野獣死すべし
『野獣死すべし』ニコラス・ブレイク(ハヤカワ・ミステリ文庫)

推理小説家のフィリクス・レインは、最愛の息子マーティンを自動車のひき逃げ事故で失った。警察の必死の捜査にもかかわらず、その車の行方は知れず、半年がむなしく過ぎた。このうえは、なんとしても独力で犯人を探し出さなくてはならない。フィリクスは見えざる犯人に復讐を誓った!優れた心理描写と殺人の鋭い内面研究によって屈指の名作と評される、英国の桂冠詩人C・D・ルイスがブレイク名義で発表した本格傑作(本書あらすじより)


ニコラス・ブレイクの代表作です。ブレイクは……えぇと、この間『ワンダーランドの悪意』を読んだっきりなわけですけど、まぁあれはブレイクの中では大外れらしいですからねぇ。大いに期待して読み始めたわけです。

結論から言えば、こりゃあもうミステリファンなら必読だと思います。噂に違わずめちゃくちゃ面白い、心理描写に優れた傑作本格ミステリ。犯罪小説風ですが、あくまで本格ミステリなんですね。絶版とか信じられないですねホント何やってんですか。
物語の展開が読者の予想を良い意味でちょいちょい裏切ってくれ、本格物としては第一級。某作家の某作品をちらつかせる加減がまた上手いです。とは言え、この作品を「本格ミステリ」の枠に入れてしまうのは、あまりに狭小というか、もったいないというか。一種の犯罪小説であることは間違いなく、それが本格と結びつき、絶妙な仕上がりとなっています。前半では犯罪者の心理を克明に描き出し、後半ではもつれた人間関係を魅力的な人物描写で見せ付けるブレイクさん、カッコイイですねぇ。
ラストの展開もまた予想を裏切って来るんですが、これがまた美しいんだなぁ。読み終わってから旧版の表紙を見ると……うぅ、泣けますね。


と、ベタ褒めです。実際、めちゃくちゃ面白かったんですよ。……しかし。
『ホッグ連続殺人』読了後と似ているんですが、どうもねぇ、期待しすぎたような気がするのです。つまり、よく出来た本格ミステリで、心理描写にも長けているし、最後にひとひねりしてあるしで文句なしなのですけど、読後、「あー面白かった……あ、終わり?」みたいな感想を持ってしまうわけで。いや面白いんだよ、ホントに(クドクド)。

こういった感想を持つ原因は、まず第一部「フィリクス・レインの日記」があまりに面白すぎる、というのがあるのではないかと思います。竜頭蛇尾とかいうわけでは全然ないのですが、この第一部がとにかく本書のハイライトであることは間違いないですね。その後は三人称描写で進行するため、どっちかというと普通になってしまいます。
さらに言えば、ちょっとネタバレっぽくなるのですが、本格ミステリとしての『野獣死すべし』はフーダニットではなく○○ダニットがメインだ、というのもあるのではないでしょうか。フーだと思って読んでいると、ある意味あっけないのです。期待の方向性がちょっとずれてしまったというのかな。現代のミステリ読みであればなおさらそうかもしれません。

とグダグダグダグダ言いましたけど、傑作であることは間違いないので、未読の方、古本屋さんで見つけ出して読んだほうがいいですよ、これは。ブレイク、今度は『死の殻』を読んでみたいですね。図書館にあるし。『メリー・ウィドウの航海』とかも読みたいんですけど、ブレイクは古書価は全体的に高いから……。

書 名:野獣死すべし(1938)
著 者:ニコラス・ブレイク
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 17-1
出版年:1976.4.30 1刷

評価★★★★☆
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ワンダーランドの悪意
『ワンダーランドの悪意』ニコラス・ブレイク(論創海外ミステリ)

「諸君、マッド・ハッターに気をつけろ!」ダンスホールに響き渡ったこの声が奇妙な事件の幕開けだった。休暇用キャンプ〈ワンダーランド〉で次々と起こるいたずら。テニスボールに糖蜜がかけられ、ベッドに動物の死骸が置かれ……。『不思議の国のアリス』の登場人物いかれ帽子屋(マッド・ハッター)を名乗る犯人の正体とは、そしてその目的とは。英国ミステリ界の巨匠ニコラス・ブレイクの初訳長編。(本書あらすじより)

『骨と髪』に続いて単行本です。こういう本を読むには、お財布の尊厳を守るためにも、図書館の協力が必要不可欠。地元の図書館様、いつもお世話になっております。ちなみに論創海外ミステリはドナルド・E・ウェストレイク『忙しい死体』しか読んだことがありません(あれは面白かったなー)。やっぱり単行本にはなかなか手が回らない……。

というわけで、初ニコラス・ブレイクです。代表作『野獣死すべし』は相変わらず無駄に値段が高騰していますが、この間170円で初版をゲットしたので、いずれ読みます。いずれ、ね。

というわけで、かなりの期待を持って読み始めたんですが……。うぅん……。

いえ、面白いんです。決してつまらないということはないし、最後まで楽しんで読めました。〈ワンダーランド〉というファンタジックな舞台はなかなか素晴らしいと思います。そもそも『不思議の国のアリス』の大ファンとしては、もうこの"Malice in Wonderland"というタイトルの時点で魅力的なことこの上ないです。あ、でも、個人的には、『不思議の国のアリス』より『鏡の国のアリス』の方が好きですけど。いや、そういう話じゃなくて。

ただ……いくら舞台が魅力的で、勃発する事件のみみっちさが面白くても、やっぱり長編を持たせるだけの力が、そもそもネタとして難しかったんじゃないかなぁと思います。要はパンチが弱いというか。最初のうちは「いたずら」が面白いんですが、中盤はかなりダレた感があります。
後半になると、特にシリーズ探偵ナイジェル・ストレンジウェイズが登場してからは、ちょっと持ち直します。ラストの方では急に緊張感も上がって来ますし。ただ、今度は真相がイマイチというか。いえ、これは真相がイマイチなのではなく、その見せ方に問題があったんじゃないかと思います。せめてもうひとひねりあるよね、と読者に期待させてしまうのはちょっと酷かな、と。

ついでに、話と並行するようにして、とあるラブロマンスが進行します。このラブロマンス、意外に重要な要素となっていくのですが、このポールとサリーが……前半では、何というか、その、軽くウザい(笑)どっちもツンデレで……あぁもうイライラするっ!性格悪いだろおまえらっ!と何度突っ込んだことか。

というわけで、あと一歩でかなり面白い作品に仕上がっていただろうに、ちょっと惜しいなぁというところ。人が死なないゆるゆる系ミステリ好きにはオススメかもしれません。

書 名:ワンダーランドの悪意(1940)
著 者:ニコラス・ブレイク
出版社:論創社
    論創海外ミステリ 96
出版年:2011.11.25

評価★★★☆☆