時のかたみ
『時のかたみ』ジューン・トムスン(創元推理文庫)

その朝、休暇を返上して警察本部に出頭したフィンチ首席警部を待っていたのは、いささか風変わりな事件だった。かつては富をほしいままにしたアストン家。その広壮な屋敷で、同じ夜に二人の人間が自然死を遂げたのだという。不自然きわまりない状況の背後に、フィンチが見いだした意外な真相とは……。鮮やかな描写を駆使して周到な謎解きを展開する、女流本格ミステリの粋。(本書あらすじより)

アマゾンでは作者名が「ジューン・トムソン」となっていますが、東京創元社では全て「ジューン・トムスン」となっています。もう一つ創元から出ているフィンチ物はアマゾンでも「トムスン」になっているんですけどね……間違えちゃったのでしょうか。

ジューン・トムスンは、日本では主にホームズのパスティーシュで知られている人で、短編集が5冊ほど日本でも翻訳されています。『ホームズとワトスン』という、結構評判のいいホームズの伝記まで書いています。この『時のかたみ』はホームズとは何の関係もない、フィンチ警部なる人のシリーズ物に当たります。なお、アメリカでは既にフィンチなる探偵の出る小説があったとかでラッド警部になっているそうです。なんてことを。

で、この『時のかたみ』ですが……うーん、正直、そこまで面白くはありません。読んでいる間は結構楽しいのですが、解決篇があまりに腰砕け。その理由ですが、おそらく解決篇の見せ方が下手なんではないでしょうか。わざとやったのかと思えるくらい意外性を誘わずにラストが進行するんですよ。決して出来が悪いというのではなく、こう、だらだらっと終わってしまった感じです。

例えばですが、この作品では2つの事件が並列して(というほどでもないけど)進行します。80を超えたじじいの失踪&お屋敷で起きた自然死というわけで、この2つがどう関係するのだろーか、という当然の期待を持ちながら読者は読み進めていくわけですね(何の関係もなかったらそれはそれでビックリですけど)。その真相は、なるほど、まさに本格ミステリ、と叫びたいような物なのですが、そこから犯人特定までが、こう、何の証拠も提示されることもなく、ただ自白で延々と展開されるわけです。トムスンさん、そりゃないでしょう。

登場キャラクターも、ステレオタイプとまではいいませんが、あまりしっかり書かれていないように思います。後書きによると、80年代以降のフィンチ警部物は、彼の恋愛話が徐々に進んでいく様が見物で、その微妙な人間関係がよく書けているそうです。そうなのかもしれませんが、いきなり1989年の、彼の1つの恋愛が終わる作品を見せられてもですね、なんとも思わないんですよ(笑)おそらく出版社さんはミステリ面を考慮してこの作品から訳し出したのでしょうが、あんまり上手くいかなかったようです。実際、フィンチ警部物はあと1つしか訳されていません。


というわけで、全体的にうーん、と言った感じでした。次読むなら、ホームズのパスティーシュを読みたいですね。フィンチ警部物『追憶のローズマリー』は……感想がのる日をあまり期待しないでください。

なお、この本の表紙を書いた人は、この間読んだモーリス・ルヴェル『夜鳥』の表紙と同じ、フジワラヨウコウさんだそうです。『夜鳥』のあのよく分からん表紙は大好きなんですよね。

書 名:時のかたみ(1989)
著 者:ジューン・トムスン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mト-2-6
出版年:1995.5.19 初版

評価★★★☆☆
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