フランクを始末するには
『フランクを始末するには』アントニー・マン(創元推理文庫)

フランク・ヒューイットは芸能界の大スター。彼が死ねば、トリビュート番組や伝記映画などで業界は大もうけできる。殺し屋の“わたし”はフランク殺しを依頼され……。二転三転するスター暗殺劇の意外な顛末を描き英国推理作家協会短篇賞を受賞した表題作のほか、刑事の相棒として赤ん坊が採用され、殺人事件の捜査を行う「マイロとおれ」、日々の買いものリストだけで構成された異色作「買いもの」、ミステリ出版界の裏事情を語るゴーストライターものの一篇など多彩な12作を収録。奇想とユーモアにあふれた傑作短篇集をお楽しみください。(本書あらすじより)

うぅん……面白いんですけどねぇ。パンチが足りないというか、捻りが足りないというか。自分が知っている中ではジャック・リッチーに似た味わいなんですが、それよりは一回り落ちるかな、と。

全体的には一般的なクライムノベルっぽい短編が多めです。ちょっと捻りが物足りないかもですねぇ。予想通り、予定調和的に話が進んでしまうというか。ちょっとありえないような奇想世界が舞台である「緑」ですら、こちらの想像を上回る展開があるわけではありません。ある程度、意外性を作ろうという雰囲気が見えるだけに、これは残念です。
ただ、なかなか独創的なお話が多く、そういう意味では楽しめるというのも事実。個人的には、意外性十分の「エディプス・コンプレックスの変種」、アイデアが素晴らしい「買いもの」、不充分な心情描写に優れた「契約」が良かったです。それ以外は……まぁ標準か、ちょっと下、くらいでしょうか。やはり、もうちょっと頑張って欲しいですね。

「マイロとおれ」Milo and I
赤ん坊が捜査に参加するという謎の世界が舞台。これといった感想が思い浮かばない……。

「緑」Green
あらゆる雑草を敵視する世界が舞台。このラスト、ビジュアル的にものっすごく訴えかけてくるものがあるんですよ。なかなか面白い作品だと思います。

「エディプス・コンプレックスの変種」The Oedipus Variation
チェスの必勝法を学ぶ男の物語。これはしてやられました。読んでいてむかつくような描写が延々と続いた後、ラストにふわっとひっくり返すこのやり方は実にお見事です。

「豚」Pigs
豚をペットとして買う金持ち夫婦の話。これは……うぅ、ちょっと苦手です。なんというか、グロい。

「買いもの」Shopping
延々と買い物メモだけで構成された短編。面白いこと考えますねぇ。もうちょっと面白くならなかったのかしら(こら)。こういう展開に持って行くということが、アントニー・マンの善人っぷりを表すのでしょうか。

「エスター・ゴードン・プラムリンガム」Esther Gordon Framlingham
死亡した有名作家の代作を頼まれた四流小説家の話。面白いとは思うんですが、なぜかピンと来ずに読み終わってしまいました。うぅん。

「万事順調(いまのところは)」Things Are All Right, Now
ふと、因縁の相手に出会った男の話。このラスト、すっごく良いです。主人公のドライさ、どうでもいいと思いながらも、密かな恨みが切々と感じられます。

「フランクを始末するには」Taking Care of Frank
なかなか死なない有名人を暗殺する話。楽しいんですが、どうも意外性が足りないのでは、という気がします。あと、もっと皮肉っぽく描いた方が良かったかなぁ。

「契約」The Deal
ある契約をかたくなに辞退する男の話。どうということはない話ですが、それでもお気に入りです。ただ一徹さを示すだけで、こうも感情を示せるのか、というのは驚きです。

「ビリーとカッターとキャデラック」Billy, Cutter and the Cadillac
ダイエット出来るかを賭けた男の話。割合予想通りに噺は進むのですが、「運転免許」の文が出たとたん、ぬあっと思いました。

「プレストンの戦法」Preston’s Move
チェスの必勝法を見つけたと主張する男の話。まぁ、何ですか、面白いですが、それ以上でもそれ以下でもないです。

「凶弾に倒れて」Gunned Down
父親を殺された男の話。こういう復讐法で短編を作る、というのが上手いですね。最終話としての余韻も十分です。

書 名:フランクを始末するには(2003)
著 者:アントニー・マン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mマ-24-1
出版年:2012.4.27 初版

評価★★★☆☆
ウッドストック行最終バス
『ウッドストック行最終バス』コリン・デクスター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

夕闇の迫るオックスフォード。なかなか来ないウッドストック行きのバスにしびれを切らして、二人の娘がヒッチハイクを始めた。その晩、娘の一人が死体となって発見された。もう一人の娘はどこに消えたのか、なぜ乗名り出ないのか?次々と生じる謎にとりくむテムズ・バレイ警察のモース任警部が導き出した解答とは……。魅力的な謎、天才肌の探偵、論理のアクロバットが華麗な謎解きの世界を構築する現代本格の最高傑作。(本書あらすじより)

というわけで、デクスター再読作戦を決行。月1ペースで読めたらいいなぁ。ちなみに本書の初読は高1の夏休み。図書委員が夏休みに読んだ本、として書く感想でこれを選んだんでした。当時からどんだけアレな子だったのか。

さて、モース警部初登場なわけですが、いやはや、デビュー作からしてすごいですね。本格ミステリとして一級品だと思います。

デクスター作品は、基本的に犯人が誰だかすぐに忘れてしまいます。プロットがあまりに二転三転してしまうため、誰が犯人だったかどうでもよくなってしまうというか。ただ、『ウッドストック』は例外的に犯人の印象が非常に強いため、その点ではインパクトのある作品です。まぁ、それ以外の要素は完全に忘れていたので、十分楽しむことが出来ましたが。
ただ、シリーズ第一作ということもあり、「二転三転するプロット」と形容するほど複雑ではない気がします。モースの妄想推理は割合大人しめ。この後の数作品の方が格段にややこしいです。そういう意味では、まだシリーズの特徴がしっかり出ていない、と言えるのかもしれません(他にも、ディクスン刑事がまだドーナツを食べてない、とか)。

とはいえ、本格ミステリとして文句のつけようのない出来栄え。いくつも偽の手掛かりやら関係ない事項やらがばらまかれているため、読者は見事に煙に巻かれてしまいます。緻密な伏線と綿密なロジックにより犯人が特定できる――というタイプの作品ではないんですが、それでもいくつか明示的な手掛かりがしっかり用意されています。登場人物の証言に含まれた嘘による騙しのテクニックはトップクラスです。

ま、それもありますが、自分がこのシリーズを好きな一番の理由は、モースのキャラクター、および作品全体に漂うほのかで上品なユーモアです。クスッと笑えるポイントが実に面白いんです。デクスターは( )やダッシュを多用していますが(作中で自虐的な批判があったような)、この使い方がもうまさに自分のツボに入っているというか。やっぱりデクスターは好きだなぁ。そしてイギリスに行きたい……。

というわけで、今月から順に読んでいく予定です。次作は『キドリントンから来た娘』。初読時はイマイチでしたが、今読むとどうなのか……。

ところで、ルイスって、モースの数歳上だったんですね……今回読んでいて一番驚いたのがそこでした、はい。

書 名:ウッドストック行最終バス(1975)
著 者:コリン・デクスター
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 148-1
出版年:1988.11.15 1刷
    2002.4.15 14刷

評価★★★★☆
隠し部屋を査察して
『隠し部屋を査察して』エリック・マコーマック(海外文学セレクション)

7月7日、日曜日、午前6時。北緯52度、西経108度に位置するカナダのある町から、それは始まった。地上に巨大な亀裂が出現し、幅100メートル、深さ30メートルの溝を残しながら、時速1600キロの猛スピードで疾走しはじめたのだ。西に向かって、触れるものすべてを消滅させながら……。不可解な現象が世界じゅうに巻き起こす大騒動の顛末を淡々と語る「刈り跡」、全体主義国家のもと“想像力の罪”を犯し〈隠し部屋〉に収容された人々を描く表題作など、20の物語を収録。小説の離れ業を演じ続けるカナダ文学の異才の、ユーモアとグロテスク、謎と奇想に満ちた〈語り〉と〈騙り〉の短編集。(本書あらすじより)

目次
「序文」
「隠し部屋を査察して」
「断片」
「パタゴニアの悲しい物語」
「窓辺のエックハート」
「一本脚の男たち」
「海を渡ったノックス」
「エドワードとジョージナ」
「ジョー船長」
「刈り跡」
「祭り」
「老人に安住の地はない」
「庭園列車 第一部:イレネウス・フラッド」
「庭園列車 第二部:機械」
「趣味」
「トロツキーの一枚の写真」
「ルサウォートの瞑想」
「ともあれこの世の片隅で」
「町の長い一日」
「双子」
「フーガ」
「謝辞」

……やー、これはすごいです。適当な褒め言葉がちょっと見つかりません。

この手のはほとんど読まないのでよく分かりませんが、いわゆる奇想系の短編集、といえばいいのかな。描かれる世界はまさにエロくてグロくてナンセンス。正直言ってちょっと苦手な感じです。グロとか普通なら絶対ダメ。
にもかかわらず、ものっすごい引き込まれてしまうんです。明らかに現実的ではない、ファンタジックでSF的な世界で繰り広げられる不条理の数々。それらの詳細・顛末を見たいがために、着々とページをめくってしまいます。
その理由は、おそらく作者が主観・感情を物語に全く差し挟んでいないから、ではないでしょうか。何が起ころうとも、その描かれ方は極めて客観的で冷淡。淡々とした筆致がブラックユーモアを誘い、読者にいわく言い難い魅力を感じさせている、というか。これは、訳者の増田まもるさんによるところも大きいでしょうね。

興味深いのは、そうした不条理をただ描いているのみで、ラストにあっと驚く展開を入れることが全くない、ということですね。人によっては、話が予定調和過ぎてつまらない、という感想を抱くかも。たぶんマコーマックさんは、サプライズには興味がないんですよ。自分の思い付いた変態的世界をただ文字に表したいというだけ。うぅん、なんかカッコイイな。

ベストは「一本脚の男たち」「ジョー船長」「刈り跡」でしょうか。第2夜の気持ち悪さが印象的な「祭り」も捨て難いですね(好きかはともかく)。後半の方が、文学的で難解な作品が多い気がします。ピンと来ないのもいくつかありました。なお一番ミステリ(クライム?)っぽいのは、ラストの「フーガ」でしょうね。

とにかく、一度読んでみてはいかがでしょうか。気に入るか気に入らないかはともかく、なかなか面白い読書体験になると思います。というか、世の中にはこんな本がいっぱいあるんだろうなぁ。まだまだ勉強不足です。

書 名:隠し部屋を査察して(1987)
著 者:エリック・マコーマック
出版社:東京創元社
    海外文学セレクション
出版年:2000.7.25 初版

評価★★★★☆
自殺の殺人
『自殺の殺人』エリザベス・フェラーズ(創元推理文庫)

嵐の夜、ジョアンナの父が身投げを図った。偶然通りかかった青年たちに取り押さえられ、その場は事なきを得たものの、彼は一切動機を語らぬまま、翌朝、秘蔵の拳銃によってこの世を去った。突然の父の死に思い悩む娘に対し、警察は他殺の可能性があることを告げる。彼女は妄想のように脳裏を離れぬ疑惑に苦しみ、前夜父を助けてくれた青年、トビー・ダイクに助けを求めた。はたして、これは自殺に見せかけた他殺なのか、それとも、その反対なのか?真相を巡って推理は二転三転する。英国の巨匠エリザベス・フェラーズの傑作本格ミステリ第二弾。(本書あらすじより)

第二弾というのは紹介順で、シリーズとしては第三作にあたります。
いやしかし、『猿来たりなば』も面白かったですが、これはそれ以上ですね。非常に出来のいい本格ミステリだと思います。ちなみにユーモア度合いはそんなに高くありません。

終始、果たして自殺か、それとも他殺か、ということが問題となります。これ自体は割とあるネタなんですが、前日の自殺未遂(この状況もうさんくさい)、被害者(?)の当日の曖昧な行動、関係者の偽証に次ぐ偽証、などの要素を極めてバランス良く配置することで、真相がとてもつかみにくいものとなっています。これが実に上手いんですよ。あくまで問題はシンプルでありながら、ひねくり回して長編に出来るくらいの手掛かりを置くことに成功しています。

そして最後の真相の提示の仕方がまた上手いんですよねぇ。この手のミステリって結構型が決まっていて、「実は殺人でした」→「実は自殺でした」→……の無限ループによって二転三転させていくため、だんだんひっくり返しに驚けなくなってしまう、という問題があります。ところが作者は、まぁ何と言うか、調度良いところにクッションを置いたわけですよ。そのおかげか、素直にラスト驚くことが出来ました。というか、このシリーズを読んだことあるんだから、どんでん返しに気付けても良さそうなものなのに(笑)

というわけで、オススメです。古き良き英国本格ミステリの一品。ちなみに英国新本格世代ということもあり、黄金時代の作家とはやはり明らかに何か違いを感じるのですが、上手く言語化出来ません。今後の課題と言うことで。

書 名:自殺の殺人(1941)
著 者:エリザベス・フェラーズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mフ-13-2
出版年:1998.12.25 初版
    2000.9.8 3版

評価★★★★☆
マシューズ家の毒
『マシューズ家の毒』ジョージェット・ヘイヤー(創元推理文庫)

嫌われ者のグレゴリー・マシューズが突然死を遂げた。高血圧なのに油っこいカモ料理を食べたせいだと姉は主張するが、別の姉は検死をやるべきだと主張。すったもんだの末に実施したところ、なんと死因はニコチン中毒で、他殺だったことが判明した。だが故人の部屋はすでに掃除されており、ろくに証拠は残っていなかった。おかげでスコットランド・ヤードのハナサイド警視は、動機は山ほどあるのに、決め手がまったくない事件に挑む羽目に……。巨匠セイヤーズが認めた実力派が練りに練った傑作本格ミステリ。(本書あらすじより)

いやはや、何とまぁ。驚きました。面白いので(笑)
前作『紳士と月夜の晒し台』は、登場人物の会話は面白いけど、ミステリとしてはうぅぅむ、で、星3つ、でした。ちょっと感想を引用してみます。


これが単なる小説ではなく、本格ミステリであるならば、かな〜り不満足な作品ということになってしまうでしょうね。プロットは行き会ったりばったりのようで、伏線はほとんどなし、手がかりもほぼ皆無です。決め手の証拠はかなり良い出来だと思いますが、最後の最後に明かされても困ります(いや、一応解決シーンの前……というか直前ですけど)。著者のヘイヤーさんは、ミステリとしてはこれが処女作だそうなので、まだ書き慣れていないのかもしれませんが。


……つまり、書き慣れたのでしょうか(爆)いやとにかく、非常に良く出来た作品でした。あらゆる点が前作を上回っています。

やはり最大の魅力は、前作でもあった登場人物同士の会話、です。前作では親族が中途半端に集まっていましたが、今作では嫌われ者の家長であるじいさんが死んだことで、大勢いる遺族がやたらといがみ合います。これが面っ白いんですよ。コージーっぽいクリスチアナ・ブランドとでも言うのか(ブランド1つしか読んだことないくせに)。一人一人がはっきりと書き分けられていることもあり、彼らが右往左往して文句を言い合っている様がとにかく読ませます。
この揉め合いと同時進行で描かれるのが、某男と某女の微妙な関係の変化、です。いや、このほのめかしは絶妙ですね。こちらも読んでいてニヤニヤしてしまい、とても楽しかったです。

前作でズタボロだったミステリ面は、まぁ普通かな、というくらいですが、それでも十分水準は満たしています。家族内のごたごたにさりげなく伏線が入っている点などは、なかなか上手いんじゃないでしょうか。肝となるトリックをあえてばらした上で解決シーンに入る、という構成も良いですね(まぁただ、もう1つのある仕掛けは、さすがに分かると思いますが……)。あとは決め手の証拠さえちゃんとあればねぇ。
ちなみに死因はニコチンなわけで、登場人物たちは警察も含めて一様に「珍しいねぇ。そんなの毒になるんだー」みたいなことを言うわけですが、しかし、海を越えてニコチンは有名になってますね、早くも。

というわけでオススメです。探偵役のハナサイド警視のキャラがとてつもなく薄く、シリーズ性もそれほどでもないため、ここから読み始めるのでも十分かと。ただ、こっちを先に読むと、前作の登場人物がちょこっと出てしまうため、第1作の犯人を絞り込めてしまう、かもしれない、という問題は一応あります。だから、第1作を読まなくていいんじゃないかな(ひどい)。

書 名:マシューズ家の毒(1936)
著 者:ジョージェット・ヘイヤー
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mヘ-15-2
出版年:2012.3.23 初版

評価★★★★☆
修道院の第二の殺人
『修道院の第二の殺人』アランナ・ナイト(創元推理文庫)

煙ただよう古都、ヴィクトリア朝エジンバラ。パトリック・ハイムズは修道院で働く妻と、そこの学校の教師だった女性を殺した罪で絞首刑に処された。しかし、彼は妻の殺害は認めたが、第二の殺人は頑として否認したまま死んだのだった。彼の最後の訴えを聞いたファロ警部補は、新米医師である義理の息子のヴィンスと再捜査を始める。歴史ミステリの大家が贈る、軽快な犯人捜し!(本書あらすじより)

うぅん……ぶっちゃけ、つまらなかったです。これはもう、向き不向き・好き嫌いの問題としか。

1870年、ヴィクトリア朝のイギリスが舞台だと聞くと、これはもうディケンズ的なザ・歴史ミステリに違いない!作者もディケンズ好きらしいし!……と思ったのがそもそも間違いなんですが。少なくとも、「歴史ミステリ」としての側面に大きく期待しない方が良いですね。この時代を舞台にしたのは、何と言うか単なる雰囲気のためであり、それほど必要性は感じません。随所で「ヴィクトリア朝っぽさを楽しめた!」という感想を見かけますが、個人的にはそれほどでもないというか、当たり前ですがディケンズには勝てないというか。せめて、現代とははっきり違うような文化的側面をもっと描いてくれれば良かったのですが……。

さらに、「歴史ミステリ」ということですが、ミステリとしての側面もイマイチでした。修道院の第一の殺人が結局放置されていたり、容疑者全員の扱いが均等でなかったり、決め手の証拠が皆無だったり、と、なんかこなれてないなぁという印象を受けます。
ということで、ほとんどキャラ小説なのかなぁ、と。ただ、登場人物が割と予定調和的というか、そこまで書きこまれたものではなく、どちらかと言うとありきたり。良い意味でも悪い意味でも緩すぎるんですよ。こういう読みやすい小説を好きな人は一定層いるはずですが、個人的には好みではなかったな、ということです。

とはいえ、続編の告知がね……。スチュアート朝の歴史を覆すらしいですよ。いわば、歴史を舞台に歴史ミステリってことですよ。英国史に挑戦とか、まさに『時の娘』!うぅん、結局続編も買ってしまうのかな……。

書 名:修道院の第二の殺人(1988)
著 者:アランナ・ナイト
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mナ-2-1
出版年:2012.3.16 初版

評価★★☆☆☆
暗い鏡の中に
『暗い鏡の中に』ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)

ブレアトン女子学院に勤めて五週間の女性教師フォスティーナは、突然理由も告げられずに解雇される。彼女への仕打ちに憤慨した同僚ギゼラと、その恋人の精神科医ウィリング博士が調査して明らかになった“原因”は、想像を絶するものだった。博士は困惑しながらも謎の解明に挑むが、その矢先に学院で死者が出てしまう……。幻のように美しく不可解な謎をはらむ、著者の最高傑作。(本書あらすじより)

マクロイの代表作ですね。昨年復刊されたものです。
……うぅん、なんか、ひょっとしてマクロイは自分にあわないのかも。これで3つ目ですが、どうもしっくりこないんですよね。『幽霊の2/3』とかめちゃめちゃ評価高いですが、私的には微妙、でしたし(ただ、『家蠅とカナリア』は普通に面白かった)。

読んでいてとっても面白かったのは確かです。この本、ネタバレなしで感想を書くのが難しいんですが、あるテーマを扱っています。自分は『世界ミステリー事典』でテーマを明かされやっていたのですが、これは知らずに読む方が断然お得。というわけで、以下の感想は極めてあいまいです。

サスペンス混じりの、怪奇小説っぽい空気を含んだ、本格気味のミステリ、という味わいなのですが、どうもそれが中途半端に思えました。ラストのオチが嫌いなわけではありません。ただ、ああいう形で終わらせるなら、もっと怪奇っぽくするか、逆にきっちり証拠固めをした上で幻想味を強烈に出すか、どちらかにした方が良かったのでは、と考えてしまうんです。世評的には人気がある作品で、うちのサークルの国内読みの先輩も激賞していましたが、うぅん、なんでだろう。
とにかく、怪奇小説・サスペンスとしてはやや物足りなさを感じます。途中で遺産問題が絡んでくるなど、割と現実的側面が強いせいでしょうか。また、本格ミステリとしてはトリック・決め手の出来がイマイチ。というか、トリックはそもそもないようなものなので、補強証拠を何とかして欲しかったところ。犯人をしっかり追及した上で、あのラストなら、より好みに近かったのかも。
ちなみにキャラクターに関しては、良く書けていて悪くはないですが、とりたてて褒めるほどでもないというか。いかん、なんかネガティヴになってきた。

……というわけで、うぅん、どうして自分はマクロイを読んだ後はいろいろケチを付けたくなるんでしょ。そういうの、あんまり好きじゃないんですが……。とりあえず、『殺す者と殺される者』を読むまで、マクロイの評価は保留にしておきます。

書 名:暗い鏡の中に(1950)
著 者:ヘレン・マクロイ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mマ-12-5
出版年:2011.6.24 初版

評価★★★☆☆
えぇと、何と言いますか、予想通りTwitterにはまってしまったTYです。もうダメです。面白すぎる。

というわけで、当たり前ですが、日記の更新を全くしていません。
そして、ぶっちゃけこのブログに日記を書く意味ってないんじゃね、需要ないんじゃね、疑惑が当初からあったことを考えると、うぅむ、ここらで記事を読書感想文だけに移行するのもありかな、と考えています。しばらくは、読書感想文だけにしようかなぁと。なんか、友人のブログが、Twitterを始める毎に消滅していく理由が良く分かりました。

あ、この間作った積ん読消化グラフを載せておきます。1年ごとに、しっかり傾向が見られるのが面白いですね。いや、そんなこと言ってないで積ん読減らさないと。古本買うのも減らさないとですけど。


積ん読消化グラフ
バイロケーション
『バイロケーション』法条遥(角川ホラー文庫)

画家を志す忍は、ある日スーパーで偽札の使用を疑われる。10分前に「自分」が同じ番号のお札を使い、買物をしたというのだ。混乱する忍は、現れた警察官・加納に連行されてしまう。だが、連れられた場所には「自分」と同じ容姿・同じ行動をとる奇怪な存在に苦悩する人々が集っていた。彼らはその存在を「バイロケーション」と呼んでいた……。ドッペルゲンガーとは異なる新たな二重存在を提示した、新感覚ホラーワールド。第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。(本書あらすじより)

読書会用に読んだものです。ちなみにこの感想を書いたのは読書会の後なので、感想に他人の意見がちょっと入っているかも。

さて、ホラー小説大賞受賞作だということで、やや身構えて読み始めたんですが、ぶっちゃけそれほど怖くはありませんでした(笑)ジャンルとしてはSFミステリ、あるいはホラーミステリに分類されるのでしょうか。違いがよく分かりません。
自らのバイロケーション(リアルなドッペルゲンガー)のせいで迷惑を被る人たちが、バイロケーションによる被害をなくそうとバイロケーションと戦う……という話だと思いますが、まぁ、刻々と状況が変化するので、あらすじとしては不適当かも。

異常に読みやすい作品です。しかしまぁ、良く出来てますね。作中にある仕掛けがなされていて、読書会に参加した人は全員気付いていたんですが(えー)、自分は全く分かりませんでした。というわけで、ラストは普通に驚けました。ようやるわぁ、って感じ。
情報・手掛かりが、特に後半、小出しに提出されるのですが、これが上手いですね。読者が分かるか分からないかの際どいあたりを突きつつ、興味を引き起こさせるのに成功しています。

ただ、作者が書きたいのはやはりホラーであって、ミステリではないのだと思います。ミステリとしてきっちり見てしまうと、登場人物の行動にいくつかふに落ちない点があるなど、やや問題があります。しかしまぁ、あんまりぐちぐち言うのも気の毒というか。
ラストですが……これがいかにも「ホラー大賞らしい」というのなら、こういうのはちと苦手です。

えぇと……特に感想がないんですよ。読んで面白いのは確かですが。好んで読もうとは思わないなぁ。

書 名:バイロケーション(2010)
著 者:法条遥
出版社:角川書店
    角川ホラー文庫 Hほ-2-1
出版年:2010.10.25 初版

評価★★★☆☆
冬の灯台が語るとき
『冬の灯台が語るとき』ヨハン・テオリン(ハヤカワポケミス)

エーランド島に移住し、双子の灯台を望む屋敷に住みはじめたヨアキムとその家族。しかし間もなく、一家に不幸が訪れる。悲嘆に沈む彼に、屋敷に起きる異変が追い打ちをかける。無人の部屋で聞こえるささやき。子供が呼びかける影。何者かの気配がする納屋……そして死者が現世に戻ってくると言われるクリスマス、猛吹雪で孤立した屋敷を歓迎されざる客たちが訪れる――。スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞、「ガラスの鍵」賞の三冠に輝く傑作ミステリ。(本書あらすじより)

いやはや、これは素晴らしい。最近のポケミスはアメリカ系のぎゃぼい奴(意味不明)ばっかりだと勝手に思ってましたが、うぅむ、これは急いで前作も読まなければ。表紙変わったとか言ってすねてる場合じゃない。

全体の雰囲気は、ミステリというより、怪奇・幻想小説的。これといっておどろおどろしいわけではもちろんありませんが、「幽霊」というものの存在が非常に身近に感じられる、そんな不思議な雰囲気が全編に漂っています。これは、舞台がエーランド島だというのも大きいでしょうね。寒い感じがたまりません。「本格」度合いは違いますが、アン・クリーヴスにどことなく似た印象です。寒いですからね、こっちも。

物語としてはとにかく地味。淡々と語られ、動きの乏しい展開ですが、それでも読者を引き込むような魅力があります。ありきたりですが、人を書くのが上手い、のだと思います。作者は登場人物一人一人に相当愛着があるのではないでしょうか。老若男女、堅い人からちゃらい人まで、善人も悪人も含めて、向けられる視線はどことなく温かい……舞台は寒いけど。
特にそれを感じるのが、随所に挿入されるミルヤの手記に書かれた過去の灯台守のエピソード。基本的に悲劇的なんですが、もうなんか取り込まれるような魅力があります。こうしたエピソードによって、さりげなく自然の脅威を物語全体のモチーフとさせているのですが、上手いなぁ、まったく。読ませるじゃないですか。

本格ミステリとしての要素もあるにはありますが、まぁ、それを期待して読まない方が良いでしょうね(といいつつ、犯人の正体には結構驚きました)。悲劇的でありながら、どこか美しい世界観をぜひ味わってみて欲しいです。こりゃ急いで,謎解き要素の強いという『黄昏に眠る秋』も読まないと。

書 名:冬の灯台が語るとき
著 者:ヨハン・テオリン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1856
出版年:2012.2.15 初版

評価★★★★☆