が闇に包まれたとき」シャーリイ・ジャクスン/谷崎由依訳(1944)
「ホームズさん、あれは巨大な犬の足跡でした!」エドマンド・ウィルソン/佐々木徹訳(1945)
「飲んだくれ」フランク・オコナー/桃尾美佳訳(1948)
「先生のお気に入り」ジェイムズ・サーバー/柴田元幸訳(1949)
「梯子」V・S・プリチェット/桃尾美佳訳(1949)
「ヘミングウェイの横顔──『さあ、皆さんのご意見はいかがですか?』」リリアン・ロス/木原善彦訳(1950)
「この国の六フィート」ナディン・ゴーディマー/中村和恵訳(1953)
「救命具」アーウィン・ショー/佐々木徹訳(1954)
「シェイディ・ヒルのこそこそ泥棒」ジョン・チーヴァー/森慎一郎訳(1956)
「楢の木と斧」エリザベス・ハードウィック/古屋美登里訳(1956)
「パルテノペ」レベッカ・ウェスト/藤井光訳(1959)

昔よく出ていたニューヨーカーの短編集が、若島正さんの編集によって1年かけて3冊出ました。本書はその1冊目です。半年くらいかけてちょっとずつ読み進めていました(職場で)。
ニューヨーカーらしい皮肉とユーモアと悲哀に満ちた作品が多く、平均点が高い好アンソロジーです。これ!!!という突出した傑作があるというより、1編1編軽く読めて楽しめる、間食みたいな作品集。小説だけでなく評論、エッセイなども収録しているのが特徴で、またそちらに収穫が多いので、これはもう編者のナイス采配としか言いようがないです。

良かった作品をあげると……ジョン・オハラ「いかにもいかめしく」、エドマンド・ウィルソン「ホームズさん、あれは巨大な犬の足跡でした!」、フランク・オコナー「飲んだくれ」、ナディン・ゴーディマー「この国の六フィート」、アーウィン・ショー「救命具」、レベッカ・ウェスト「パルテノペ」あたりでしょうか。ウィルソンはミステリ批判で有名な「誰がロジャー・アクロイドを殺そうとかまうものか」の続編で、ホームズの良さをアツく語っています。ゴーディマーなどはかなりシリアスな考えさせる話。

とっくにベスト・ストーリーズのⅡとⅢも出ているので完結しているのですが、うーんまぁ気が向いたら読もうかなー。間違いなく面白いとは思うんだけど、やっぱり短編集ってそこまで熱中できないので。

原 題:The Best Stories 1: Br'er Rabbit and Other Stories(2016)
書 名:ベスト・ストーリーズⅠ ぴょんぴょんウサギ球
編 者:若島正
出版社:早川書房
出版年:2015.12.25 初版

評価★★★★☆
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街角の書店
『街角の書店』中村融編(創元推理文庫)

江戸川乱歩の造語である〈奇妙な味〉は、ミステリにもSFにも怪奇小説にも分類不能の、異様な読後感を残す小説を指す。本書には、翻訳アンソロジーの名手が精選した作品──異色作家の埋もれた名作、スタインベックら大家によるユーモア譚、SF界の鬼才の本邦初訳作など18篇を収めた。ひねりの利いたアイデアストーリーから一風変わった幻想譚まで、多彩な味をご賞味あれ。(本書あらすじより)

とりあえず、収録作一覧をご覧ください。

ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」
イーヴリン・ウォー「ディケンズを愛した男」
シャーリイ・ジャクスン「お告げ」
ジャック・ヴァンス「アルフレッドの方舟」
ハーヴィー・ジェイコブズ「おもちゃ」
ミルドレッド・クリンガーマン「赤い心臓と青い薔薇」
ロナルド・ダンカン「姉の夫」
ケイト・ウィルヘルム「遭遇」
カート・クラーク「ナックルズ」
テリー・カー「試金石」
チャド・オリヴァー「お隣の男の子」
フレドリック・ブラウン「古屋敷」
ジョン・スタインベック「M街七番地の出来事」
ロジャー・ゼラズニイ「ボルジアの手」
フリッツ・ライバー「アダムズ氏の邪悪の園」
ハリー・ハリスン「大瀑布」
ブリット・シュヴァイツァー「旅の途中で」
ネルスン・ボンド「街角の書店」

……という感じのアンソロジーとなっております。
いわゆる奇妙な味アンソロジーで、最初から最後にかけて徐々に超自然要素の強い短編を並べていく「グラデーションのような配列」が素晴らしいの一言。一口に奇妙な味といっても範囲が広く、不条理ミステリっぽいものから、ほぼSFやファンタジーと言ってよいものまで様々。自分の好みはどういう作品かを知ることが出来ます。アベレージも高く良短編集でしょう。

前半の収録作は、いわゆるミステリ読者のよく知る奇妙な味に近いと思います(ロアルド・ダールとかスタンリイ・エリンみたいなやつ)。一方後半はファンタジー、SF寄りで、こういう話も奇妙な味って言うのね、と勉強になりました。基本的には前半が好み……かと思いきや、後半もちょこちょこ面白いのがあってなかなか油断ができません。余談ですが、「奇妙な味」というネーミングを考えた江戸川乱歩はマジで偉いと思います。
それでもベストはやっぱり初っ端のジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」。もうタイトルからして強い、奇妙な味の王道です。立ち読みでこれだけ読むのでもいいくらい。他にシュヴァイツァー「旅の途中で」、クラーク「ナックルズ」、ゼラズニイ「ボルジアの手」、ヴァンス「アルフレッドの方舟」なんかも好き。いやーこれはおすすめですよ。
というわけで、以下簡単に感想を。

ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」(1963)
あらすじあえて省略。デブネタでこの内容はもはや王道とも言えますが、そのためにコンテスト、およびラストの謎オチを盛り込むという奇抜っぷりに恐れ入ります。そもそも「グラディスのグレゴリー」という書き方からしてやばいのです。傑作。

イーヴリン・ウォー「ディケンズを愛した男」(1933)
ジャングルで迷い死にかけていた男を救ったのは、その地に住むディケンズを愛した男だった。
ウォーのブラックユーモアはエグいからちょっと苦手。あー!だめー!あーー!って叫びながら絶望へと進んでいく主人公を眺めるタイプの話。

シャーリイ・ジャクスン「お告げ」(1958)
おばあちゃんの買い物メモがもたらしたお告げとは。
これ、奇妙な味なの? ユーモア短編で、ほっこりする系の話。どちらかと言えば小品という感じでしょう。むしろジャクスンってこういう話も書くんだ、みたいな。『野蛮人との生活』読みたいです。
そういえば、シャーリイ・ジャクスンの短編集が来月創元から出ますね。まだ一冊も読んでいないので、これを機に読もうかな。

ジャック・ヴァンス「アルフレッドの方舟」(1965)
大洪水を予感したアルフレッドは方舟を作り出す。
これは好きです。人間のあさましさと、神を失った現代の皮肉っぷりがよいバランス。この終わり方もすごく好み。

ハーヴィー・ジェイコブズ「おもちゃ」(1969)
ハリーは骨董品店で昔自分のものだったおもちゃのトラックを見つける。
これ、いかにもありそうな話だってところがイヤな話。情より商売な人々にうんざりしましょう。

ミルドレッド・クリンガーマン「赤い心臓と青い薔薇」(1961)
クリスマス休暇を過ごす家族に、デイモンという少年が入り込んできた。
寄生もの。しかも少年ものです。もうほんと苦手なうげげという話なんですが、オチの強さといい、語りといい、構成といい、うまいと言わざるを得ません。子どもが家庭の中に入りこんで寄生していくタイプの話、クェンティン・パトリックでも読んだことがありますが、ほんとイヤな題材ですよね……。

ロナルド・ダンカン「姉の夫」(1965)
戦時中姉の元に帰るマクリーン大尉は、電車内でバックル少佐と乗り合わせ、姉の家に泊めることにした。
怪奇小説に近いです。この人間関係が、シビアそうで案外ゆるやかに進行するのがどこかとぼけていていいですね。オチも後味悪いってのとは違うし。結構面白いです。

ケイト・ウィルヘルム「遭遇」(1970)
雪で立ち往生したバスが動き出すのを待つため、待合室に留まった男は、女との会話を通じて人生を振り返る。
……という話なの? 本短編集の中で最もよく分からない話。表面上にしか周りを見られない人をdisってます(つらい)。オチ含め全く「遭遇」の意味が分からないので誰か解説を希望(ぜひコメントで教えてください)。

カート・クラーク「ナックルズ」(1964)
サンタクロースに対する悪の神ナックルズを考え出した父親の話。
これは好きです。オチが見えている、あまり悪意のない、善意のクリスマスストーリーとして捉えてあげたい作品。最後の一行は笑っちゃいます。ちなみになんとなく予想通り、ウェストレイクの別名義での作品です。

テリー・カー「試金石」(1964)
書店で魔力があるという石を買ったランドルフは、その日ずっと石を触りぼんやりとしていた。
ちょっと苦手なタイプの話。魔術はこわい。ニート各位に読ませたい作品です。

チャド・オリヴァー「お隣の男の子」(1951)
「お隣の男の子」というラジオ番組で、ゲストとして来た8歳の男の子があることを話そうとする。
出ました、これはまさに奇妙な味……と思ったんですが、ラストのアンクルの正体にやや興ざめ。ああいうのが出た途端、安っぽく見えてしまうのは、やっぱミステリ読みの性なんでしょうか……。

フレドリック・ブラウン「古屋敷」(1960)
古屋敷。ショートショート。短すぎて特に感想が出て来ません。

ジョン・スタインベック「M街七番町の出来事」(1955)
息子がガムを噛み続ける話。
なんと作者はあのスタインベック。一見怖そうな題材ですが、語りはユーモラスで、オチも穏やか。ガム、というあたりがアメリカっぽい話ではあります。

ロジャー・ゼラズニイ「ボルジアの手」(1963)
自らの萎えた手を変えたがる少年の話。
もーこんなん笑うに決まってるじゃないですか。でもこれが発端なら、彼がその後あれらを殺すのはおかしいような? 作者紹介が懇切丁寧なので、読了後に読んだ方がいいかもしれません。

フリッツ・ライバー「アダムズ氏の邪悪の園」(1963)
男性向け雑誌を発行するアダムズ氏はある秘密の植物園を持っていた。
この短編集の中ではやや長めですが、そんなに読みやすくもないです。やっぱライバーってエロいの好きなんじゃないかな……。最後のやつって、死ぬけど、色々な意味で幸せそうです。

ハリー・ハリスン「大瀑布」(1970)
途方もない大瀑布の側で40年間過ごしている男の話。
ザ・奇妙な味っぽい、あと星新一っぽいとも思いました。地味に好きな作品です。最後のがらっと変わるところとか。でもちょっとよくわかんないところもあって……聖書にこんな話でもあるんでしたっけ。

ブリット・シュヴァイツァー「旅の途中で」(1960)
頭が落ちた男の話。
大爆笑。妙に明るくてさばさばとした、楽しい奇想系の話。読み終わると顎が疲れます。作者も掲載誌も不明というエピソードも含めていろいろ面白い作品です。

ネルスン・ボンド「街角の書店」(1941)
奇妙な書店に迷い込んだ作家の物語。
巻末作ではありますが、わりと奇想度は低めな印象。だってありそうじゃないですか。マジレスすると、この主人公とは違って大作家たちは、晩年に傑作を残せるかというと疑問な人も多いんじゃないでしょうか。ちょっとありきたりかな、と思います。

書 名:街角の書店(1933~1970)
著 者:フレドリック・ブラウン/シャーリイ・ジャクスン他
編 者:中村融
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Fん-8-2
出版年:2015.05.29 初版

評価★★★★☆
ミステリマガジン700 【海外篇】
『ミステリマガジン700 【海外篇】』杉江松恋編(ハヤカワ・ミステリ文庫)

日本一位、世界二位の歴史を誇るミステリ専門誌“ミステリマガジン”の創刊700号を記念したアンソロジー“海外篇”。一九五六年の創刊当時から現在に至るまでの掲載短篇から、フレドリック・ブラウン、パトリシア・ハイスミス、エドワード・D・ホック、クリスチアナ・ブランド、ボアロー&ナルスジャック、イアン・ランキン、レジナルド・ヒルら、海外の最新作を紹介し続けてきたからこその傑作がここに集結。全篇書籍未収録作。(本書あらすじより)

えーと更新が遅れていました。すみません。29日まで教育実習でめちゃくちゃ忙しくてですね。というわけで、今月いっぱいはほとんど感想を書けないと思います。またどんどん感想が貯まってしまうな……。

さて、今年頭に出た、ミステリマガジン創刊700号記念アンソロジーです。ミステリマガジンに載り、その後短編集など書籍に収録されていない短編を集めたもの。海外篇の編者は杉江松恋氏で、国内篇が日下三蔵氏です。ちなみにSFマガジン700の国内篇と海外篇も出ています。やるな、早川書房。
しかしひねくれた読者は思うのです。書籍未収録ってつまり傑作があらかた抜かれた後のスーパーの売れ残りみたいなものばっかり集めているんじゃないのと。さらにひねくれたブログ主は思うのです。杉江さんのベストチョイスは翻訳ミステリー大賞シンジケートの書評七福神なんかを見ているとどうも合わない気がするから、今回だってそうなんじゃないのと。

結論から言うと、ロバート・アーサー「マニング氏の金のなる木」という超超ナイス作品はあったのですが、これ以外はまぁ面白いよねってくらいで、突き抜けた作品がないのが惜しいなという感じです。これはね、売れ残りだから、というわけじゃないと思うんです。書籍未収録ったらとんでもない量がありますし。で、杉江さんと好みが合わないからという可能性は、えーと、まぁいくつかの短編を見る感じだとそれは理由の1つかもしれないですけど、たぶんもっと大きな原因があって。
ちょっと目次を見てみましょう。

【収録作品一覧】
「決定的なひとひねり」A・H・Z・カー/小笠原豊樹訳
「アリバイさがし」シャーロット・アームストロング/宇野輝雄訳
「終列車」フレドリック・ブラウン/稲葉明雄訳
「憎悪の殺人」パトリシア・ハイスミス/深町眞理子訳
「マニング氏の金のなる木」ロバート・アーサー/秋津知子訳
「二十五年目のクラス会」エドワード・D・ホック/田口俊樹訳
「拝啓、編集長様」クリスチアナ・ブランド/山本俊子訳
「すばらしき誘拐」ボアロー、ナルスジャック/日影丈吉訳
「名探偵ガリレオ」シオドア・マシスン/山本俊子訳
「子守り」ルース・レンデル/小尾芙佐訳
「リノで途中下車」ジャック・フィニイ/浅倉久志訳
「肝臓色の猫はいりませんか」ジェラルド・カーシュ/若島正訳
「十号船室の問題」ピーター・ラヴゼイ/日暮雅通訳
「ソフト・スポット」イアン・ランキン/延原泰子訳
「犬のゲーム」レジナルド・ヒル/松下祥子訳
「フルーツセラー」ジョイス・キャロル・オーツ/高山真由美訳

見てくださいこのそうそうたるラインナップ。なんと、誰一人聞いたことがない作家がいません! 超有名人! 単独で短篇集がとっくに編まれているような面々ですよ、これ。
ま、HMMの歴史を示す短編集という意味ではこの方がいいかなというか、仕方ないなというか、あと売れなきゃならないのでそうだろなとは思いますけど、もっとあらゆるところから集めたら、かなり質は上がったのではないかという気がします。

というわけで、以下個別に、ごくごく簡単に感想を。ベストはさっきも言いましたがロバート・アーサー「マニング氏の金のなる木」、これは傑作よ。感動ものに弱いからね、俺は。

「決定的なひとひねり」A・H・Z・カー(1943)
とある地主が、3人を殺した妻のことを語る。
非常にストレートな構成で、冒頭に述べられた結末に向けて押し込み強盗を受けた顛末が物語られます。最後が皮肉で良いけど、あくまで小品という感じかな。「ひとひねり」はツイストのことではありません(もちろん)。

「アリバイさがし」シャーロット・アームストロング(1965)
強盗の容疑をかけられた気高き老婦人、ミス・ピーコックのアリバイを調べる話。
読んでいてむちゃくちゃ楽しいのです。この作家は善意を描くのがうまいですねぇ。しかし結局どういうことだったのか、読み終わってもよく分からない……どなたか教えて。

「終列車」フレドリック・ブラウン(1950)
なんだこれと思いながら読み終え、やっぱりどういう話なのかよく分かりません……俺は短編には早すぎる……。というわけでこれについてはあらすじなしで。

「憎悪の殺人」パトリシア・ハイスミス(1965)
周囲の誰をも憎んでいる郵便局員アーロンの殺人計画。
話の方向性が分かってからかなり面白く、どう終わるのかなと期待したけど、まぁそのまんま終わっちゃいましたね。憎悪に対する善意のほのめかしが上手い作品。

「マニング氏の金のなる木」ロバート・アーサー(1966)
銀行横領で金を盗んだマニング氏は、捕まる前にある場所に金を隠し、出所後、それを取りに行くが……。
傑作。最初から最後まで綺麗につながっていて気持ちがいいです(ちょっとアメリカ臭強いけど)。オチの付け方も小気味良いですね。うん、楽しい話。

「二十五年目のクラス会」エドワード・D・ホック(1964)
レオポルド警部もの。25年ぶりのクラス会開催を機に、レオポルド警部は卒業前に起きた水死事件の捜査を始める。
はっきり言って文章が下手くそなホックが、なぜか上手いレオポルドシリーズ。感傷的な文章とそこそこのトリックのバランスが悪くありません。レオポルド警部ものの短編集『こちら殺人課!』がぜひとも欲しくなります(あれ珍しいから困っちゃうな)。

「拝啓、編集長様」クリスチアナ・ブランド(1968)
ブランドから編集長あての手紙に同封されていた気が狂った女による手紙(ややこしい)。
相変わらずエグい話を書くのですよ、この作家は(苦手)。しかしこの2人の関係はなんなんでしょう。
ブランドって現代に生きていたら新本格ブームに乗ってそうだな、と思いました。

「すばらしき誘拐」ボアロー、ナルスジャック(1970)
大金持ちの毛皮商ベルトンが、妻を誘拐されて喜ぶ話。
おフランスらしく小洒落た読みやすい作品で、きれいにまとまっています。ただ、警察がなんかいい加減だし、ベルトンの行動にも何となく不満が残るなど、ネタはいいのに若干物足りなさを感じますね。

「名探偵ガリレオ」シオドア・マシスン(1961)
アリストテレスの学説を否定したことで何者かの脅迫を受けるガリレオ。彼はそれに立ち向かおうとピサの斜塔で公開実験を試みるが、そこで不可能犯罪が……。
雰囲気も文章もトリックもほぼ(ダメな)ホック。期待せずにガリレオ探偵を楽しめばいいのかな。マシスンの過去の偉人名探偵物短編集『名探偵群像』がちょっと読みたくなりました。

「子守り」ルース・レンデル(1991)
ネルが子守りをしている子供ダニエルは車が大好きな子だった……
ってだから俺は子供が出てくる短編が苦手なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!(バンバン)
後半のいやらしさが上手いけど、ここで話を終わらせてしまうのはもったいない気もします。

「リノで途中下車」ジャック・フィニイ(1952)
ぎりぎりの資金を手に妻とシスコに向かう男が、うっかりカジノに入ってしまう話。
ギャンブル物ってはらはらし過ぎるから苦手なんだよなぁ。話はやや平凡で、夢がきらきらしたとことかフィニイっぽいけど、フィニイはもっとやれる子!って何の根拠もなく考えてました。第3短編集とか出せばいいと思うのよ、フィニイは。

「肝臓色の猫はいりませんか」ジェラルド・カーシュ(1946)
肝臓色の猫が居座り続ける話。
なんじゃこりゃ、死神? それよりこの短編の初出誌がどういう雑誌なのかが気になります。〈猫〉とかなんとか。

「十号船室の問題」ピーター・ラヴゼイ(2000)
ジャック・フットレルの乗るタイタニック号で、完全犯罪がもくろまれる。
歴史ミステリと船に強い作者の設定の勝利としか言いようがないですね、これ。トリックその他はほどほど、というかまぁどうでもいい感じ。映画の『タイタニック』も意識しているのでしょうか?

「ソフト・スポット」イアン・ランキン(2005)
刑務所の手紙検閲官デニスが、ある囚人あての手紙に嘘が書かれていることに気付く話。
非常にまとまりがよい短編で、純粋に質が高いですね。ひねりもきいているけど、それよりデニスのキャラクターがちょうど良いです。延原泰子さんによる訳がこれまたうまいんだなぁ。

「犬のゲーム」レジナルド・ヒル(2003)
パブで知り合った犬の飼い主仲間と、とあるゲームに戯れるパスコー。ある日、そのゲームの内容が問題となるような事件が起き……。
このアンソロって原則ノンシリーズから取るか、ちょっと外れたところから取る(レオポルドとか)と思っていただけに、ここでいきなり普通にシリーズが出て来たので驚きました。やっぱパスコーって読んでてイライラするので嫌いです。おめでたすぎます。本格短編としてはよく出来ているんだけど。

「フルーツセラー」ジョイス・キャロル・オーツ(2004)
シャノンは兄に呼ばれて亡くなった父の家に向かった。兄は電話口で13年前の少女行方不明事件をなぜかほのめかしているが……。
ぐぇぇやっぱおれはオーツ苦手。なんだってこんな酷い終わらせ方を思いつけるんですかこの人は。人間が怖いよ。

書 名:ミステリマガジン700【海外篇】(1943~2005)
編 者:杉江松恋
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 402-1
出版年:2014.04.25 1刷

評価★★★☆☆
厭な物語
『厭な物語』アガサ・クリスティー他(文春文庫)

誰にも好かれ、真っ当に生きている自分をさしおいて彼と結婚するなんて。クレアは村の富豪の心を射止めた美女ヴィヴィアンを憎悪していた。だがある日ヴィヴィアンの不貞の証拠が……。巨匠クリスティーが女性の闇を抉る「崖っぷち」他、人間の心の恐ろしさを描いて読む者をひきつける世界の名作を厳選したアンソロジー。夢も希望もなく、救いも光明もない11の物語。(本書あらすじより)

とあらすじにあったら、さぞかし厭な話ばっかりで気が滅入る(のを楽しむ)んだろうなぁと思うじゃないですか。
えー、今回分かったことですが、「厭」と分かって読む「厭な物語」は、はっきり言ってそんなに「厭」と感じないのでした。油断しているところに襲ってくるから「厭」に思う、ってことですね、そりゃそうだ。
そういうわけなので、はっきり言って自分はイヤミスなんて好きでも何でもないのですが、このアンソロジーに関してはそこまでうぇぇぇぇぇとなることなく読み終えられました。しかしそうなると逆に物足りないなぁと思ってしまうのもまた事実(いや嫌いなんだよ、本当だよ)。良アンソロジーだとは思うのですが、「厭」さを求めて読まない方がひょっとするといいのかもしれません(そもそも同趣向の短編ばかり集めたものって、読んでいて飽きないんですか、皆さん)。
なお、構成についてはなかなか面白いことをやっています。いいぞもっとやれ。

心臓が弱くイヤミスにビビる人間として、ベストにローレンス・ブロック「言えないわけ」を(情けない)。一番長いのに一番早く読めたような。次点にフラナリー・オコナー「善人はそういない」……いやこっちがベストかも。その次がウラジミール・ソローキン「シーズンの始まり」で。
何人かの作者については、ちゃんと短編集を読みたいな、と思わせられました。そういう点では、入門書として実に最適な一冊です。何しろシャーリイ・ジャクスン『くじ』すら未読でしたからね、あはは(笑えない)。

以下、個別の感想を超簡潔に。ちなみに既読作は「崖っぷち」「フェリシテ」「うしろをみるな」の3作のみです。


「崖っぷち」アガサ・クリスティー(1927)
あっ、この感じは懐かしい。結末の付け方がいかにもクリスティー短編らしいですね。

「すっぽん」パトリシア・ハイスミス(1970)
誰かの何かの話を思い出しそうなんだけど、思い出せません……。まぁ実に厭な話(そりゃそうだ)。

「フェリシテ」モーリス・ルヴェル
そんなに厭な話じゃないけど、やっぱり「厭」だからこれにしたんでしょうか。田中早苗訳は何回読んでも名文ですねぇ。美しい。しとしと雨の降るパリがぴったり来ます。また『夜鳥』読んでみようかな。

「ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウ」ジョー・R・ランズデール(1988)
不条理な暴力に満ちた厭な話。タイトルはカタカナに置き換えただけかと思ったらちょっと違いましたね。こういう単純に厭なのが一番苦手です。

「くじ」シャーリイ・ジャクスン(1948)
ぐぇぇぇ厭な話だ。異色作家短篇集臭がプンプンするぅ。

「シーズンの始まり」ウラジーミル・ソローキン
ロォォォォッッッッシア!!!(偏見) 読み終わった後のタイトルが一番厭に感じます。これは良作。

「判決 ある物語」フランツ・カフカ(1912)
…………????????

「赤」リチャード・クリスチャン・マシスン(1988)
「厭」ってのとはちょっと違うねぇ。こういう短い作品、嫌いじゃないです。しかしこのアンソロジー、「赤」を「ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウ」の後に読ませるんだぜ……すごい構成だ……。

「言えないわけ」ローレンス・ブロック(1998)
これ、「厭な物語」というより何か普通の短編じゃないですか(致命的なボキャ貧)。ぶっちゃけこういうのの方が好きなんだぁとつくづく思いました。

「善人はそういない」フラナリー・オコナリー(1953)
こういうスタイリッシュなユーモアは大好きなのです。

「うしろをみるな」フレドリック・ブラウン
前回読んだ時は居間で読んでしまったので、今回は確実にうしろを取られることのないお風呂の中で読みました(ドヤ顔)

書 名:厭な物語(1912~1998)
著 者:アガサ・クリスティー他
出版社:文藝春秋
    文春文庫 ク-17-1
出版年:2013.2.10 1刷

評価★★★☆☆
街中の男
『フランス・ミステリ傑作選1 街中の男』長島良三編

フランス・ミステリ短編のアンソロジー。非常に珍しいですね。あとがきによれば、刊行当時(1985年)世界で唯一の仏ミスアンソロジーだったそうです。ホンマかいな。
自分もこんな文庫が存在するとは知らなかったんですけど、ミス連の合宿で「フランス・ミステリが読みたい!」というと、皆さんいろいろ教えてくださって、まぁその中に入っていたわけですね。第二短編集もあるのですが、なぜかそっちはおすすめされなかったという(笑)

せっかくなので、その時おすすめされたフランス・ミステリをここにまとめてメモっておきましょうか。こんな感じです。

パスカル・レネ『三回殺して、さようなら』(創元)
フランス・ミステリ傑作選1『街中の男』(HM)
モーリス・ペリッセ『メリーゴーランドの誘惑』(ポケミス)
ユベール・メンテイエ『悪魔の舗道』(ポケミス)
ドミニック・ルーレ『寂しすぎるレディ』(ポケミス)
トニーノ・ベナキスタ『夜を喰らう』(HM)
ジャン・ヴォートラン『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』
A.D.G『病める巨犬たちの夜』『おれは暗黒小説だ』(ポケミス)
フランシス・リック『危険な道連れ』(ポケミス)
フレデリック・ダール『甦る旋律』『生きていたおまえ…』(文春文庫)


さて、で、この『街中の男』ですが、クライム・サスペンスからユーモアまで、多彩な短編が収録されており、誰もが絶対にどれかは気に入るのではないかと思います。収録されているメンバーもそうそうたる面子。ただまぁ、思ったよりおとなしめで、「うぉぉぅ!!」ってのは少ないかもしれません。所詮短編なので、長編ほどのインパクトが与えられない、ということなのかな?とはいえ、外れはほぼないので、ま、フランス風のおしゃれな文章に浸りたい人向けの、軽めの読み物といったところでしょうか。

以下、個別に感想を。マイベストは……じゃ、シムノン「街中の男」。次点はダール「悪い遺伝」かな。なお、発表年が解説に載っていません。調べて分かったものは記載しましたが、あっていないかもしれません。


「街中の男(L'homme dans la rue)」ジョルジュ・シムノン(1939)
メグレは5日間かけて疑わしい男を尾行する。住所を知られたくない男は家に戻れず、所持金は減るばかり……。
傑作選だからもちろん初っ端から傑作。この男とメグレのつかず離れずの関係が泣かせるんだなぁ。メグレが渋く、かっこいいです。シムノンらしい一編かと(シムノン1冊しか読んでいないけど)。

「犬(Le Chien)」ボアロー/ナルスジャック(1962)
四輪馬車を異様に怖がる館の巨犬の話。
真相がちょっと物足りないので、もっとホラー味を増した方が良かったかも。これだけではちょっと単調です(長いしね)。とは言え、ラスト1行の明るい残酷さは秀逸。デカくて獰猛な「犬」をこうキャラ付けするのって、案外珍しいかも。

「トンガリ山の穴奇譚(Le Mystere de Trou-du-pic)」カミ(1926発表短編集収録)
ルフォック・オルメス物。深夜のホテルに響き渡る艶声は誰の仕業か?
……という、実にしょうもないユーモアミステリ。正直、どうということのない真相(ちょっとギャグ成分足りない)なので、何も期待せず笑いを楽しむのが吉かと。出来はやや落ちる方かなぁ。

「見えない眼(Les yeux ?teints)」スタニスラス・A・ステーマン
盲人ホーム連続放火事件の真相とは。
わずか9ページであるせいか、特に何も感じないまま読み終わってしまいましたね……。非情な真実……を演出したかったようで、まぁ確かに痛ましい話なんだけど、「ふーん」となるだけのような。あと探偵役不要?

「七十万個の赤蕪(Les 0000 radis roses)」ピエール・ヴェリ(1937)
とある出版社に、七十万個の赤蕪の注文承りました、という手紙が野菜商から届く。ただの冗談かと思いきや、やがてとある事件が……。
こういうの良いですねぇ。非現実感漂う軽妙なクライムノベル。作者に自虐的なところがあって面白いです。

「羊頭狗肉(Tout etait faux)」フランシス・ディドロ
真っすぐな何もない道で起きた交通事故、その真相とは?
本格推理というより、皮肉な結末を楽しめる短編。程よいユーモアとさりげない感情描写により、ありきたりなオチに上手い味付けがなされています。タイトルの二重三重の意味が良いですね。

「悪い遺伝(Heredite chargee)」フレデリック・ダール(1958)
息子が殺人者になるというジプシーの占いを信じた素直過ぎる男は……。
4ページ。わずかこれだけですが、いやぁ、これは素晴らしいですよ。定められたレールを進むかのような展開と、予想通りかつそのちょっと斜め上を行く皮肉なオチ。息子の言葉が実に効果的です。

「壁の中の声(La voix dans le mur)」ミシェル・グリゾリア
湯舟に浸かっていた男は、壁の中から声が聞こえることに気付き……。
うん。うん。うん?ごめんなさい、さっぱり意味が分からないです……。えぇと、幻想小説的な何か(としか言えない)。

「つき(La main heureuse)」ルイ・C・トーマ(1958)
頼まれた分と合わせて2枚のくじを買ってきた男。
……ってあらすじだけでもう何か面白そうじゃないですかー。どうオチを付けるのかと思いきや……なるほどねー、上手いっ。これぞ「皮肉」の極み。あまりの運の悪さについついニヤッとしてしまいます。フランス人って、なんていやらしいんでしょうね(褒めてます)。

「殺人あ・ら・かると(Meurtre a la carte)」フランソワーズ・サガン
ヴェニスに来ている二組の夫婦。そのもつれた愛憎関係が……。
四人の設定が賢い……と最初は思ったんですが、この短編集の中でこのオチはやや肩透かしでしょうか。っていうかミステリじゃないですね。心情を書き込むには短すぎたかな、という印象。
この短編集のラスト2つ、サガンとモロワはミステリ作家ではなく文学作家で(寡聞にしてわたしゃ聞いたこともないんですけど)、ミステリ的な試みの作品を収録してみた、ってところらしいですが、うーん、まぁそんなもんでしょうか。

「自殺ホテル(Thanatos Palace Hotel)」アンドレ・モロワ(1960?)
株で全てを失った男のもとに、自殺を助けるという「自殺ホテル」からの手紙が……。
意外性はないものの、ストレートかつ捻くれた展開が非常に面白いですね。不必要に多い登場人物が案外上手に配置されています。何となくパーカー・パインっぽいような(ダークなパイン?)。サガンと比べて、こちらはきっちりミステリ仕立てかと。まぁタイトルからして楽しそうだけど。

書 名:フランス・ミステリ傑作選1 街中の男
編 者:長島良三
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 102-1
出版年:1985.4.30 1刷

評価★★★★☆
37の短篇
『37の短篇』石川喬司編(世界ミステリ全集)

というわけで、ついに読み終えたぞ『37の短篇』。2か月もかかっちゃったよゼイゼイ。何という達成感。褒めて褒めて。そしてこのブログ記事は過去最大だよ。

『37の短篇』は、1972~1973年にかけて早川書房が出した叢書〈世界ミステリ全集〉の最終巻、第18巻なのです。旧来叢書で扱われていた黄金時代の作品ではなく、主として戦後のミステリを中心に集めたという、極めてぶっとんだ全集だったわけですね。1965年に江戸川乱歩が亡くなっていた、というのがやはり大きなきっかけではないかと思います。たぶんね。
ところでこれ、TYにとって初・ミステリアンソロジーじゃないかと思うんですが。あ、いや、日本人作家のアンソロジーなら1つ読んだ記憶がありますが、海外はたぶん初めてです。アンソロジーってあんまり好きじゃないんだよね……主として、作家が多すぎてまとめきれなくなるからなんですが。

いや、しかし、この『37の短篇』、評判通りの素晴らしいアンソロジーです。よくもここまで多岐にわたるジャンルから傑作を集めたものだと。戦後のミステリの多様化を示したかったらしいですが、その試みは見事に成功していると言って良いと思います。大体において発表年代順に並んでいますが、これもまた案外効果的。ちなみに既読は7つでした。ということは、30の傑作を新しく読めるということです。わお。

これだけバラエティにあふれる短編集ですから、ベストを選ばせると人によって好みが違うんでしょうね。巻末に収録されている座談会(石川喬司、稲葉明雄、小鷹信光)では各自の好き嫌いがはっきり示されていてなかなか面白いです。というか、この座談会は戦後のミステリの紹介を考える上で非常に貴重な資料だと思います。これだけでも一読の価値アリ、かな。

この『37の短篇』ですが、2012年2月現在、ポケミスから2度にわたって部分復刊が行われています。『天外消失』(ポケミス1819)と『51番目の密室』(ポケミス1835)からそれぞれ14、12ずつ、合計26復刊されています。残りは容易に読めるということでしょうね。個人的好みからいえば、『天外消失』の方が収録作のレベルが更に高いです。


以下、個別に感想を。
この短編集の魅力は、バラエティ豊かな傑作短編を次々に読めること、だと思うんですよ。というわけで、あらすじを付けるのはやめました(断じてサボったわけではなく)。次はどんな話だろう、とワクワクしながら読んで欲しいですから。
なお、そのあらすじ代わりというか、各短編に付けられているテーマを、本書の通り< >で書いておきます。このテーマ、ポケミス版にはないようですが、なぜなんでしょうねぇ。面白い趣向だと思いますけど。
また、調べられた範囲で、タイトルに別バージョンがある場合はそちらも書いておきました。「北イタリア物語」とかね。発表年代は間違っている可能性大です。

マイベストは……なかなか決めるのが難しいですね。既読作品が既読じゃなかったらまた変わると思うんですが、ここではそれらを除いて、座談会に習って順不同で5つあげるなら、ブレット・ハリディ「死刑前夜」、ジョン・D・マクドナルド「懐旧病のビュイック」、クレイトン・ロースン「天外消失」、ジャック・フィニイ「死者のポケットの中には」、クリスチアナ・ブランド「ジェニミイ・クリケット事件」かな。ちなみに既読作品では、ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」、カーター・ディクスン「魔の森の家」、ロイ・ヴィカーズ「百万に一つの偶然」、ロアルド・ダール「おとなしい兇器」がスーパー傑作です。

〈追跡〉
「ジャングル探偵ターザン」エドガー・ライス・バロウズ
初っ端から、ワケの分からない作品です(笑)なんでいきなりターザンなんだよ!
正直、なぜこの中に入っているのかよく分かりません……。

〈人情〉
「死刑前夜」ブレット・ハリディ(1938)
傑作。ただただ傑作。
あぁもう、こういう人情物には弱いんだな、自分。読み終わって沸き上がる静かな意外性と感動が実に素晴らしいです。

〈ファンタジー〉
「虹をつかむ男 ――ウォルター・ミティの秘密の生活――」ジェイムズ・サーバー(1939)
【別題「ある秘密の生活」「ウォルター・ミティの秘められた生活」】
ジャック・フィニイの短編で似たような雰囲気のを読んだことがあったような。ファンタジーですね、うん(特にコメントがない)。

〈陥弄〉
「うぶな心が張り裂ける」クレイグ・ライス(1943)
【別題「胸が張り裂ける」】
マローン物の、割合真っ当な本格ミステリ。良く出来ていますが、変なのばかりなこの短編集ではちょっと地味かも。ラストのハッピー感は、ダメ男なマローンならでは、といった感じでしょうか。

〈張込み〉
「殺し屋」ジョルジュ・シムノン
【別題「殺し屋スタン」】
真相がそこまで意外だというわけではありませんが、やはり一捻りきいたオチが良く出来ていると思います。ラストもなかなか楽しいですし。メグレ警視がなんかやさぐれてる(笑)

〈ベッド・ディティクティヴ〉
「エメラルド色の空」エリック・アンブラー(1945)
決め手は……うぅん、ちょっとイマイチだったのではないでしょうか。あまりに専門的知識を要求しているように思います。素人嫌いな警察官の元に、その上司から推薦された素人探偵がやって来て御高説を垂れる、という展開は好みですが。

〈歴史〉
「燕京綺譚」ヘレン・マクロイ(1946)
【別題「東洋趣味〈シノワズリ〉」「北京綺譚」 】
今にもディー判事が出そうなほどリアルな中国の事件ですが、時代はおそらく19世紀後半でしょう。かなり裏を読んだプロットで、舞台こそ変わっていますが、やはりマクロイらしい作品かな、と。
日本人が出て来て、キャラとしてはかなりリアルだと思うんですが、名前が「キアダ」ってのはいかがなものか(笑)何だって海外の小説の日本人は変な名前なんでしょう。チャーリー・チャンに出て来る「カシマ」は、まだ漢字変換出来るだけマシです。タンタンの「ミツヒラト」なんかどこで切るんだか。
訳者の田中西二郎による付記の方が興味深いです。マクロイやるなぁ。

〈狂気〉
「後ろを見るな」フレドリック・ブラウン(1947)
こわっ!
結局、読み終わって後ろを見てしまいました。読んでいる読者の、いやいや、所詮小説っしょ、と思っている余裕を片っ端から叩き潰していく最後の畳み掛けがとんでもないです。ま、我々は日本人なので、さすがにそこまで危険性を感じるわけではないでしょうが、当時雑誌でこれを読んだ人はかなり恐怖したのでは。

〈トリック〉
「天外消失」クレイトン・ロースン(1949)
傑作。これぞ本格ミステリです。
トリックの完成度がハンパないです。しかもトリックは表裏合わせて2本立て。豪華ですねぇ。遊びもきいていて大変良いです。

〈論理〉
「九マイルは遠すぎる」ハリイ・ケメルマン(1947)
【別題「九マイルの歩行」】
再読。やはり何度読んでもいいものです。

〈密室A〉
「魔の森の家」カーター・ディクスン(1947)
【別題「妖魔の森の家」】
再読。世界中の本格短編の中でも1、2を争う出来でしょう。
ただ、創元の訳の方がだいぶ良いように思います。こちらは江戸川乱歩訳で、解説によると、下訳が100%あったはずだとか、かなりうさん臭いようです(笑)

〈完全犯罪〉
「この手で人を殺してから」 アーサー・ウイリアムズ(1948)
【別題「完全犯罪」】
南米からEQに送られて来た短編だ……というのが何とも意味深ですね。
これ、解説ではかなり高く評価されていますが、この短編集には似た感じのもっと有名な作品が入っているわけで、そちらを読んだことのある身としては、それほどインパクトはないように思います。

〈陰謀〉
「北イタリア物語」トマス・フラナガン(1949)
【別題「玉を懐いて罪あり」】
再読。訳注の位置が『アデスタに吹く冷たい風』に収録されているものとちょっと違いますが、どう考えてもこちらの方が良いと思います。というのも、訳注がちょっとネタバレ気味ですので。
しかし、やっぱり日本人にはちょっと向いていない驚きのラストですね。

〈不在証明〉
「百万に一つの偶然」ロイ・ヴィカーズ(1949)
再読。かなり面白い傑作です。
迷宮課の短編集は2つ読んだことがありますが、その中で「百万~」は断トツの出来ではないかと常々思っています。初読時のラストの驚き(な、ナルホドー!)が忘れられません。

〈アンファン・テリブル〉
「少年の意志」Q・パトリック(1950)
うわぁ、こういうの苦手だ……。
パトQの作品は初めて読んだわけですが、やはり嫌らしい人間を書くのにめちゃくちゃ長けているようです。ラストのあの不快な感じが……。

〈捜査〉
「懐郷病のビュイック」ジョン・D・マクドナルド(1950)
傑作。やー、もう大好き。
決め手が素晴らしいというのもありますが、つまるところ、町でアホだと思われていた少年のIQが実はめっちゃ高くて、みたいなストーリーがもうなんか無条件に好き。仰々しく語られるユーモラスな文章も最高です。例えば、

「……(犯人を追いかけようと)十九歳になる双児のスタイン兄弟が、オンボロ部品を集めて作ったポンコツ自動車で器用にそれを除けて時速八十マイルまで出して走ったが、とうとうそいつにひっかかって、車は十回ばかりも転回し、二人は即死してしまった。(中略)いずれは刑務所行きの町の屑といわれていた双児のスタイン兄弟も、一躍生粋のテキサスっ子だったということになってしまった。」
登場したばかりの二人を躊躇なく退場させてしまう作者(笑)

「全部座席のマットの上に、ひからびた全麦パンの大きなパンのかけらが見つかった。さすがのスターンワイスターも、これにはあまり期待しなかったが、とにかく鑑識はそれから、このパンがレバー・ペイストをつけて食べたものだと報告してきた。」
いやもうキリがないからやめますが。

〈密室B〉
「五十一番目の密室」 ロバート・アーサー(1951)
密室トリックも面白いですが、それよりはこのメタ的な雰囲気を楽しむべき作品でしょうか。解説の方々はこれが大好きらしいです。ふーん。

〈ブラック・ユーモア〉
「ラヴデイ氏の短い休暇」イーヴリン・ウォー(1951)
【別題「ラヴディ氏のささやかな外出」「ラヴデイ氏の短い外出」】
まさにブラックユーモア。読んでいて、薄々結末が見えるのが何とも皮肉です。どうせ何事もなかったかのように通常の生活に戻ってしまうんでしょうねぇ。

〈幽霊探偵〉
「探偵作家は天国へ行ける」C・B・ギルフォード(1953)
アホ臭いですが、何か好きですね、これ。性格良さ気だった主人公が意外に性悪なのもグッド。ミカエルさんが出しゃばりすぎてて笑えます。しかし、やっぱりやり直さなかったら犯人は分からなかったんじゃあ……。

〈怪奇〉
「燈台」E・A・ポー&ロバート・ブロック(1953)
まさにポー。作者名がダブルなのは遺稿をブロックが完成させたからですが、それでもポー。
怪奇小説ってこんなんばっかりですが、あんまり好きになれません。

〈リドル・ストーリイ〉
「女か虎か」フランク・R・ストックトン(1882)
【別題「女か、それともトラか」】
かの有名なリドル・ストーリーです。単にランダムな結末を見せる話だと思っていたら、意外に人間心理に踏み込んだ結末でした。今まで読んだリドル・ストーリーと言うと、スタンリイ・エリン「決断の時」しか思い出せないんですが、やはり元祖は強いです。

〈奇妙な味〉
「おとなしい兇器」ロアルド・ダール(1953)
再読。やはりダールの作品の中で群を抜いた出来栄えでしょう。ラスト1行を入れたのは実に効果的。

〈恐怖〉
「長距離電話」リチャード・マシスン(1953)
【別題「遠い電話」】
刻一刻と高まるホラーが何とも、ね。取らずにはいられないという恐ろしさがよく書けています。

〈非行少年〉
「歩道に血を流して」エヴァン・ハンター(1957)
マンハントを代表して入れられた短編だそうです。ハードボイルド調の文体と少年の心情が絶妙に融合した佳作じゃないでしょうか。最後の、何とも言えない寂しさがまた良いじゃないですか。

〈意外な結末〉
「死刑執行の日」ヘンリイ・スレッサー
【別題「処刑の日」】
<意外な結末>と銘打たれていますが、うぅん、どうなんでしょう、結構予想の範囲内なのでは。奥さんの行動もイマイチ良く分からないし。悪くない短編だとは思うんですが。

〈サスペンス〉
「死者のポケットの中には」ジャック・フィニイ(1956)
【別題「死人のポケットの中には」】
傑作。上手いなぁ、ジャック・フィニイ。こんなサスペンスを書ける作家は滅多にいないでしょう。
彼の長編は1つだけ読みましたが、それと共通する、独特な雰囲気(特に読後感)があるように思います。これがあるから良いんだよなぁ。サスペンスはあまり得意ではないですが、本作品はハラハラしながら、非常に面白く読みました。

〈マンハント〉
「白いカーペットの上のごほうび」アル・ジェイムズ(1957)
【別題「ごほうびはベッドであげる」】
同じくマンハントを代表して入れられた短編だそうです。選んだ小鷹信光さんが「いちばん趣味の悪い作品」だと言っていますが……うぅん、ま、分からないでもないですね。確かにあまりに捻りがないし、俗っぽすぎるというか。ストーリーもなにもないですし。

〈SF〉
「火星のダイヤモンド」 ポール・アンダースン(1958)
SFミステリです。SF設定が事件やトリックのカギとなるタイプですね。ちなみに登場する日本人の名前はヤマガタ……おぉ、珍しく普通。
事件もその解決も、舞台が火星でありながらいかにもシャーロック・ホームズ風なところが面白いです。それにしても、火星人の風貌が悪趣味な気が……え、SFってみんなこんな感じ?

〈クライム〉
「ヨット・クラブ」 デイヴィッド・イーリイ(1962)
佳作。これは良いですね。まさに……というか、一風変わったクライム・ストーリー。スタンリイ・エリンに何となく空気が似ている……ような。まぁそんなにエリンは読んでないですけど。
主人公がだんだん変化していく描写に無理がありません。そのためラストがファンタジックなのにも関わらず、いかにも自然に見えてしまうというのが恐ろしいです。

〈詐欺師〉
「クライム・マシン」ジャック・リッチー(1961)
【別題「犯罪機械」】
再読。「火星のダイヤモンド」の2つ後に置くというのは、編集部の策略か?(笑)晶文社ミステリ(または河出書房文庫)から出ているのは好野理恵訳ですが、こちらは丸本聰明訳です。リッチーの代表作にあげられることが多い作品で、確かに傑作だと思いますが、個人的にはこれはベストではありません。有名所では、例えば「エミリーがいない」の方が、リッチーらしくて好き。まぁこれは好みの問題かな。
ジャック・リッチーの短編は、数はあるんだから、良作でも駄作でもいいからもっと訳してほしいです。

〈証拠〉
「一滴の血」コーネル・ウールリッチ(1962)
「迷宮課」風、でしょうか。確かにこれは盲点でした。
……という感想以外に何を書けと。

〈密室C〉
「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」ウイリアム・ブルテン(1965)
何とも皮肉かつ気の毒な結末。個人的には上手くいって欲しかっただけに、このオチには、ま、ある種がっかりしたというか(笑)というより、こういう皮肉系はちょっと苦手。確かに、上手くいけば、到底見破られる心配のないトリックだと思うのですが。

〈犯人消失〉
「最後で最高の密室」スティーヴン・バー(1965)
まさかの密室二連続。いくらなんでも燃え尽きはしないんじゃ……いや、突っ込むだけ無駄か。原題(The Locked Room to End the Locked Room)を考えると、邦題はちょっと趣旨が違ってしまう気がします。特に「最高」の部分が。

〈パロディ〉
「アスコット・タイ事件」 ロバート・L・フィッシュ(1960)
再読。正直、めちゃめちゃ分かりにくいこの作品を選んだのは失敗じゃなかろーかと。少なくとも自分は、短編集で読んだ時は、訳した深町眞理子さんの解説(だったかな)を読まなきゃわかりませんでした。
……とケチをつけながらも、やっぱりシュロック・ホームズは大好きなんですけどね。「ワトニイ博士の前でもご遠慮なくお話しください。いたって耳が遠いほうですから」。爆笑。
短編集『シュロック・ホームズの冒険』は、傑作です。それこそ爆笑物です。まとめて読む方が面白いですよ。『~の回想』は確か積ん読だったから、早く読まないと……。

〈妄執〉
「選ばれた者」リース・デイヴィス(1966)
この話、好き嫌い以前に、なんかものっすごく退屈でした。最後まで読んでも「だから?」という。凡作のような気がするのですが、なんで37の中に、それこそ「選ばれた」のか。
……と思っていたら、この作品、難解なことでとっても有名なんだとか。小森収「短編ミステリ読みかえ史」の第20回に解説が出ていますが、うぅん、なるほど、そういう楽しみ方をしなきゃいけないのね。
続く「長方形の部屋」と言い、この頃のアメリカは実に病んでる感があります。

〈動機〉
「長方形の部屋」エドワード・D・ホック〈1967〉
うぅん……タイブじゃないです。ホックらしくない良作だとは思いますが、この空虚感はちょっと苦手。

〈?〉
「ジェミニイ・クリケット事件」クリスチアナ・ブランド(1968)
非常に有名な短編を、ついに読みましたが……いやはや、これは確かに傑作です。
『毒チョコ』のような多重解決物でもあるんですね。この点は、容疑者同士での推理合戦を得意とするブランドらしいところかもしれません。
最後の解答が、密室トリックを成立させるものとして一番出来が良いわけではないでしょう。しかし、この読後感には何とも言えない魅力がありますね。ラストには別バージョンがあるらしいけど、うぅむ、どうなってるというんだ。

〈座談会〉短篇の魅力について
これも一読の価値あり。

書 名:37の短篇(傑作短篇集)
編 者:石川喬司
出版社:早川書房
    世界ミステリ全集 18
出版年:1973.6.30 初版

評価★★★★★