黒いダイヤモンド
『黒いダイヤモンド』マーティン・ウォーカー(創元推理文庫)

警察署長ブルーノは友人のエルキュールからある問題の調査を依頼される。トリュフ市に粗悪な中国産トリュフが紛れ込んでいるというのだ。だが聞き込みを始めた矢先、エルキュールが何者かに殺害される。彼はかつて情報部に所属する伝説の秘密警察官(バルブーズ)だった。犯人はその過去を知っていたのか? 圧巻の取材力と緻密な構成、そして驚愕の真相。ベテランジャーナリストが放つ傑作!(本書あらすじより)

最近妙にはまっているマーティン・ウォーカーのブルーノ警察署長シリーズです。真相解明犯人逮捕よりも村の平和を守ることを優先するブルーノが、美食に舌鼓を打ちつつ大がかりな事件に迫る第3弾。
2作目は少し落ちたかなと思っていたんですが、今作は良かったですねー。話は大風呂敷だけど特に意外なこともなく終わっちゃうしキャラクターはテンプレだし深刻なわりに深みもへったくれもないし無理矢理大団円だしで、なんかケチはいくらでも付けられるんですが、このシリーズは読んでいて楽しいから良いのです。
毎度サン・ドニ村という小さなエリアがフランスという国の縮図となるような、根深い背景を持つ事件が扱われますが、今回はついに移民問題まで出て来ました。不正トリュフやエコロジストの問題をきっかけとして、ついにベトナム戦争絡みでベトナム人組織の大ボスまで出てきやがります。こんなに広げまくっちゃってウォーカーさん大丈夫なのでしょうか。

正直読者的にはもうついて行けないというか、これはどこまで作者の妄想なんだというか、結局村の警察官に出来る範囲だけ書いてあとうっちゃったままってのはどうなのよとか思ったり思わなかったりしますが、しかし作者さんだんだんと村レベルの問題と国レベルの問題を描くバランスが上手くなっているのではなかろうかと思います。壮大にしつつも、ちゃんと最後に無理なく村レベルでの解決を図ろうとしています(いや無理あるけど)。
村レベルの話としては、若者と大人の対比を示すシーンが多かったですね。あとトリュフ市場の話や、緑の党など選挙の話や、相変わらずブルーノがいちゃいちゃする話などがストーリーに絡みます。ここが浮いておらず、事件が大きくなろうともちゃんと村に戻ってくるところはさすが……安易な大団円ですけどね(予想出来るし)。

はっきり言ってそんなに”うまい”話じゃないんですが、こういうコージーもどきというか、気持ちよく読める作品は好きです。次作(の翻訳)にも期待しましょう。
そういや今回は読んでいて、何となく突き放した描写であるように思いましたが、これがいいのか悪いのかは今後の課題ってことで。舞台はフランスだけど作者さんがイギリス人であるせいかなと。

書 名:黒いダイヤモンド(2011)
著 者:マーティン・ウォーカー
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mウ-23-3
出版年:2013.12.13 初版

評価★★★★☆
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葡萄色の死
『葡萄色の死』マーティン・ウォーカー(創元推理文庫)

夏の終わりの夜明け前、サンドニの遺伝子組み換え作物の試験場が放火された。村でただひとりの警官にして警察署長のブルーノは、国家警察の刑事に協力し住人への聞き込みを行う。そんな折、村の青年がワイン農場の大きなワイン桶の中で死んでいるのが発見された。事故か?殺人か?放火との繋がりは?心やさしき警察署長は、村の平穏を取り戻すため不可解な事件に挑む。(本書あらすじより)

シリーズ第一作『緋色の十字章』はもう大好きでして。当然のことながら第二作も期待して手に取ってみたのです。が。
この警察署長ブルーノシリーズは、フランスの片田舎を舞台としています。小さな村ながら、そこはフランスの縮図となっていて、色々な事件が起きたりしてしまうわけですよ(たぶん)。ブルーノは、最終的に法よりも村を守ることを選んでしまうような人物。彼の選択がまた一つの見所でもあります。そして読者は、おいしいフランス料理の描写によだれを垂らしつつ、彼の事件の処理の仕方を見守っていくわけです……基本はコージーっぽい空気ですけどね。

さて第二作。あくまで個人的な意見ですが……前作よりは落ちるかな。全体的にまとまりがなく、これといって話に起伏もないまま、終わってしまったように思います。葡萄を踏むシーンがハイライト。扱っている内容は面白いのに……もったいない。
前作の登場人物がこれといって説明もなく何度も登場するなど、作者はかなりサンドニという村を作り込んでいます。ただ、その”村を描きたい”というのと”事件を描きたい”が上手くまとまっていない印象を受けます。フランス田舎風俗小説としては面白いのに、ミステリ部分との融合が雑。この点が、前作『緋色の十字章』では非常に上手くいっていたので、惜しいと感じるのかも。

主要登場人物がまぁまぁの人数いるのですが、彼らの扱いがとっ散らかっているのも残念。メインっぽい人がそのあとずーっとほったらかされたりするのはさすがにねぇ。せっかく魅力的な人間をかける作家さんなのに、こんな出したら出しっぱなしみたいな感じではもったいないですよ。
事件の起こるタイミングや、それが解かれるタイミングも何だかずれている気がします。プロット作りがあまりしっかりしていなくて、とりあえず繋ぎに飯食っときゃいいだろ、みたいになっちゃっているような。村→事件→飯→村→飯→事件、の繰り返し。380ページ、もう少し短くまとめたら上手くいったのかもしれません。

まぁ何より、「村の平穏を取り戻そうとする警察署長ブルーノ」という面白さや、真相が、前作のインパクトには遠く及ばなかったことがやっぱり大きいです。面白く読めましたが、やや消化不良。ということで皆さん、『緋色の十字章』を読みましょう(結論)。気に入った方が『葡萄色の死』を読んでいただく、ということで。

書 名:葡萄色の死(2009)
著 者:マーティン・ウォーカー
出版社:東京創元社
    草原推理文庫 Mウ-23-2
出版年:2012.11.30 初版

評価★★★☆☆
緋色の十字章
『緋色の十字章』マーティン・ウォーカー(創元推理文庫)

名物はフォアグラ、トリュフ、胡桃。風光明媚なフランスの小村で、長閑な村を揺るがす大事件が発生する。戦功十字章を授与された英雄である老人が、腹部を裂かれ、胸にナチスの鉤十字を刻まれて殺害されたのだ。村でただひとりの警官にして警察署長のブルーノは、平穏な村を取り戻すべく初めての殺人事件の捜査に挑む!英国のベテランジャーナリストが描く、清新な警察ミステリ。(本書あらすじより)

面白かったです。なんか、こういうまったりした空気のミステリって好きですねー(とすると、自分はコージー好きなのか?いや、それは違うと思う)。

副題に「警察署長ブルーノ」とありますが、村に警察官はこの人しかいないので、警察ミステリとは言えないですね。ただ、私立探偵物として見ても、ぽろぽろ証拠が集まるだけで、最後に見つかったある証拠によりフーもホワイも一気に片付いてしまうので、本格ミステリですらありません。コージーミステリかと言われると、まぁ自分はコージーミステリを全然読んでいないので分かりませんが、おそらくそれに一番近いです。ちょっと違う気はしますが。だって、コージーだと思ってこの本を手に取る人って、ほとんどいないと思うんですよ。あえてジャンルを作るなら、「おフランスど田舎ミステリ」です(笑)


事件自体はなかなか興味深いものの、そこまで出来が良いかと言われるとちょっと微妙です。さっきも言いましたが、割と解決が呆気ないんですよ。犯人当てを期待されると困ります。前半で拘留される人物がいますが、こっちはなんかやっつけで終わっちゃうし。

この本の見せ所は、そんなもんじゃないんですよ。ずばり、舞台が「おフランスど田舎」である点が重要なのです。つまり、

1、田舎の人々が伸び伸びと生活し、料理をしたりやたらと密接なコミュニケーションとっていたりする様を楽しむ

というのが、まずあります。まぁこれは予想の範囲内です。村の人々はみんな知り合いで、キャラのたったいい人ばかり。主人公のブルーノの夕食は、その調理シーンも含めてほぼ毎晩描かれているんですよ。あぁ涎が垂れる……フレンチ美味しそう……。

ところがもう1つあります。

2、ブルーノが村を守るため、フランスの法律もEUの法律も超えた「正義」を実行するのを楽しむ

これです!これがこのミステリの面白いところ。
ブルーノは、所詮村に一人しかいない雇われお巡りです。そんな彼は、(7年しかいないくせに)誰よりもこの「サンドニ」という、あのサン=ドニ大聖堂とは何の関係もない村を愛しているのです。ナチスの鉤十字が胸に刻まれていることから、事件は政治性を帯びてしまいます。彼はヨーロッパ中の注目を浴びたことで混乱に陥った村に平和を取り戻そうと、村人との協力のもと、時には法を超えた判断でもって、村を救うため尽力するのです。こうした舞台装置のおかげで、物語は独特な余韻をもって終わるのです。

ま、あらすじに興味を持った方は読んでみるといいと思いますよ。オススメです。続編の翻訳が待ち遠しいぃぃぃぃ。

書 名:緋色の十字章(2008)
著 者:マーティン・ウォーカー
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mウ-23-1
出版年:2011.11.11 初版

評価★★★★☆