ハイキャッスル屋敷の死
『ハイキャッスル屋敷の死』レオ・ブルース(扶桑社ミステリー)

キャロラス・ディーンはゴリンジャー校長から直々に事件捜査の依頼を受ける。校長の友人である貴族のロード・ペンジが謎の脅迫者に命を狙われているというのだ。さ らに数日後の夜、ロード・ペンジの住むハイキャッスル屋敷で、主人のオーバーを着て森を歩いていた秘書が射殺される事件が発生。不承不承、現地に赴くキャロラスだ ったが……捜査の進捗につれて次第に懊悩 を深める探偵がやがて指摘する事件の驚く べき真相とは? 英国本格の巨匠による円熟期の傑作ここに登場!(本書あらすじより)

最近クラシック・ミステリの感想が少ないなぁとご不満だった方、お待たせいたしました。レオ・ブルースの登場です。
そして、いやー面白かったですね。なぜか分からないけど読んでいてめっちゃ面白かったです(3時間ガストに引きこもって読んでいました)。最近本格ミステリらしい本格ミステリを読んでいなかったからかな。

ゴリンジャー校長の友人、ロード・ペンジのもとに次々と脅迫状が送られ、ついにペンジの秘書が射殺されます。ペンジの身を守るため、乗り気ではないものの渋々と屋敷に乗り込んだディーンは犯人探しを始めるのですが……。

いつものキャロラス・ディーンシリーズと違って、ユーモアが(比較的)少なめなのが大きな特徴です。というのも、ディーンの漫才仲間であるレギュラーキャラクターが今作ではほとんど登場しないのです。さらにディーンが殺人事件を解決するため屋敷に泊まり込むということもあり、動きも少なめです。とはいっても、空気感とかキャラクターとか会話とか、いつものレオ・ブルースなんですけどね。屋敷の中に不快な人間がほとんどいないというのが、英国ミステリとしては珍しいです。

『死の扉』と同様に構図が見えてしまうと真相バレバレという、いつもの弱点はあります。ただ、屋敷内でディーンが色々がんばるというか暗躍するというシチュエーションが純粋に楽しいし、展開こそ平坦でもキャラクターでむりやり読ませるあたり、いけー英国本格ぅぅぅー、な感じで大変良いのです。解決が近付くにつれ、屋敷内の雰囲気が穏やかじゃなくなってくあたりの描写も上手いですね。
実を言うと、『死の扉』とか『ハイキャッスル屋敷の死』の真相パターン(全然違いますよ、もちろん)って、別の作品で知ってしまうと二度目は楽しめないということもあってあんまり好きじゃないんですよ(自分は黄金時代の某作と某作で最初にこの真相を読んで、それはもうぶったまげました)。ただ、『ハイキャッスル』は比較的頑張っているというか、むしろこの手の趣向としては行き着くところまで行き着いちゃった感じがあるので好意的になれます。これはいわゆる「名探偵」ミステリの一種としても位置付けられるんだろうなぁ。

というわけでかなり満足ですが、やっぱりキャロラス・ディーンシリーズって『骨と髪』が一番面白かった気がします。それよりビーフ巡査部長シリーズにそろそろ手を付けなきゃいけないと……単行本なんだよな……。

原 題:A Louse for the Hangman(1958)
書 名:ハイキャッスル屋敷の死
著 者:レオ・ブルース Leo Bruce
訳 者:小林晋
出版社:扶桑社
     扶桑社ミステリー フ-42-2
出版年:2016.09.10 初版

評価★★★★☆
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ミンコット荘に死す
『ミンコット荘に死す』レオ・ブルース(扶桑社ミステリー)

十一月の深夜、歴史教師のキャロラスはミンコット荘のレディー・マーガレット・ピップフォードから電話を受ける。娘婿のダリルが銃で自殺したらしい、至急来てくれないかというのだ。早速かけつけたキャロラスは、ベッドの上に血まみれで横たわるダリルの遺体と対面する。警察は自殺と判断するが、そう考えるにはいくつか不可解な点があることにキャロラスは気づいていた……。名探偵キャロラス・ディーン再び登場。緻密な細部と大胆なトリック。これぞ英国本格の真骨頂!(本書あらすじより)

英国新本格の代表格の一人、レオ・ブルースの作品がなんと新しく訳されました(正確に言うと違うんだけどとりあえず公的な出版物としてはそう)。うーん、いい時代です。
ミンコット荘での”自殺”の調査を、キャロラス・ディーンが個人的に頼まれます。古き良き英国本格ミステリらしい、シリアスを排し程よいユーモアを前面に出したこじんまりとした作品で、シンプルだけど非常によく出来た謎解きには好感が持てます。これぞ英国本格。えげれすみすてりです。

怪しい自殺の調査にレディ・ピップフォードの家に赴いた歴史教師キャロラスは、いくつかの不審なものを目にします。死の状況を捜査していくうちに、やがて第二の事件が……。
事件の捜査過程自体は単調な聞き込みにやや陥っているのですが(登場人物数が少なくないので聞いて回るだけで時間がかかっちゃうんだよね)、合間合間に事件を起こすことでそこまでだれずに済んでいます。登場人物もやたらと多いのですが、英国的戯画キャラを多用しているので、すんなり覚えられるし、楽しいですね。やたらと夫の発言をフォローする牧師さんの奥さんとかいいよね。
肝心のトリックは、どこかで見覚えあるようなものではありますが、そこに目線をいかせまいとするのが上手くやっています。犯人が指摘された瞬間、なるほどやられたな、という感じ。もっとディーンは手の打ちようがあったんじゃねとか思いますが言ってはいけません。

というわけで全体的に良作だと思います。『死の扉』の方が全体的な出来はいいかもしれませんが、『死の扉』より好きかもしれません。うーん、レオ・ブルース読まないと。

書 名:ミンコット荘に死す(1956)
著 者:レオ・ブルース
出版社:扶桑社
     扶桑社ミステリー フ-42-1
出版年:2014.10.10 初版

評価★★★★☆
死の扉
『死の扉』レオ・ブルース(創元推理文庫)

英国のとある小間物屋で深夜、二重殺人が発生。店主のエミリーと、巡回中のスラッパー巡査が犠牲となった。町にあるパブリック・スクールで歴史教師をするキャロラスは、生意気な教え子プリグリーに焚きつけられて、事件を調べることに。嫌われ者だったエミリーのせいで容疑者には事欠かないが……素人探偵の推理やいかに?イギリス屈指の名探偵、キャロラス・ディーン初登場作。(本書あらすじより)

ついに復刊されましたねー。訳された小林晋さんは、今後もシリーズ作品の翻訳を続けてくれるようです。おぉ、楽しみ楽しみ。

で、感想ですが……うぅん、とりあえず最初に言っておきますが、読んでいてとっても楽しめる作品であることは間違いないです。というか、普通に面白いです。ほのぼのとしたユーモアにはクスクス・爆笑しっぱなし(ゴリンジャー校長の耳ネタとか面白過ぎる)。伏線を張りまくったトリックの質・独創性もかなりのもので、真相が明かされた瞬間、おぉっ、となったものです。
さらにミステリオタクなご老人の語りが面白いこと。この人に、最後、あのセリフを吐かせたブルースには脱帽です。『骨と髪』でも感じましたが、レオ・ブルースは割と事件に納得のいく真相を探偵が提示した時点で満足してしまう節があり、証拠固めをきっちりとはしない人です。状況証拠に頼りまくりで、いまいち決定的要因がない。老人のセリフは、いわばそれを逆手に取ったような感じでしょうか。うぅむ、なるほど。ずるい(笑)
というわけで、英国古典ミステリ好きであれば、こりゃもう読むしかないでしょう。

なんですが……随所で言われるように手放しで「傑作」だと褒められるかというと、個人的にはちょっと違うかなぁという気がしています。それはなぜなのか。
証拠が少ないから,ではありません。ま、それもありますが、問題となるのは事件の現実性です。ネタバレを避けながら書くのは非常に難しいんですが、実現可能かどうかというよりは、これがリアルかどうか、という話。もし自分が犯人であれば、こういう犯行を行わなかった、はずですよね、やっぱり。
とかくと、えぇと何と言うか、そこを突くのはおかしいだろう、という文句が出るはずです。そもそも『死の扉』は、クリスピンの作品のように、「探偵小説」であることをパロディ化したような側面がもともとあるわけです。ということは、小説上の出来事であることを、ある意味大前提として書かれていることになります。ですから、現実性を問題にすること自体がそもそも間違っている、というのはよく分かります。いや、自分でもそうだと思いますし。
にもかかわらず不満だと思ってしまうのは、この難点は、割合簡単に作者が解決出来たはず、と感じるからなんですよね。1つだけ要素を組み込んでおけば、ここまで違和感は感じなかったと思うんです。

これより細かいことを書くと、ネタバレとは言いませんが、勘の良い人は分かってしまう可能性があるので、追記に記すことにします。

まぁ、でも、楽しめたからいいかな。ごちゃごちゃ書きましたが、やはり、古き良き探偵小説として優れた作品だと思います。

書 名:死の扉(1955)
著 者:レオ・ブルース
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mフ-22-1
出版年:2012.1.27 初版

評価★★★★☆
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骨と髪
『骨と髪』レオ・ブルース(原書房ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

「従妹のアンが行方不明になった。財産狙いで夫が殺して逃げたにちがいない」と、歴史教師キャロラス・ディーンの前でがなるチョーク夫人。かくして依頼を受けたディーンが調査を進めるうち、次第に不可解な事実が明らかになってきた。アンとその夫・ラスボーンは一体何者なのか?軽妙で洒落たストーリーテリング、巧みで切れのある仕掛けで読者に挑む本格推理。(本書あらすじをかなり改変)

ヴィンテージ・ミステリ・シリーズを読むのは……ええと、まだ3つ目かな。単行本はなかなか手が回りません。ちなみに読んだのは、ジョン・ディクスン・カー『仮面劇場の殺人』と、A・A・ミルン『四日間の不思議』……なにそのラインナップ。

というわけで、初ブルースです。読み始めてまず思ったのは、ブルースの文章は思ったほど「軽妙で洒落たストーリーテリング」じゃないということです。いや、そうじゃないと言うと違うんですが、もっとユーモラスな会話の連発かと思いきや、笑かそう!というより、さぁ淡々と話を進めますぜ、クスッと来たかいアンタ、っていう大人しいものなんですよ。ニヤリ、ニヤリっとね。というわけで、読みやすいことこの上ないです。何となく一癖も二癖もある登場人物による会話が地の文より多いこともあって、とにかく進むこと進むこと。

で、読み終わった感想ですが……いやぁ、これは、変なミステリでしたね、ホント(笑)なかなか面白い題材だと思います。読み終わった後、またまたニヤリとしてしまうような、そういう妙な面白さがあります。
元々のあらすじを載せてしまうのはちょっとどうかと思ったので(といってそんなにネタバレというわけでは全然ないんですが)、かなりあやふやなあらすじを上には書きましたが、いや、実際、ストーリーとしてはある1つのポイントを追うだけなんですよ。ラスボーン夫妻は何者か?という点ですね。本格ミステリとしてそこまで出来が良いというわけではないと思います。トリックも、まぁ言ってみれば平凡ですしね。何と言っても、ディーン自身が認めているように、証拠が全然ないわけで、ディーンが最後に示した真相は、この説明なら筋が通る、というだけに過ぎません。

にも関わらず……もうとにかく笑っちゃうような真相でしたね、これは。何となく曖昧だった一連の出来事がピタリとはまるような感覚です。そこまでインパクトのあるミステリではないですし、どちらかと言えば地味かもしれませんが、ある程度ミステリを読んだ人にはおすすめしたいかな、という感じ。というか、これはアントニイ・バークリーみたいな(というと誇張があるか)玄人好みのミステリだと思うんですけどねぇ。

ちなみにタイトルですが……読み終わってみると、「骨」はともかく、「髪」の部分はなかなか意味深でした。さらにニヤリと。ま、これは読んでみてのお楽しみということで。

書 名:骨と髪(1961)
著 者:レオ・ブルース
出版社:原書房
    ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ
出版年:2005.9.2 1刷

評価★★★★☆