都市と都市
『都市と都市』チャイナ・ミエヴィル(ハヤカワ文庫SF)

ふたつの都市国家“ベジェル”と“ウル・コーマ”は、欧州において地理的にほぼ同じ位置を占めるモザイク状に組み合わさった特殊な領土を有していた。ベジェル警察のティアドール・ボルル警部補は、二国間で起こった不可解な殺人事件を追ううちに、封印された歴史に足を踏み入れていく……。ディック‐カフカ的異世界を構築し、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞をはじめ、SF/ファンタジイ主要各賞を独占した驚愕の小説。(本書あらすじより)

というわけで、何を血迷ったか、SF文庫に手を出してしまいました。あらすじの「ディック‐カフカ的」って何なんだよ。ってかよく考えたらこれ、人生初ハヤカワSF文庫じゃなかろーか……。ちなみに、本棚の中に、早川のトールサイズは3つしかありません。読書傾向が分かると言うもんですね、まったく。

という、かなり恐る恐る手を出した本なんですが……あ、あれ、これってSFなのかな?確かに舞台は、何というかレアな空間です。2つの都市が入り組んでおり、住民は、相手の都市の建物や人々を、たとえすれ違っても見てはいけなく、チラッとなら許容されますが、じっと見てしまうと〈ブリーチ〉行為となり、〈ブリーチ〉なる機関に捕まる……なにそれ意味分かんない。
ですが、これ、警察小説として立派に通るんじゃないでしょうか。というか、まぁミステリとファンタジー(とSF?)の融合であり、特定のジャンルに分類することは出来ないのかも。というわけで、自分はSFとかよく分かりませんので、以下、ミステリとしてこの本について書きます。

いや、かなり面白かったです。正直予想外。起こる事件やその動機は、全てこの特殊な舞台ならではのものですが、妙に説得力があります。きちんと練り込まれたプロット、意外な犯人、警察活動……と、これは良ミステリであると言わざるを得ません。SF文庫だという理由で尻込みしているミステリファンのあなた、気にしないことです。
なによりこの舞台自体も楽しめます。読者はボルル警部補と共に捜査を追うにつれ、文字通り世界が広がっていくような不思議な体験をすることになるんですよ。しかも、その世界は最初から同じ大きさなのに、です。これが何とも言えない快感なんですよね。第3章を読むと、当たり前なことなのに、何だかフワフワ浮いているような不思議な感覚を覚えた、というのは、いかに自分がこの世界に馴染んでしまったかを表すんでしょうね、たぶん。そんなにのめり込んだ記憶はないのに(笑)

面白いのは、作者がこの分裂した都市を肯定して描いていること。だからこそあの結末に辿りつくわけですが、これが妙に清々しくて良いんですよねー。またこの場所が舞台のミステリを読みたい、と思わせる魅力があります。

唯一文句を言うとすれば……舞台がバルカン半島(推定)だとかで、登場人物名があまりに馴染みのない物ばかりです。なのに何で登場人物一覧がないの……SF文庫め……。

ということで、ま、自分の好みからちょっと外れたところはありますが、なかなか貴重な読書体験でした。あらすじに引っかかるものがある人はぜひ読んでみてくださいな。損はしないはずです。

書 名:都市と都市(2009)
著 者:チャイナ・ミエヴィル
出版社:早川書房
    ハヤカワ文庫SF 1835
出版年:2011.12.25 初版

評価★★★★☆
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