『悔恨の日』発売

2018-04

『TN君の伝記』なだいなだ - 2018.04.22 Sun

その他国内
TN君の伝記
『TN君の伝記』なだいなだ(福音館書店)

幕府を倒したのは、世の中を変えるためじゃなかったか。足軽の子に生まれ、ルソーに学び、人間の自由をもとめつづけた思想家・TN君とはいったい誰? その歩みをたどりながら、明治という時代のおもしろさ、そして現代にまでつながるさまざまな問題について考えよう。伝記文学の楽しさを満喫できる作品。小学校上級以上。(文庫版あらすじより)

突然の児童書、おまけに伝記物。友人から読みなさい!!と恫喝されながら譲り受けたものなので、珍しく手に取ってみましたが……お、おもしれぇ……伝記なのに……。
TN君(中江兆民)の伝記ではあるのですが、TN君を通じて明治という時代を描く物語調の歴史教科書、みたいな感じ。という作者の方針は、主人公である中江兆民を徹底してイニシャルでしか表記しないことで、伝記の主人公をある種抽象化しようとしていることからも分かります。激動の時代を、日本史とは違う視点から、しかも平易に描いているこの作品が、面白くないわけがないのです。

はっきり言ってしまえば、TN君は歴史的に何かめちゃくちゃ大きなことを成し遂げたわけでもない、(ただの)思想家です。ゆえに、伝記のストーリーとしてはかなり平坦。常に時代の先を見据え、民衆一人ひとりの意識を変えることによってしか真の変化は訪れない、と(フランスの民主主義を見て)考えるTN君が、どれだけ歯がゆい思いをしていたかという、ある意味それだけの話なのです。ところが、その見せ方が非常にうまいんですよね。時々地の文で思いっきり前面に出てくる作者も効果的です。
結局何もなせないまま、時代に追いつけなくなり、事業にも失敗し、目指すものすらブレてしまうTN君が、幸徳秋水にバトンを渡す形で亡くなってしまうという、完全にダメな最後まで容赦なく読者に見せてくる作者の姿勢に好感しか持てません。情けない中江兆民を読めるのは『TN君の伝記』だけ! こういった作品を児童書として読んでいた1970年代の子供たちはすごい……今の子供たちがこれを読むと、(当時の時事ネタだった)学生運動についての記述とかは伝わらないでしょうし。

というわけで、意外と堪能してしまいました。ローラン・ビネ『HHhH』も大好きだし、もしかして自分は作者がずいずい出てくるような伝記が好きなのかも。

書 名:TN君の伝記(1976)
著 者:なだいなだ
出版社:福音館書店
出版年:1976.05.30 1刷
     1981.06.30 7刷

評価★★★★☆
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『世界名探偵倶楽部』パブロ・デ・サンティス - 2018.04.18 Wed

デ・サンティス,パブロ
世界名探偵倶楽部
『世界名探偵倶楽部』パブロ・デ・サンティス(ハヤカワ・ミステリ文庫)

1889年、世界の名探偵からなる“十二人の名探偵”クラブの総会がパリの万国博覧会に合わせて開かれることになった。名だたる探偵たちが一堂に会し、自慢の小道具や独自の探偵論を披露するのだ。しかしその矢先、フランス代表が、建設中のエッフェル塔から不審な転落死を遂げ、各国の探偵は得意の推理力を発揮せんと色めき立つ……これぞ、探偵小説の醍醐味! 古き良き黄金時代への限りないオマージュを込めた、本格ミステリ。(本書あらすじより)

『アルテミス』『くじ』と、本棚にあるトールサイズを順調に消化しているので、じゃあ全部読んじまおうぜ!と抜いてきたものです。名付けて「積ん読棚のトールサイズぜんぶ抜く」作戦。これで終わりですけど。
結構楽しみな本だったのですが……もしかして、南米系ミステリは肌に合わないのかな。アルゼンチンもチリもブラジルも合わなかったんだけど……。

時は19世紀末。探偵に憧れ、アルゼンチンの名探偵クライグに弟子入りした青年サルバトリオ。しかしある事件をきっかけに、探偵という存在そのものを理解できなくなってしまう。その頃パリでは、万博会場において、〈十二人の名探偵〉と呼ばれる世界の主要な名探偵12人が会合を行おうとしていた。クライグの代役としてパリに向かったサルバトリオは、そこでエッフェル塔建設を背景とした、「探偵」と「助手」の役割が問われる連続殺人事件に巻き込まれてしまう。

というあらすじで伝わるのか不安ですが、要するにこれはアンチミステリとか、探偵論だとか、そういったテーマのミステリなのです。19世紀末のアルゼンチン、およびパリを舞台に、「名探偵」と「助手」の役割を描き、探偵という存在に大きな疑問符を投げかける、という方向性の作品。
ですから、日本の新本格好きにはめっちゃウケそうですが、個人的には最初から最後まで淡々と物語っただけ、みたいな印象です。面白くは、ない、んだよなぁ……。〈十二人の名探偵〉というクラブに世界各地の探偵が所属している、という設定とか、探偵と助手という職業が憧れの対象であり様々な雑誌で世界の探偵が紹介されている、みたいな世界観だとか、1889年のパリ万博を舞台にしたエッフェル塔絡みの見立て連続殺人とか、めちゃくちゃ面白そうな題材は出そろっているのです(日本人探偵サカワと助手のオカノは、考えていることが後期クイーン問題丸出し、みたいな感じでちょっと笑っちゃいました)。けど、あんまり生かせてないような……。
でも、これはたぶん生かせなかったんじゃないんです。ぼんやりとしたストーリーですが、作者はこういう作品を書きたかったんだと思いますし、それはそれとして成功しているようにも思います。だからもう、しょうがねぇな、という気分ですよ、こっちは。本格ミステリに興味がある人、というより、新本格や探偵論に興味がある人だけ、読んでみれば良いのではないでしょうか。

なお、スペイン語圏ミステリというくくりで考えるなら、スペイン・ミステリとは陰鬱な雰囲気が似ているかもしれません。あと、南米系ミステリは、いずれも「探偵小説」「推理小説」という枠組みそのものをパロディ化するような作品が多い気もします(そういうのばっかり訳されているだけかも)。とはいえ、いまのところアルゼンチン・ミステリもチリ・ミステリもブラジル・ミステリも全然合わなかったので、スペイン語圏とか関係なく、単純に南米系ミステリが肌に合わないんじゃないかという気がするぞ……(メキシコは中米だから面白かったのかしらん)。

ところで、登場人物一覧の名前が間違っているのですが、こういう新本格みたいなミステリだと何らかのトリックを疑ってしまいますね。こわいこわい。

原 題:El enigma de París (2007)
書 名:世界名探偵倶楽部
著 者:パブロ・デ・サンティス Pablo De Santis
訳 者:宮﨑真紀
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 366-1
出版年:2009.10.15 1刷

評価★★☆☆☆

『くじ』シャーリイ・ジャクスン - 2018.04.15 Sun

ジャクスン,シャーリイ
くじ
『くじ』シャーリイ・ジャクスン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

毎年恒例のくじ引きのために、村の皆々が広場へと集まった。子供たちは笑い、大人たちは静かにほほえむ。この行事の目的を知りながら……。発表当時から絶大な反響を呼び、今なお読者に衝撃を与える表題作ほか二十二篇を収録。本書で描かれるのは、一見ありふれた日々の営み。そして、その被膜から滲む人間の悪意、嫉妬、嘲笑、絶望……。鬼才ジャクスンの容赦ない筆によって引き出された黒い感情の数々が、あなたの心に爪を立てる。(本書あらすじより)

I
「酔い痴れて」"The Intoxicated"(1949)
「魔性の恋人」"The Daemon Lover"(1949)
「おふくろの味」"Like Mother Used to Make"(1947)
「決闘裁判」"Trial by Combat"(1944)
「ヴィレッジの住人」"The Villager"(1944)
II
「魔女」"The Witch"(1949)
「背教者」"The Renegade"(1949)
「どうぞお先に、アルフォンズ殿」"After You, My Dear Alphonse"(1943)
「チャールズ」"Charles"(1948)
「麻服の午後」"Afternoon in Linen"(1943)
「ドロシーと祖母と水兵たち」"Dorothy and My Grandfather and the Sailors"
III
「対話」"Colloquy"(1944)
「伝統あるりっぱな事務所」"A Fine Old Firm"(1944)
「人形と腹話術師」"The Dummy"
「曖昧の七つの型」"Seven Types of Ambiguity"(1943)
「アイルランドにきて踊れ」"Come Dance with Me in Ireland"(1943)
IV
「もちろん」"Of Course"
「塩の柱」"Pillar of Salt"(1948)
「大きな靴の男たち」"Men with Their Big Shoes"(1947)
「歯」"The Tooth"(1949)
「ジミーからの手紙」"Got a Letter from Jimmy"
「くじ」"The Lottery"(1948)
V
「エピローグ」"Epilogue"

忙しくて感想書きが滞っているうちに、また10冊くらい読了本が出てしまいました。あと一週間すればちょっとは落ち着く……はず。
さて、泣く子も黙るシャーリイ・ジャクスンです。アンソロジーなどで知ってはいても、きちんと読んだことがなかった作家。で、先日『野蛮人との生活』をゲットしたので、これを機に積んでいた『くじ』を読んでみました。
いやー、もう、ひたすら心がザワザワさせられる短編ばかり。人間の(隠された)残酷さ、居心地悪さを、すくい出したりあぶり出したりしていて、大変つらい……のですが、単なるイヤミスとも違うのかなぁ。案外読みやすいのが魅力のひとつかもしれません。

とりあえず「くじ」が代表作である、というのは異論のないところだと思います。ただ、「くじ」は、短編集『くじ』の中ではかなり浮いている作品である、というのは意外でした。「くじ」は、明らかに普通ではない特殊な状況の村を描いた作品で、発表当時物議をかもしたとか。おまけに、めちゃくちゃバッドエンド。
ところが他の収録作は、非日常さが全くありません。この世界のどこでも起きそうなことが描かれており、日常に潜む人間の嫌らしさや残酷さを見せつけてくるものばかりです。だから、ある意味読みやすいんですよね。全部「くじ」みたいなキッツい作品だったら読めねぇな、と思っていましたが、「くじ」のエグさはちょっと別物です。
とはいえ、「くじ」も「くじ」以外も、描いているもの自体はあまり変わらない、というのがこわいのです。例えば、突如デスゲームに放り込まれた人間が残酷さをあらわにしても、別に意外性はありません。そのような特殊設定じゃなくても、人間はこうなんだぜ、というのをまじまじと見せつけてくるのがジャクスンの短編なのです。人間賛歌でも何でもなく、救いもへったくれもありません。うーん、人間やってらんねぇな。

「おふくろの味」は、主人公の努力が何一つ報われない、という点でめっちゃ苦手なタイプの作品ですが、印象深いです。個人的に悪童物は、ほんっとうにダメなんですが、「チャールズ」も嫌いになれません。 「曖昧の七つの型」は本好きが読んでいてこの上なくつらい作品。
という、ブラックユーモア全開の作品群の中でベスト、というか最も心に残った作品を選ぶなら、「どうぞお先に、アルフォンズ殿」でしょうか。「善意のサスペンス」の書き手であるシャーロット・アームストロングの『毒薬の小壜』だって、ちょっと書き方を変えれば、アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』になるし、シャーリイ・ジャクスン「どうぞお先に、アルフォンズ殿」になるわけですよ。酷い話だぜ。

というわけで、異色作家短篇集はやはり名作品集の宝庫なのでした。文庫化は大正解でしょう。未読の方はぜひお試しを。合う合わないは別にして、『くじ』は一読の価値ある短編集だと思います。
なお、『くじ』の本国版に収録されているのに、日本版に収録されていない作品があります。以下の3作。
・My Life with R. H. Macy
・Flower Garden
・Elizabeth
いずれも未訳でしょうか。

原 題:The Lottery Or, the Adventures of James Harris (1949)
書 名:くじ
著 者:シャーリイ・ジャクスン Shirley Jackson
訳 者:深町眞理子
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 442-1
出版年:2016.10.25 1刷

評価★★★★☆



(追記)
悪童物はめちゃくちゃ苦手なのに、なぜ「チャールズ」は読めたのかな、と考えたのですが、オチのある話として書いているからかもしれません。結末に向けて増幅していく不穏さ、みたいな話ではないので。また、「チャールズ」の持つ構造のおかげで、例えばスタンリイ・エリン「ロバート」とかクェンティン・パトリック「少年の意志」ほどはしんどくないのだと思います(後者2つは読み返したくないなぁ)。

『アルテミス』アンディ・ウィアー - 2018.04.08 Sun

ウィアー,アンディ
アルテミス 上 アルテミス 下
『アルテミス』アンディ・ウィアー(ハヤカワ文庫SF)

人類初の月面都市アルテミス──直径500メートルのスペースに建造された5つのドームに2000人の住民が生活するこの都市で、合法/非合法の品物を運ぶポーターとして暮らす女性ジャズ・バシャラは、大物実業家のトロンドから謎の仕事の依頼を受ける。それは都市の未来を左右する陰謀へと繋がっていた……。『火星の人』で極限状態のサバイバルを描いた作者が、舞台を月に移してハリウッド映画さながらの展開で描く第二作。(本書あらすじより)

どうかと思うくらい忙しいです。とりあえず、週一更新を目指します。また感想がたまってしまう……。

マイ・ベストSFは『火星の人』です、ってくらい『火星の人』が好きなのですが、その作者アンディ・ウィアーがついに第2作を発表!ということで買ってきました。
当然のように面白いし、楽しく読めましたが、残念なことに『火星の人』の方が100倍面白かったなぁ。アルテミスという月面都市を舞台にしていて、作者がその都市を描くことに夢中になっているので、前作よりもっとSF味は強いのですが、だからこそ『火星の人』の方が好きなのかもしれません。

舞台は月面都市アルテミス。アルテミスで生まれ、アルテミスで育った女性ジャズは、金のためにある犯罪に手を染める。しかしそのせいで、犯罪組織から命を狙われることに……。

と、ストーリーはいたって王道のクライム・ノベルです。相変わらずの軽口重視のユーモラスな一人称が笑わせます。どんだけ「おっぱい」ってワードが好きなんだ、この作者は。
登場人物がどいつもこいつも天才なのですが、本人たちにその自覚がなくて、何だか素の天才ワールドを見ている気分になります。『火星の人』の主人公マーク・ワトニーと同じ。これは作者のアンディ・ウィアーがそもそも無自覚な天才だからに違いありません。
終盤のミッション(犯罪小説風)は、一同勢揃いからの準備を経て作戦開始、からの想定外の事故(非人為的なもの。ミスではない)という流れで、やっぱこういうの書かせたらこの作者はむちゃくちゃ面白いですね。人為的なミスに頼らずに、サスペンスを盛り上げられるウィアーの手腕は大したものです。あと、とにかく物理的にゴリゴリ問題を解決していこうという様が、デズモンド・バグリイに代表されるような身近なもので解決しよう系冒険小説っぽいのも好き。DIY風SF(だっけ)という呼び方を解説でしてますが、すごい分かります。

というわけで別に不満はないのですが、期待しまくっていたというのもあり、全体的に小粒なのが微妙に残念。いや、事件自体は大規模だし、これはアンディ・ウィアーにしか書けないSFであり冒険小説だとは思うんですが、やっぱり物足りないのです。何かもっと突き抜けたものを読みたかったのかなぁ(うーん、言語化できない)。犯罪小説としてはストレートすぎで、捻りがなすぎなのが不満なのかもしれません(終盤の冒険小説っぽさはかなり好きだし)。
それと、この作者は一人称小説がべらぼうに上手いんですが、『火星の人』は日記形式というのが天才的だったんです。それと比べると……というのもあるかも。比べちゃいけないんですが。
でも、第3作が出たらやっぱり買うでしょう。こういう、現実的な科学路線にあり、かつユーモアたっぷりのSF作家、他にいれば紹介してほしいです。

原 題:Artemis(2017)
書 名:アルテミス
著 者:アンディ・ウィアー Andy Weir
訳 者:小野田和子
出版社:早川書房
     ハヤカワ文庫SF 2164, 2165
出版年:2018.01.25 1刷

評価★★★★☆

『ダムダム』カーター・ブラウン - 2018.04.01 Sun

ブラウン,カーター
ダムダム
『ダムダム』カーター・ブラウン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ウィラー警部は、映画のオープンセットみたいな奇妙なでこぼこの家に、おっかなびっくり乗り込んだ。ダムダム弾を撃ち込まれた男がガレージで死んでいるから来てくれと連絡を受けたのだ。その家の住人はいずれも家に劣らぬ変わり者、なんでも50万ドルもの大金を隠して刑務所入りしたギャングの家を買ったのだという。ところが、事件後間もなく、当のギャングが出所してきた。はたして始まった、目もくらむような大金をめぐるギャング同士の珍騒動! ナンセンスハードボイルドの旗手カーター・ブラウンが放つ、お色気いっぱいの痛快作!(本書あらすじより)

カーター・ブラウン、6年連続7冊目。私立探偵であるダニー・ボイドものやリック・ホルマンものから離れ、3年ぶりのアル・ウィーラー警部ものです。軽ハードボイルドの代表格であるカーター・ブラウンは、お色気、どたばたの中で、適度なしっかり目の本格ミステリを展開してくれることもあり、満足度が非常に高い作家。アベレージももちろん高め。

ところで、『ミステリ絶対名作201』の中で、瀬戸川猛資氏が本書を以下のように評しています。

こんなものを推薦した覚えはないのだ。大量のカーター・ブラウン・ミステリから代表作を選ぶとすれば、まあ『ブロンド』か『死体置場は花盛り』が妥当な線だろう。しかし、もののはずみでこれになってしまったのです。せいぜい気をつけてお読みください。アル・ウィーラー警部とポルニック部長刑事が殺人事件のあった屋敷に乗り込んでみると、身長ニメートルのブロンドの巨女とかクラゲのように体の曲がる女とか小人の老人とか奇っ怪な芸人の一団がいて、てんやわんやのドタバタ騒動に巻きこまれるお話。映画『怪物団』を想わせるゲテモノだが、カーター・ブラウン流の冗談小説の極致とも言える。「あれっ、この死体、死んでないのかな?」などという訳文がおかしいね。


つまり、本書は正統派のカーター・ブラウンではありません。変化球も変化球、どちらかと言えば異色作に近いのではないでしょうか。

脳みそ使わないで読み切れる感じは相変わらずなのですが、容疑者美女成分も一人だけ(保安官秘書は除く)だし、死体も当分はは一つだけ(通報を受けて訪問した家でダムダム弾で殺された死体を見つけるというオープニングですが、これがまた最高なんだよな)。つまり、いつもと比べてやや薄味気味なのです。
じゃあ、その代わりに作者が何に力を入れているのかと言えば、容疑者の奇人変人サーカスっぷりです。何しろ舞台は変人奇人が間借りするトンデモ屋敷。グラマー美女ではなくて、ポルニック部長刑事を物理的に振り回しぶん投げ入院させる大女が登場するわけですから、そりゃあいつものウィーラー警部ものとは異なるわけです。とは言え雰囲気だけは完全にいつもと同じ、というところが、カーター・ブラウンさすが、ってなところなのですが。

ただ、読み終わった後に、ブラウンってこんなに単純な話を書く作家だったっけ?という思いが強く残りました。やっぱり奇人変人サーカスに舵を切った結果、内容的には少々お粗末になったのかなぁ。『ゼルダ』なんかガチガチの本格ミステリだったのに。あとあんまりエロくないし(結局それ)。

というわけで、要するに早川書房の文庫化の基準がよく分かりません。HM文庫3冊の中では、『死体置場は花ざかり』が圧勝、『ダムダム』が次点だけど異色作。メイヴィス・セドリッツものの『乾杯、女探偵!』は、正直言ってアホ女探偵っぷりが21世紀にはしんどすぎるので枠外。いやもっとあったでしょ、文庫化するやつ。
ただ、何でも書けそうな作者ですので、まだまだ変化球がたくさんあるのでは、という気もしています。とりあえずカーター・ブラウンの書く変な話だったらいくらでも読んでみたい、と思ってしまっている時点で、もうカーター・ブラウンの虜になっているわけなのでした。

原 題:The Dumdum Murder(1962)
書 名:ダムダム
著 者:カーター・ブラウン Carter Brown
訳 者:田中小実昌
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 43-3
出版年:1981.03.31 1刷

評価★★★☆☆

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Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の新社会人が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から7年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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