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シャーロット・アームストロング名言2

2018-08

『暁の死線』ウィリアム・アイリッシュ - 2018.08.17 Fri

ウールリッチ,コーネル(アイリッシュ,ウィリアム)
暁の死線
『暁の死線』ウィリアム・アイリッシュ(創元推理文庫)

夢破れたダンサーのブリッキー。孤独な生活を送る彼女は、ある夜、不審な青年クィンと出会う。同じ町の出身だとわかりうち解けるふたり。窃盗を告白した彼に、ブリッキーは盗んだ金を戻そうと提案する。現場の邸宅へと向かうが、そこにはなんと男の死体が。彼が殺人犯にされてしまう! 潔白を証明するタイムリミットはたった3時間後。『幻の女』で名高い著者の傑作サスペンス!(本書あらすじより)

先に謝ります。今回感想がかなり長いです、すみません。
さて、大学2年の時に『幻の女』を読んで以来続けている、年に1回のウールリッチ/アイリッシュ、7回目となる今年はウィリアム・アイリッシュ『暁の死線』を読みました。例年より2ヶ月くらい遅れての開催となります。
いやー、相変わらず面白さがすごい……精神安定剤みたい(?)。アイリッシュ/ウールリッチお得意の、短編っぽいのをつないで長編にするいつもの手法がきれいに長編に溶け込んでいる上に、これまたお得意の「そんな偶然あるわけがねぇ」の連発によって、何だかテンションの高い、誰も真似のできないサスペンスになってしまいました。これは、失意の底にいるふたりの若者が、必死に敵である「ニューヨーク」という都会と闘う青春小説なのです。

田舎から出て、ニューヨークに住んでいるものの、夢破れたブリッキーとクィン。偶然出会ったふたりは、同じ町の出身であることが分かり、急速に打ち解ける。しかしクィンは、殺人事件に巻き込まれてしまった。真犯人を見つけ、疑いを晴らし、そしてこのニューヨークを出る始発バスに乗ろうと決めたふたり……タイムリミットは午前6時。真夜中から早朝までの必死の捜査行が始まった!!

ブリッキーとクィンが勝手に設定したタイムリミットは、朝6時のバスに乗るまでに殺人の濡れ衣を晴らさなければならない、という、何だかよく分からないもの。なぜこのバスに乗らなきゃいけないかというと、これを逃すともうニューヨークから出ていくという意志がくじけてしまうから。えっ明日のバスに乗ればいいじゃん!無理して4時間で謎をとかなくてもいいじゃん!とか、思ったら負けだし、思わせたら負け、という、ある意味めちゃくちゃつなわたりな小説なのです。
ところが、これを出来てしまうのが、アイリッシュ/ウーリッチのサスペンスであり、語りの良さなわけです。もうだって、読んでいる間「うおおおお6時を過ぎると都会に殺されるぅぅぅぅ!!!」みたいな気分にさせられるんですよ。意味分かんない(褒めてる)。「彼は風雨にさらされたスーツケースを提げていた。たいして重くはなかった。ほとんどなにもはいっていなかった――砕けた希望くらいのものだった。」……か、カッコイイ。

ところで、ウールリッチ/アイリッシュの、筋立ての上手さというか、ストーリーの強さというか、サスペンスを生み出すための設定というか、このへんのオリジナリティって、到底真似できないものな気がします。タイムリミットだとか復讐譚だとか、一見シンプルなだけにいかにもありそうな感じに見えますが、どうやってその状況を生み出すか、という点において話作りのセンスがずば抜けているのです(惜しむらくは、話の畳み方がたまにアレなことですが、2作くらい読んだあたりから気にならなくなってくるので無視)。
で、今回作者が用意したサスペンスは、深夜2時に殺人現場からスタートして手がかりを追い、6時までに犯人を見つけるというストーリー。これ、冷静に考えると、そもそも成り立たせるのがすごく難しいはず。一般人である若き男女二人が、現場に残された手がかりと夜中に開いているお店だけで、犯人にたどり着かなければならないわけですから。みんな寝てるよね、普通。
ところがこれを難なく書けてしまうのがすごいんです。しかも、読めば分かりますが、ダミーの手がかりと犯人を合わせれば、4種類の捜査の道筋が描かれています。名探偵顔負けの現場検証と名推理、ガチのハードボイルド顔負けの聞き込みが、様々な形で読めるのが『暁の死線』なのです。
ちなみに、本書はアイリッシュ/ウールリッチの中では比較的トリッキーじゃないというか、素直なサスペンスで、むしろ長編をどう構成するかにきちんと力を入れている作品だと思いますが、やっぱり恒例の謎のフェイントみたいのは入れてきましたね……想定通りではあるし、別にびっくりさせるものではないんですが、ハラハラさせた際のこの作者の解決方法ってちょっと特殊だよな……。

色々な点から語りましたが、大前提としてこれはブリッキーとクィンによる、都会との闘いを描いた青春小説(恋愛ではない)である、という点にこそ素晴らしさがあるので、読まねば伝わらないと思います。そもそも文体に寄るところも大きい作家なので、未読の方には上手く雰囲気が伝えられないし……。個人的には、もっと好きなウールリッチ/アイリッシュ長編もありますが、『暁の死線』は間違いなく良い作品です。現役本なので、ぜひぜひ。
それにしても、毎年恒例ウールリッチ、楽しすぎる……。未読長編はあと10くらいあるし、短編集もめちゃくちゃたくさんあるので、このまま年1冊ペースをキープすればあと20年は楽しめるはず。頑張ります。

原 題:Deadline at Dawn (1944)
書 名:暁の死線
著 者:ウィリアム・アイリッシュ William Irish
訳 者:稲葉明雄
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mア-1-1
出版年:1969.04.25 初版
     2002.04.12 29版

評価★★★★☆
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『ホワイトコテージの殺人』マージェリー・アリンガム - 2018.08.16 Thu

アリンガム,マージェリー
ホワイトコテージの殺人
『ホワイトコテージの殺人』マージェリー・アリンガム(創元推理文庫)

1920年代初頭の秋の夕方。ケント州の小さな村をドライブしていたジェリーは、美しい娘に出会った。彼女を住居の〈白亜荘(ホワイトコテージ)〉まで送ったとき、メイドが駆け寄ってくる。「殺人よ!」ジェリーは、スコットランドヤードの敏腕警部である父親のW・Tと捜査をするが……。英国本格の巨匠の初長編ミステリにして、本邦初訳作。ユーモア・推理・結末の意外性──そのすべてが第一級!(本書あらすじより)

あちこちでこの作品が褒められているのを見て、もうクラシック読むのやめようかなとすら思い始めています。それくらい、しんどい……というよりイライラするミステリでした。きっつい。

クリスティーと並ぶ英国女流ミステリ作家であるマージェリー・アリンガムが、1928年に書いたミステリとしてのデビュー作。素人探偵アルバート・キャンピオンはまだ存在せず、スコットランドヤードの敏腕警部W・Tが探偵役を務めます。誰からも嫌われていた男が屋敷の中で殺されます。事件の起きた瞬間、たまたま現場の近くにいたジェリーは、父親である警部W・Tに連絡を取り、真相を探ることにしますが……。

親子探偵もの、ではなく、探偵役はあくまで父親のW・Tのみです。息子はワトスン役。クイーンの逆。
会話のたびに地の文がいちいち入るような小説の未熟さとか、お寒い会話とか、容疑者への恋に荒れ狂うワトスン役とか、感情的なことしか言わないワトスン役とかへのイライラとかがあって、うーん何だっけこのムカつく読み心地、と思ったら、クリスティー初期作に感じるアレでした。『ゴルフ場殺人事件』とか『邪悪の家』とかの。
嫌われ倒していた人間が殺され、容疑者は次々と被害者への恨みつらみを述べるというあたりは黄金時代っぽさ満載ですが、そこまで「殺人」が記号化・パズル化されていません。妙にリアリティがあったり、容疑者扱いされることへの辛さやらがぶちまけれたりするあたりは、クリスティー流のミステリとは大きく異なります。1920年代にイギリスで出たミステリを踏まえた上で、アリンガムが書きたかったものがこういうものだった、ということでしょう。

さて、黄金時代らしく本格ミステリとして見てみると、まぁこれがひどいんです。中途半端にアリバイチェックや現場検証などもされますが徹底はされず、基本的には動機と話の整合性による犯人追求が行われます。
いや別に、自分だって、「1928年」の「アリンガム」のミステリ「デビュー作」に、ガッチガチの本格っぽさを求めているわけではないですよ。そもそもアリンガムってそういうタイプじゃないし。ただ、黄金時代を踏襲していて形だけはザ・本格なだけに、この不十分さが気になるんです。ミステリを茶化したいが故の中途半端さなのか、それともアリンガムがとっちらかった冒険を書きたかったが故の中途半端さなのかが、よく分かりません。
で、甘い謎解きにもやっぱり限度ってあるじゃないですか……。誰もが秘密を隠していて、それが読者の想像通りで、数十ページ後には隠していたことも即書かれて、Aさんが隠していたことを警察に話したあとに同じ内容をBさんが警察に隠すまどろっこしい尋問があって、みんなが警部の厳しい眼光を受けて最終的に警察に全部ペラペラと話すんですよ。なんなんだこれは。

色々な点で某作家を先取りしており(ネタバレなので伏せます)、偶然ってすごいなぁと思えるのが本書の一番面白い点ですが、どうにも素人っぽさというか同人っぽさが抜けきれていません。悪い意味でのデビュー作かなぁと思います。

原 題:The White Cottage Mystery (1928)
書 名:ホワイトコテージの殺人
著 者:マージェリー・アリンガム Margery Allingham
訳 者:猪俣美江子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mア-12-5
出版年:2018.06.29 初版

評価★★☆☆☆

『『風と共に去りぬ』殺人事件』ジャックマール=セネカル - 2018.08.16 Thu

ジャックマール&セネカル
『風と共に去りぬ』殺人事件
『『風と共に去りぬ』殺人事件』ジャックマール=セネカル(PLAYBOY BOOKS)

(あらすじなし)

『『そして誰もいなくなった』殺人事件』はやっべぇミステリだぞ、という話をかれこれ6年くらいし続けているのですが、いまだに読まれていなさすぎると思うのです(裏のあらすじを見ずに読むこと推奨)。みんなこういう頭のおかしいミステリを読みたいんじゃないの?
というわけで、「バカミスを読みたい」、そんなあなたにおすすめしたいのがこちら! ジャックマール&セネカルの『『そして誰もいなくなった』殺人事件』、およびその続編『『風と共に去りぬ』殺人事件』です! バカです! すごくバカです!
今回も、読んですぐ分かるこのバカっぷりに、紛れもなく同じ作者の作品だと分かります。最終的に今回も10人くらい死んだし、衝撃的な動機と犯人に笑いしか出ません(妙にしっかりとした問題提起がマジメすぎてそぐわない)。前半こそ退屈ですが、後半の異様なテンポでの7人連続殺人事件がすごすぎたので許します。

『風と共に去りぬ』の続編の映画制作が決定。前作で有名人となり、名探偵としての知名度を得た主人公たちは、とある依頼を受けて一路ハリウッドへ。めきめき殺される主演女優、プロデューサー、以下略。何者かが続編制作に反対しているようだが……果たして犯人は?

ハリウッドを舞台にした作品は多々あれど、これだけぶっ飛んだ動機と事件を描いたものはないんじゃないでしょうか。ゲイ・コミュニティが盛んに描かれるのも、このシリーズらしくて面白いです。現在のハリウッドに遠慮なく切り込むかのような頭のおかしい展開も、これはこれである意味すごい……。
前半は、まとまりのない展開やら覚えられない登場人物やらで、あーなんか『エーミールと探偵たち』の続編みたいだなぁ(つまり前作を生かせていないダメなタイプの続編だなぁ)などと思っていたんですが、途中から急に作者が本領発揮してきて面白くなりました。「多すぎる登場人物はどうせ死ぬから覚えなくても良い」、それがジャックマール&セネカルの基本ルールなんだぜ、覚えておきな!

執筆途中でイヴ・ジャックマールは亡くなったらしいので、おそらくこのシリーズはこれで終わりです。個人的には前作『『そして誰もいなくなった』殺人事件』こそ読まれてほしいですし、だいたいこの『風と共に去りぬ』の方が文庫化しなかったというのも、まぁ納得でしかありません。けど、うぅむ、嫌いじゃないんだなぁ。面白いか面白くないかで言えば、むしろ面白くないんですけど、なんかこう、やべぇの読んだ感は嫌いじゃないっていうか。フランス・ミステリの無限の可能性……というより、ミステリに対する無限の勘違いを示すかのような、まさに「らしい」作品だと思います。

原 題:Qui a tué Scarlett O'Hara ? (1981)
書 名:『風と共に去りぬ』殺人事件
著 者:ジャックマール=セネカル Jacquemard-Sénécal
訳 者:矢野浩三郎
出版社:集英社
     PLAYBOY BOOKS
出版年:1983.06.25 1刷

評価★★★☆☆

『クロイドン発12時30分』F・W・クロフツ - 2018.08.14 Tue

クロフツ,F・W
クロイドン発12時30分
『クロイドン発12時30分』F・W・クロフツ(創元推理文庫)

クロイドン飛行場を飛び立ったパリ行きの旅客機が着陸したとき、乗客の一人、金持ちのアンドリュウ老人は息をひきとっていた。この事件から一転して、作者は犯人の眼を通し、犯行の計画と遂行の過程をまざまざと示してくれる。犯人の用意したアリバイと犯行の手段は、まったく人工のあとをとどめない。倒叙推理小説の世界的傑作!(本書あらすじより)

今月めちゃくちゃ頑張って更新していますが、何しろ、まだ7月頭に読んだ本の感想を書いているもんで……。
さて、クロフツの代表作とされる本書、どうせつまんないだろうなと思って読み始めたら、想像をはるかに超えるつまらなさでドン引きしています。こちとら、ちょっとは面白いかもって期待して読み始めてはいるんだぞ。
クロフツが現実的な事件と現実的な捜査に重きを置くがゆえに、クロフツ・ミステリと倒叙ミステリの相性が悪すぎて笑えます。もっと面白いクロフツはいくらでもあるから……あ、でも、『製材所の秘密』はこれよりつまらなかったか……。

ストーリーは、金持ちの叔父を殺す話。クロイドン発12時30分の飛行機で(読むまで電車だと思ってました)、実際に叔父が殺されるシーンからまず始まり、そこからさかのぼり、犯人である甥が殺意を抱いた瞬間から、実行、その後の捜査と結末までが描かれます。『叔父殺人事件』じゃん、とか言ってはいけません。

問題は、倒叙ミステリなのにもかかわらず、「こんな小さな点が証拠になって発覚してしまうとは!」とか、「実はこれが警察のワナだったのか!」みたいな驚き・面白さが皆無であることなのです。いかにも上手く行きそうな(と言いつつそうでもないけど)犯行が描かれ、安心しきっている犯人が突然逮捕される、以上。本当にそれだけ。
もちろん、現実の殺人事件の捜査って、たぶんこんなもんなんですよ。犯人からしたら殺人が発覚した理由なんて分からないし、逮捕の理由なんて小さな証拠の積み重ねでしかないので、この突然の逮捕、という捕まり方にはすごくリアリティがあります。これといって致命的なミスを犯していなくても、あらゆる角度から捜査を行って(例えば警視庁が全薬局を総当たりで調べるとか、そういう夢のない捜査です)、着実に犯人を見つけ出す警察、すごく怖い……殺人とか絶対無理……。
結局、こいつが犯人ではないか?と警察に目をつけられたら、100パー逮捕されちゃうわけです。それを着実に描いているのは良いんですが、え、それって面白いんですか、という話。
このつまらなさを現代ミステリで再演するとするなら、悦に入って殺しを繰り返していたシリアルキラーのもとに、突然警察がやってきて逮捕され、実は犯行現場に残されていたフケからDNAを特定していたことが最後に明かされて終わる、みたいな感じです。ミステリに夢も希望もありゃしねぇ。

犯人は誰か、という面白さを捨ててまで倒叙ミステリを書くのは難しいんだよ、ってなことを解説で中島河太郎氏が書いていますが、全くもってその通りとしか言いようがありません。法廷シーンだけは面白かったんだけどなぁ……すぐ終わっちゃうんだもん。
さて、今年に入って、倒叙の嚆矢である『歌う白骨』を読み、『伯母殺人事件』を読み、『叔父殺人事件』こと『クロイドン発12時30分』を読んだわけで、三大倒叙も残すところフランシス・アイルズ『殺意』のみ。せっかくなので、なるべく早めに手を付けます。

原 題:The 12:30 from Croydon (1934)
書 名:クロイドン発12時30分
著 者:F・W・クロフツ Freeman Wills Crofts
訳 者:大久保康雄
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mク-3-15
出版年:1959.06.05 初版
     1999.04.09 43版

評価★★☆☆☆

『ムッシュウ・ジョンケルの事件簿』メルヴィル・デイヴィスン・ポースト - 2018.08.13 Mon

ポースト,M・D
ムッシュウ・ジョンケルの事件簿
『ムッシュウ・ジョンケルの事件簿』メルヴィル・デイヴィスン・ポースト(論創海外ミステリ)

アメリカ合衆国大統領セオドア・ルーズベルトも愛読した作家M・D・ポーストによる短編集が遂に完訳! プロットの巧みさとサプライズ・エンディング! パリ警視総監ムッシュウ・ジョンケルが、アメリカ、フランス、イギリスを舞台に謎に挑む!(本書あらすじより)

「大暗号」 The Great Cipher (1921)
「霧の中にて」 Found in the Fog (1913)
「異郷のコーンフラワー」 The Alien Corn (1913)
「失明」 The Ruined Eye (1913)
「呪われたドア」 The Haunted Door (1913)
「ブルッヒャーの行進」 Blücher's March
「テラスの女」 The Woman on the Terrace (1922)
「三角形の仮説」 The Triangular Hypothesis (1921)
「五つの印」 The Problem of the Five Marks (1922)
「鋼鉄の指を持つ男」 The Man With Steel Fingers (1921)
「まだら模様の蝶」 The Mottled Butterfly (1921)
「ルビーの女」 The Girl With the Ruby (1918)

アブナー伯父シリーズで有名なポーストの短編集。ポーストはクイーンの定員にも選ばれている『アンクル・アブナーの叡智』『ランドルフ・メイスンと7つの罪』が代表作品とされていますが、他にも数多くの探偵を生み出し、短編集を発表しています。今回論創から出たこのムッシュウ・ジョンケルは、『暗号ミステリ傑作選』に収録されている「大暗号」などで有名な、パリ警視総監という肩書を持つ名探偵……だそうです。自分、「大暗号」を聞いたこともなかったもんで……。
『ランドルフ・メイスン』は1896年、『アンクル・アブナー』は1918年発表なのに対し、『ムッシュウ・ジョンケル』は1923年(初出は1913~1922年)なので、比較的後期のポースト作品であるのは意外。ポーストが50歳前後に書いた短編が主となります。

ジョンケルはフランスの警視総監という立場ですが、時にはインターポール的な国際的な捜査官として、時には貴族のもめ事解決人として、多種多様な姿を見せるキャラクター。舞台となるのも、フランスばかりでなく、イギリスからアメリカまで様々。最初から登場し、積極的にコロンボのような活躍をする話もあれば、物語の最後の最後にルパンのように登場する話もあります。
事件は、イギリスの貴族のスキャンダルから、殺人、スパイ、強盗、暗号などこれまた多岐にわたりますが、20ページほどかけて事件が語られた後、実はこういうことだったんですよ!と全部ひっくり返すようなサプライズが多いので、本格味は基本的には薄め。クラシック・ミステリとして悪くはないのですが、短めの短編の中で、何が起きているか分からないままモヤモヤと読まされた後に、サプライズ・エンディングを唐突に仕掛けられる、という構成があんまり好きじゃないんだよなぁ。似たパターンの話が多く、焼き直し感がぬぐえないのもマイナス。

犯人と対決するパターンの話が多いのは、コロンボの倒叙みたいな様式美だと思えば、まぁ許せます。美女の登場する詐欺ものも、まぁ様式美みたいなもんか……。とは言え、国際人としてのムッシュウ・ジョンケルが“世界中で活躍する”という点以外、個性らしい個性がジョンケルにないので、名探偵としての魅力は(現在の視点では)アブナー伯父には完敗でしょう。
むしろ、ストーリーテラーとしてのポーストの持ち味が大いに発揮されるのが、この国際的捜査官としてのジョンケルを描いた話ではないでしょうか。ただ、アブナーのような、人情味を前面に出したストーリーとはかなりタイプが異なります。もっと大がかりだったり、エキゾチックさだったり、恋愛が絡んだりするもの。どちらが好きかは……好みによるけど、やっぱりアブナーの方が好きかなぁ。
ベストは「霧の中にて」「失明」。2つともコロンボ的な倒叙もの(犯人とは明示されていないけど、犯人との対決ものとして倒叙と考えた方が分かりやすい)で、犯人をいかにして引っ掛けるか、というトリックがきれいにはまっています。

ただまぁ、ザ・クラシック・ミステリ好きのための短編集ですので、アブナー伯父好き!という方が読めば良いのではないでしょうか。あぁあの「大暗号」の!となる人って、どれくらいいるのかなぁ……。

原 題:Monsieur Jonquelle, Prefect of Police of Paris (1923)
書 名:ムッシュウ・ジョンケルの事件簿
著 者:メルヴィル・デイヴィスン・ポースト Melville Davisson Post
訳 者:熊木信太郎
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 209
出版年:2018.04.30 初版

評価★★★☆☆

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ヨッシー

Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の新社会人が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から7年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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バゼル,ジョシュ (1)
バー=ゾウハー,マイケル (1)
ハーディング,フランシス (1)
バトラー,エリス・パーカー (1)
ハナ,ソフィー (2)
バーナード,ロバート (3)
バーニー,ルー (1)
バニスター,ジョー (1)
ハーパー,ジェイン (1)
パーマー,スチュアート (1)
ハミルトン,エドモンド (1)
ハミルトン,スティーヴ (1)
ハメット,ダシール (2)
パラニューク,チャック (1)
バランタイン,リサ (1)
ハリス,トマス (1)
バリンジャー,ビル・S (3)
ハル,リチャード (1)
パレツキー,サラ (1)
ハンター,スティーヴン (2)
ビガーズ,E・D (4)
ピカード,ナンシー (1)
ヒギンズ,ジャック (1)
ピース,デイヴィッド (1)
ピーターズ,エリス (3)
ビッスン,テリー (2)
ビネ,ローラン (1)
ビバリー,ビル (1)
ビュッシ,ミシェル (1)
ヒラーマン,トニイ (2)
ピリンチ,アキフ (1)
ヒル,トニ (2)
ヒル,レジナルド (3)
フィツェック,セバスチャン (2)
フィックリング,G・G (3)
フィッシュ,ロバート・L (4)
フィッチュー,ビル (1)
フィニイ,ジャック (4)
フィルポッツ,イーデン (2)
フェイ,リンジー (1)
フェラーズ,エリザベス (5)
フェルナンデス,ドミニク (1)
フォーサイス,フレデリック (1)
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ブラウン,カーター (7)
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ブラックバーン,ジョン (1)
ブラッティ,ウィリアム・ピーター (1)
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