窓から逃げた100歳老人
『窓から逃げた100歳老人』ヨナス・ヨナソン(西村書店)

お祝いなんてまっぴらごめん! 100歳の誕生日パーティの当日、アラン・カールソンは老人ホームの窓から逃走した。ひょんなことからギャング団の大金を奪ってしまい、アランの追っ手は増えていく。けれども、当の本人はなるようになるさとどこ吹く風。それもそのはず、アランは爆弾つくりの専門家として、フランコ将軍やトルーマン、スターリン、毛沢東ら各国要人と渡り合い、数々の修羅場をくぐり抜けてきた過去の持ち主だったのだ。20世紀の歴史的事件の陰にアランあり! 過去と現在が交錯するなか、次々展開するハチャメチャ老人の笑撃・爆弾コメディ、日本初上陸!(本書あらすじより)

この作品、なんかあちこちで売れてるみたいで、書店でもよく展開されていますよね。こないだベスト10を発表しましたが、これは惜しくも漏れた作品です。12位くらい。去年読んだユーモアで一番面白かったのがこれで、去年読んだブラックユーモアで一番おもしろかったのが『救いようがない』かなー。
とうわけで、2014年のベストユーモア&ほら話。パワフルな100歳老人の身に降りかかるごたごたとその壮絶な過去が、とびっきり軽快でユーモラスな口調で語られ続ける400ページ。おまけにちょっぴり世界を皮肉っても見せます。これは面白いぞー。

100歳記念パーティー(市長も来る)にうんざりしたアランは老人ホームから脱走。道中でギャングのスーツケースを出来心で盗んでしまったからさぁ大変。あちこちから追われる身になったアランは、しかし何ら悪びれもせず、出会った変人とともに逃避行に出るのでありました。

とにかくこのアランがパワフル過ぎます。どれくらいパワフルかと言うと、えーとネタバレかな、でも言っちゃうぞ、追っ手のギャングを平気で殺しちゃうくらいなのです。増えていく旅の仲間も変人揃い。なんですかこの危ない一行は。じじいが一番危険人物じゃないですか。
合間合間に(というかだんだんこっちがメインに)アランの過去100年が語られていきますが、これがさらにすごいのです。20世紀の歴史の陰にアランあり。天下一品の起爆の才能を持つアランはあっちゃこっちゃで重宝され、20世紀史の重要人物と片っ端から出会っていくのです。
何しろいきなりスペインではフランコ将軍の命を救い、アメリカではハリー大統領と飲み仲間になり、ってのが延々と死ぬまで続くんですよ。もうなんか一切リアリティがないというか、そんなわけないじゃないですか。もちろんほら話。でもこのほら話が途方もなく面白いのです。ノンポリ男は今日も政治に興味なし! ウオツカが命!
アランの周りの人間は政治的に重要人物であるからして右翼左翼西側東側と色々な政治的信条にお堅い人たちなんだけど、アランはガチで興味ないので、酒さえ飲めればどこにでもいっちゃいます。という感じで政治思想を皮肉ってもいるんだけど、そんなこと気にしなくても面白いですよ。あくまでこういう皮肉はおまけ。

ある意味この展開が400ページ何の山もなく続いていくのでダレないとは言えませんが、それでも読み終わると、あぁこれで終わっちゃうのかー、と名残惜しくなるくらいには楽しい読書体験ができます。翻訳も見事に笑わせてくれるし、相性ぴったり。ユーモア小説好きはぜひお読みくださいませ。

書 名:窓から逃げた100歳老人(2009)
著 者:ヨナス・ヨナソン
訳 者:柳瀬尚紀
出版社:西村書店
出版年:2014.07.06 初版

評価★★★★☆
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『ママは何でも知っている』ジェイムズ・ヤッフェ(ハヤカワポケミス)

金曜日の夜は、ブロンクスのママの家で開かれる週に一度の夕食会。集まるのは殺人課の刑事である息子のデイビッドと妻のシャーリイ、それにママの三人だけ。でもデイビッドにとっては貴重な夜だ。すばらしい料理にまして、ママの助言は聞き逃すことができない。警察を何週間もきりきりまいさせている難事件を、ママはいとも鮮やかに解決してしまうのだ。ママに言わせれば、殺人犯人を突き止めることなど児戯にひとしい。今夜の事件は…?(本書あらすじより)

図書館には、ヤッフェの長編は全部そろっているんですが、なぜかこいつだけないので買いました。ぶっちゃけた話、こんなにおもしろい短編集は初めてです。全話基本の流れがあり、①デイビッド事件の説明②ママが2,3の質問をする③ママが謎解きをする、となっています。そして読者は、②と③の間に一生懸命に頭を使えば、事件を解決出来るにちがいありません(僕はダメだったけど)。パズル的な面白さに加え、食卓の会話のユーモラスさ、ママを結婚させようとする息子夫婦のたくらみもろもろ、などなどくすりと笑わせる要素がたっぷりつまっており、一つ一つが傑作に仕上がっています。

1 ママは何でも知っている
やや単調です。事件構成自体は一番こっているのですが、いかんせん、短編のママはいかにコンパクトかが大事です。もっとも、この短編が、ママシリーズの醍醐味を全て表しているともいえるわけです。

2 ママは賭ける

やや難しい事件ですね。読者が解決することは出来ないかもしれません。アービングに犯行は無理、ってことぐらい、警察は気づいてもいいんじゃないか?

3 ママの春

初登場ミルナー警部が半端なくいい味出してます。こういう、ママの個性についていけるようなキャラが出るのは読んでいて楽しいですよね。事件自体も申し分ないです。

4 ママが泣いた (Mom Sheds a Tear)

まぁ容疑者はほとんどいませんしね。当然と言えば当然の答えです。

5 ママは祈る (Mom Makes a Wish)

きちんとした論理の組み立て、完璧です。ミステリとはこうあるべきもの、って感じですね。

6 ママ、アリアを唄う (Mom Sings an Aria)

少々読みにくい話です。オペラ知識がないと、解決はちと無理かもしれません。

7 ママと呪いのミンクコート (Mom and the Haunted Mink)

かなり読みやすい、面白い話でした。海外ミステリでは、霊媒とかを扱ったものが多い(クリスティの短編とか)ですが、うまく利用して作られています。

8 ママは憶えている (Mom Remembers)

ちょっと単調でしょうか……。2つの事件をつなげるという発想はいいんですが、その必要もなかったんじゃないでしょうか。過去の事件はかなり楽しめます。

書 名:ママは何でも知っている
著 者:ジェイムズ・ヤッフェ
     ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1287
発 行:1977.7.31 初版
     2003.7.15 9版

評価★★★★☆